「福島の女性と結婚しない」は差別か?~福島の女性と考える被曝と結婚と差別 | 民の声新聞

「福島の女性と結婚しない」は差別か?~福島の女性と考える被曝と結婚と差別

「福島の女性とは結婚しない方がいい」─。日本生態系協会会長の発言に対し、講演会に出席していた福島市議から反発の声があがった。発言主は釈明に奔走し「今後は発言に十分に注意する」ことで一応の決着を迎えたが、実際に福島県内では、破談の話題を多く耳にする。被曝の懸念が現実として存在する中で、果たして福島の女性との結婚をためらうことは差別なのか。福島にゆかりのある女性に意見を聴いた

【ガンになるかもしれないと人を愛してはいけないの?】

 事の発端は、公益財団法人・日本生態系協会の池谷奉文会長の発言だった。7月に都内で行った地方議員向けの講演会「第12回日本をリードする議員のための政策塾」で、「福島の女性とは結婚しない方がいい」などと発言したとして福島市議が問題視。発言の撤回を求めた。

 池谷会長は「差別する意図はなく発言は撤回しない」などとしていたが、9月4日、「福島の方々だけを特定して結婚しない方が良い、との差別的な発言を行った意図は、全くありません。しかしながら、この間の報道等の論調を見る限り、そうした差別的な部分が強調されさらに大きな誤解が生じ、県民感情を悪化させてしまった事実も十分承知しております。誤解を生じさせてしまった部分の表現につきましては誠に遺憾に思っています。今後、この様な誤解を生じさせることのないよう、発言に十分に注意いたします」とする声明を発表。市議らと和解したと公表し、発言は撤回せずに謝罪した形になった。

 これを受け、福島市出身の20代女性は「発言はもちろん差別だと思います。しかし、この問題発言を「差別だ」と発言することも差別だと思います。そして、この発言を「差別ではないか」と報道することもあまり芳しくないと私は思いました」と話す。

 「人とは違った個性を持って産まれてくる子どもたちは確実に存在しますし、結婚後ガンになる人も確実にいます。福島においてその可能性が高くなっているのも事実です。でも、彼らの存在は放射能の影響であろうがなかろうが、変わりなくこの社会にあります。では、その人たちが産まれてくることは果たして不幸なことなのでしょうか?ガンになるかも知れない人は人を愛してはいけないのでしょうか。産まれてくること、人を愛することを否定されてしまったら彼らは存在してはいけないことになってしまいます。それを口にすることもそうですが、その発言に真っ向から怒ることもナンセンスです」

 そして、こう締めくくった。「例えば、今四肢に不自由があって結婚を悩んでいる女性の目に触れたらどんな風に思うのか、想像してみてほしいな
民の声新聞-結婚差別?②
民の声新聞-結婚差別?①
今年2月、福島市内で開かれたイベントでは、若い

女性たちが将来の結婚・出産や被曝について本音

を語り合った


【原発事故で2人目の妊娠をあきらめた女性】

 「この方の発言だけ聞くとものすごく乱暴な表現だなぁと感じました。『結婚しないほうがいい』ではなくて、表現方法を変えるべきだったかと。このままの表現だと差別的発言というだけで終わってしまいます。しかし、発言の裏に何があるのかをしっかり冷静に見極めるべきです」と話すのは、須賀川市出身の30代女性。「遺伝子に影響が出るぐらいの環境が今の福島なんです。子どもの遺伝情報の解析調査を始めるというニュースも出てましたしね」。
 この女性は、原発事故がなかったら2人目の子どもを授かりたいと考えていたという。
 「友人や職場の同僚は事故後妊娠し、無事元気なベビーを出産しています。でも、私はその決断ができませんでした。事故後、私は水汲みやスーパーに並んだり、自転車で通勤したりしてたので、きっとかなり被曝してると思うのです。そんなカラダで果たして今の福島で元気な赤ちゃんを生んであけることができるんだろうか?と。たとえ生んだとしてもこの環境で元気に育ててあげる自信がありません。まだ迷いはありますが、2人目は諦めました」

 娘の身体を思うと県外避難した方が良いことは分かっている。だが、それができない現実。

 「娘には私のような思いはして欲しくないです。彼女が大人になった頃、どうなっているのか不安です。広島、長崎の時のような差別が起こったら?と考えてしまいます。被曝させないような学校生活を送らせて欲しいと切に願います」と話す。

 「福島での『もう大丈夫』モードが恐ろしくて仕方ありません。差別だ、と発言の撤回だけを求めるのではなく、差別されないように子ども達を守っていけばいい。それをしないで、経済優先、農業優先ばかりじゃないですか。言ってることとやってることが伴ってないように感じます。今の福島は安全なんじかじゃないってことをきちんを示すべきです。それを隠蔽し安全アピールばかりしてるからこういうことになるのかと思います」
民の声新聞
下校途中の小学生。「原発事故当時、福島にいた

ということで結婚してもらえなくなるのではないか」

と危ぐする親は少なくない=福島市内で


【被曝の事実から目をそらさないで】

 いわき市出身で都内に住む20代女性は「結論から言うと差別と考えます」と断言する。

 「法律上、差別とは不合理な区別です。福島の女性と結婚をためらうのは、障害児の出生を懸念するからと推測します。 障害児が生まれるのを懸念するから福島の女性を避けるとなると、障害児と健常児を区別していることになります。ここに合理性はありません」と厳しく批判する。

 一方で「差別とは何か云々の論理を排して感情論で言うと、ためらわれることもあるだろうなとは思います。 障害児を避けるのは差別としても、自分の子となれば健常児を望む人が世の大半でしょうから。差別と思うけれど、ためらうのも仕方ないだろうなという、哀しみとあきらめの混じった気持ちになりますね」と複雑な胸の内を明かした。

 福島県北地域から西日本に自主避難した女性は「高線量の地域では、これから遺伝子損傷と奇形児出産のリスクは高まるのではないかと、チェルノブイリやイラクの例から心配しています。あくまで『リスクが高まる』ですが」と福島原発事故による影響を懸念する。

 「福島はもちろんですが、福島だけでなく他の高線量の地域でも心配されることだと思います。この問題はとても話題に出しにくい、できれば否定したいと私も思いますが、チェルノブイリやイラク、広島の事実があります。皆、この事実から目をそらさずに、自分で考えることが大事だと思います。福島の人の反論、異論は当然あると思いますが、私はやはりもう一度避難について考えてほしいと思います」

  

 いわき市在住の女性は、友人の悲痛な姿を口にした。

 「彼女は5年間交際した県外の男性との結婚が破談になりました。双方の親にも会っていたのに、です。男性の親が反対したそうです。男性は間もなく別の女性と結婚。彼女は心に深い傷を負って家に閉じこもったままになってしまいました」

 福島市・飯坂温泉近くの一家は「将来、娘が結婚してもらえなくなったら困る」と近所の人に言い残して新潟県へ移住した。郡山市の女性は「馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが、娘は東京の大学に行かせて、福島出身だということは内緒にさせようかと真剣に考える」と表情を曇らせる。

原発事故は収束などしていないのだ。

(了)