「公設民営のブックカフェ」(マガジンカフェ)→図書館の定義、利用者のニーズ
「Tポイントを地域通貨に」→公平性
「排架が分かりにくい」→効率性
「図書館の今後は来年の市長選で樋渡再選が前提」→継続性
第15回図書館総合展(2013/10/29~2013/10/31)で10月30日に開催されたフォーラムを聴講してきました。
“武雄市図書館”を検証する
ニュースとなった〈武雄〉から〈公立図書館界〉がみえてくる
http://2013.libraryfair.jp/node/1653
パネリスト:樋渡啓祐(佐賀県武雄市長)
パネリスト:糸賀雅児(慶應義塾大学文学部教授)
パネリスト:高橋聡
(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社プロジェクトリーダー)
コーディネーター:湯浅俊彦(立命館大学文学部教授)
以下のまとめ、ブログ等がアップされています。他にもあるかも。
第15回 #図書館総合展
http://togetter.com/li/583064
第15回 図書館総合展『“武雄市図書館”を検証する』現地の声
http://togetter.com/li/583490
第15回図書館総合展(武雄市長樋渡啓祐登壇)参加者の声
http://togetter.com/li/583496
第15回図書館総合展(特殊市長樋渡啓祐)場内+場外の野次馬編
http://togetter.com/li/583521
慶応大学の糸賀雅児教授は嘘ばっかりという武雄市長ブログへの反応
http://togetter.com/li/583768
火薬と鋼:[イベント] 図書館総合展の「“武雄市図書館”を検証する」
http://d.hatena.ne.jp/machida77/touch/20131030/p1
熊谷弘志事務所/Office Kumagae:
“武雄市図書館の検証”についてのバトルを通して浮かび上がった課題
http://office-kumagae.com/?news=%E6%AD%A6%E9%9B%84%E5%B8%82%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%92%E9%80%9A%E3%81%97
武雄市長物語:図書館総合展でお話ししてきました
http://hiwa1118.exblog.jp/19898874/
図書館総合展/「武雄市図書館の検証」で熱い議論 | ICT教育ニュース
http://ict-enews.net/2013/10/31tosyokan/
佐賀新聞:「本のある公共空間」 武雄市図書館を検証
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2573761.article.html
以下、文中では上記の各資料を参照しています。
このフォーラムは昨年開催された第14回図書館総合展のフォーラムを受けたものです。
指定管理者制度の最前線
-地方分権時代における図書館の可能性
http://2012.libraryfair.jp/node/880
ゲスト:
樋渡啓祐(佐賀県武雄市長)
高橋聡(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)
南学(神奈川大学人間科学部教授)
コーディネーター:
湯浅俊彦(立命館大学文学部教授)
昨年は武雄市図書館の改修は完了しておらず、改修と指定管理者による管理への移行について、そのヴィジョンを語るような形になっていました。今年のパネリストの1人、糸賀教授は昨年のフォーラムでコーディネーターからの指名により、会場から「武雄市図書館の発想自体は興味深い。ただ、Tカードを組み込むことにより、行政として一企業を優遇することは問題だ。」という趣旨の発言をなさっています。
第14回 #図書館総合展 Day2 「指定管理者制度の最前線-地方分権時代における図書館の可能性」
http://togetter.com/li/411050
今年は、その糸賀教授をパネリストに迎え、改修と指定管理者による運営に移行した武雄市図書館の今が語られたのです。この文章冒頭の4つの「」は、その糸賀教授の発言によるものです。
1.「公設民営のブックカフェ」(マガジンカフェ)→図書館の定義、利用者のニーズ
武雄市図書館では利用者アンケートを実施しました。対象者は図書館を特定の日時に利用した301人です。結果についてはこちらに出ています。
武雄市図書館・歴史資料館利用者アンケート
https://www.city.takeo.lg.jp/info/docs/20130729tosyokananke-to01.pdf
改修後の図書館について、満足していると回答した人は約8割。武雄市民がもっとも評価したのは「開館時間の延長」ですが、市外からの利用者は「スターバックス併設」(武雄市民の評価では4位)。販売物の閲覧については市民3位、市外同率2位。
来館者は改修前の3.2倍になりましたが、書籍の貸し出し数は1.6倍にしかなりませんでした。市外利用者が多いせいもあるのかもしれませんが。
糸賀教授が学生達と行った調査では武雄市図書館内での資料利用状況は図書館資料が2割(伊万里は約58%)、書店資料が2割(伊万里は0%)、持ち込み資料利用者も2割(10%以下)と、図書館所蔵の資料を利用する方が少ないことがわかります。メモを取り損ねたのですが、この調査では図書館内のどこに人がいて、何をしているかも調べています。お茶している人や、休息している人がかなりの割合、いるようです。
従来の図書館のイメージを覆すものであることは間違いないようです。パネリストの高橋聡氏(CCC)も従来のイメージと比較することは意味がない。自分達が係わる図書館は、その自治体毎にオーダーメイドであり、市民価値を実現するものだという趣旨の発言をしています。同じパネリストである樋渡啓祐氏(武雄市市長)は従来の図書館ユーザーではない層をひきつける、そういった人達にはいきなり本を借りるのはハードルが高い旨、発言しています。お二方はユーザーのニーズに沿った形にしたのだと主張したいようです。
ここで1つ、疑問を呈したいと思います。ユーザーの意向を聞く為のアンケートなのだと思いますが、公共施設である武雄市図書館の運営には公金が投入されています。なぜ、市民全てにアンケートへの回答をお願いしなかったのでしょう?改修前にもアンケートが実施されましたが、これも回答数は少なく、市民価値といいつつ、市民の意見が十分反映されたのかは甚だ疑問です。
非利用者への調査の重要性を投げかけたブログもあります。
図書館学徒未満:
図書館総合展の武雄市フォーラムに行くひと、ちょっとこれ聞いてきて
http://d.hatena.ne.jp/aliliput/20131025
現状は「公設民営ブックカフェ」ですが、それは本当に市民が望んだものなのでしょうか?そして、従来の図書館は利用者のニーズにあっていたのでしょうか?
2.「Tポイントを地域通貨に」→公平性
現在、武雄市図書館では自動貸出機を使用して本を借りるとTポイントが付与されます。Tポイントについてここでは説明しませんが、ポイントを利用できる店舗は限定されます。市内の大多数の店舗では利用できません。小数の店舗に利用が集中し、結果として公平性が損なわれる恐れがあります。現在のTポイントをそのまま地域通貨として採用するのか、Tポイントの代わりに自前の地域通貨を付与すべきという趣旨なのか、ちょっと曖昧ですが、公平性の課題は存在します。
Tポイントについてはこちらが参考になるでしょう。
高木浩光@自宅の日記:Tポイントは本当は何をやっているのか
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20120923.html
Tポイントをそのまま地域通貨として採用するのは、お薦めいたしかねます。
3.「排架が分かりにくい」→効率性
従来の図書館では、入ってきた書籍を日本十進分類法で分類して登録します。図書館で本を借りると背表紙にラベルが張ってあると思いますが、あそこに記載されています。
武雄市図書館ではこの分類法が一般の利用者に分かりにくいとして、独自の分類法を採用して書籍を登録し、この分類に従って、書籍を棚に入れています。しかし、この独自分類では、例えば数学の本が自然科学としての数学と、経済学で用いられる数学が別々のコーナーに置かれていて、数学はどのように使われてきたのかを俯瞰することができません。
従来の図書館は分類・登録に日本十進分類法を用いていますが、本を棚に入れる場合、分類のみを考慮するのではなく、どのようなシーンで用いられる書籍かを想定した収納も行われています。武雄市図書館では旅行案内や地図は「旅行」に置かれる一方、レストランガイドは「料理」に置かれるそうで、旅行に行って、観光して、美味しいものを食べたい人は2箇所で本を探すことになります。
武雄市図書館の分類が分かりにくいという話題
http://togetter.com/li/567869
「効率性」という言葉を糸賀教授は民間のノウハウを取り入れることによる効果として発言していましたが、この独自分類は「効率性」に寄与しているのでしょうか?
なお、随意契約による指定管理者のCCCは契約時点で登記上の事業目的に図書館の運営やそれに類するものが記載されていませんでした。
杵保福第310号「スターバックス武雄市図書館店飲食店許可に係る全文書」
http://frosty.jp/~erio/takeo/saga-hokenjyo-sterbucs.pdf
4.「図書館の今後は来年の市長選で樋渡再選が前提」→継続性
今回のフォーラムにおける糸賀教授の発言で一番物議を醸したのは、この言葉かもしれません。
武雄市図書館の改修と指定管理者制度導入、これに伴うCCCとの随意契約は樋渡市長の殆ど独断とも言ってよい行為によるものです。もし、次の選挙で市長が交代すれば、政策の見直しがあることは十分考えられます。
また、書店とカフェは図書館の建物の目的外使用部分ですが、この契約は1年契約です。書店とカフェの採算が合わなければ、出店者が撤退することも考えられます。無論、市長の交代でも同様です。指定管理者契約は複数年ですので、書店、カフェよりは長いですが、やはり、同様の問題を抱えています。
市長交替により、武雄市図書館がその形態を変える可能性は多分にあるのです。
最後に、「市民価値」、「多様性」という言葉を高橋氏、樋渡市長が使われることへの私の違和感を述べ、この文章を終わりたいと思います。
1.に書いたとおり、図書館の改修、指定管理者管理について武雄市が市民の声を十分聞いたとは言い難いと考えています。このような行政と随意契約者であるCCCが作り上げた「市民価値」とは、本当に市民にとって価値のあるものなのでしょうか?
#takeolibrary 『アンケートは適切だったか?』
https://sites.google.com/site/takeoproblem/library/anketo
樋渡市長は武雄市図書館は図書館のあり方の多様性を示したものであり、多様性は民主主義にとって大事な理念であるという旨の発言をされました。しかし、武雄市において市民の声の多様性は十分、尊重されていると言えるのでしょうか?
やっぱり武雄市長は分かってくれてない。
http://getnews.jp/archives/322470
武雄市図書館について興味をもたれたのであれば、こちらもご覧いただければ幸いです。
佐賀県武雄市の問題について:takeoproblem
https://sites.google.com/site/takeoproblem/