スカート。23歳の音楽家、澤部渡のソロユニット。個人的には豊田道倫&昆虫キッズのライブで、昆虫キッズのサポートメンバーとして狂ったようにタンバリンを叩く姿を目撃したのが最初だったのだが、昨年ひっそりとファーストアルバム「エス・オー・エス」をリリースしていた。雑誌 Trush Up vol.8 でそのことを知った。

なに大丈夫よ
スカート / エス・オー・エス


Trush Up 誌のオマケとして付属していたDVDで初めて音と、ついでに映像を見た。収録されてた「ハル」はちょいダウナーなフォーク調のナンバーで、その曲が持つ雰囲気と歌う彼のルックとユニットのネーミングとジャケットデザインの組み合わさり方に少し戸惑ったというのが最初の正直な感想。豊田道倫氏がかつて名乗っていたパラダイスガラージに初めて触れたときの違和感と同質のようなものがそこにあったのだった。

先の「ハル」はMV含めかなりよくてすぐにCDを手に入れた。これがまた意外にも凄いポップな内容で二度驚いた。というか曲が非常によくできていてアレンジも秀逸、声もいいの三拍子揃いで、以来我が家のへヴィーローテーションCDとなった。

今日知ったのだがこの作品も平賀さち枝「さっちゃん」と同様、PEACE MUSIC 中村宗一郎氏マスタリングであった。どんなアーティストの仕事もきっちりプロとして応えていて、なおかつ「もしや中村さん仕事?」と思わせるような空間設計もちゃんと施されているあたりに感動すら覚える。それに何回聴いても全然飽きない耐久性をも獲得できているのはさすが中村さん仕事。もはや無敵。


話をスカートに戻す。アルバムの内容は歌と演奏のほとんどをこなす澤部渡君が敬意を表明するミュージシャンたち、豊田道倫、カーネーション、ムーンライダース、Yes, mama ok ?、果ては XTC やらその他モロモロからの影響をとくに隠すことなく吸収、ブレンドし、そこに「萌え」のセンスを注入したポップでロマンティックでナイーブな唯一無二の世界。アコギだけのシンプルに始まる楽曲も中盤から予想しない楽器登場によるメリハリの効いたアレンジでサービス感も満点。元来人懐こいメロディーを持つ楽曲が、加えられたアレンジによりさらに飛躍してる。

それにとにかく声がいい。作品世界にぴったりハマッてると思う。


澤部君はまだ23歳。音楽大出身と聞くが、それもあるのかいろんな音楽をよく聴いている印象。本当に音楽が好きなんだなあ。ファーストアルバム「エス・オー・エス」はそんな彼の23歳時点の記録であり、23歳男子!な音楽だと思う。必聴の一枚。これで1500円は安過ぎなんじゃないか?末恐ろしいアンファンテリブル。今後も注目せざるを得ない才能のひとつを発見したこのGWでありました。。。





本日夜は西荻窪 ZEN PUSSY にて Seymour こと Daniel Kwon 君のライブ。共演のJETリンダ氏の衝撃が生々しく(笑)ブログ書くのを困難にさせるが、今回は Seymour について。


雑誌 Trush Up vol.8 付録のDVDでその存在を知った。Daniel Kwon は韓国系のアメリカ人で、現在は東京に住んでいる28歳の若きSSW。ジョン・フェィヒーの如きフィンガーピッキングを使い、ポップで少しサイケデリックな音楽を奏でる男性である。


なに大丈夫よ
Daniel Kwon / Daniel Kwon


コンスタントに名作をリリースする Lamp のメンバーが Myspace を通じて Daniel に連絡をとったところからこのアルバムレコーディングが実現したらしいとのこと。

1曲目の Tiger's Meal の前奏がかかった瞬間に、これはジョン・フェィヒーかと疑ってしまうくらいの饒舌なフィンガーピッキングが聴ける。続いてナイーブな男性Vo.に始まりテープ逆回のようなエフェクトだったり、歌の左右パンだったりとサイケな展開が待ちうける。個人的にもう何も言う事無し!当初はアシッドフォークのミュージシャンかと思ったくらい本格的に作られている作品だった。

アシッド感が強いのはこの曲くらいで、残りの作品は同じくフィンガーピッキングを基調とするももっとポップな仕上がり。ただどれも一筋縄ではいかない、ちょっとひねくれた楽曲だったりする。そこらへんがトッド・ラングレンとかを引き合いに出される所以なのだろう。本人はビートルズやクイーン、エミット・ローズを個人的なアイドルとして挙げていた。


ライブは黒っぽいコーデュロイのジャケットにネクタイ、黒いサングラスとかなりダークな出で立ちで登場。オーディエンスはみな一音も聞き逃すまいと沈黙し、聴覚を鋭くしてるのがわかる。最近のライブは毎回そうなのだが、いい意味でかなり緊張感のあるライブ空間を作り出している感じを受ける。音に対する考え方や向かい方が若いのにできていて、見てて凄いと思ってしまう。感覚的にやってるだけなんだろうけど、既にある地点まで到達できてるのは彼の音楽マニアックスの成せる業なんだろう。凄いのが出て来たものだ。


今この記事を、今日彼から貰った MIX CD 聴きながら書いている。CDにはエミット・ローズ、ネッド・ドヒニー、スコット・ジャレット、ジュディ・シルやジョン・ビラモンテなんかに混じって武満徹や西田佐知子の歌が。まだ日本に来て数年だというのにホントいろいろ知ってるものだと感心する。大滝詠一もファーストが好きとか言ってたもんな。


今日初めてライブを観たのであろう女のコが Velvet Underground みたいと彼の音楽を評していたのが印象的だった。Daniel のギターから、声から、VUにもなにか繋がるある種のサイケデリックフィールを感じたんだろうな。同感する。


本人も言ってたが一緒にライブをやるブッキングアーティストを探してる様子。現段階でライブを選んでいない Daniel ではあるが、イベントによってはどうも浮いている存在に感じられること度々で少々肩身が狭そう。個人的には豊田さんや曽我部さん、モナレコードとかの周辺アーティストたちなんかとライブやればいいのにとか思ってしまう。しかし Daniel の音楽が、上質なフォーク系の音楽を好きな連中の間で話題になるのにそんなに時間はかからないだろうとも思っている。彼の音楽家としてのキャリアはまだ始まったばかりだからだ。できる限り応援していこうと思う。


3.11以降の一時、どの音楽聴いても入ってこなくて、それで辿り着いたのが西荻窪にあるCDショップ「雨と休日」がレコメンしてる音楽たちだった。そこで紹介されていた、静かで果てしのない音楽たちにとても癒された。音楽が自分に戻ってくる契機の、これが発端だった。しばらくの間、雨と休日のコンピ含め、ここで入手した音楽ばかりを聴いていた。


その後、主にツイッターを通じて知った若いミュージシャンたちの音楽を聴くようになった。静謐な音楽ばかりを聴いていた反動だったのかもしれない。ツイッターで知るミュージシャンたちはまだみんな若く未完成で荒削りだけど、そこが逆に魅力的に感じられたのだ。

平賀さち枝さんもそうやって知った女性SSWだった。彼女のMVをYou Tubeで観たのが最初だった。そのときはさらっと聞き流してしまったのだが少し気になっててCDを買ってみた。それ聴いてかなりびっくりした。CD帯の文句には確かユーミンやら矢野顕子やらの名前が挙がっていたが、個人的に真っ先に思い浮かべたのが高田渡の音楽で、聴き進めてゆくうちに金延幸子やはたまた Linda Perhacs なんかの名前が出てきたのだった。つまりそういう類のフォーク作品なんだが、そこはミキシングが中村宗一郎氏の仕事。音の全体のバランスはもちろんであるが、なんといっても声と楽器と集音マイクの位置関係が本当にすばらしかった。まるでフィールドレコーディングと言ってもいいようなあの空気感。もう春は行ってしまったけれど、初夏の今聴いてもばっちりな内容であった。


なに大丈夫よ
さっちゃん / 平賀さち枝


デビュー一枚目にして名盤決定。ずっと聴き続けてゆくだろう作品なのだけれど、ライブではすでに新曲も披露してるとの噂。やはりセカンドにも期待してしまうなあ。