【ここが違う】変われる人、変われない人 | サイコセラピスト(心理療法士) 棚田克彦 公式ブログ

こんにちは、心理セラピストのたなだかつひこです。

 

 

 

私のところには、さまざまな悩みや症状で困っている方が来られます。

その多く(ほぼ100%)が、悩みや症状の原因となる“つらい子ども時代”を経験をしています。

しかし、すでに心理学を学んでいたり、どこか別のところでセラピーやカウンセリングを受けたことがある人を除けば、「子どもの頃に経験したどのような出来事が、大人になった現在の自分の悩みや症状の原因になっているのか」をはじめから正しく特定して理解できている人は皆無と言ってよい状況です。

ところが、自分の問題がどのような経緯で作られたのか、その原因を正しく特定して理解できているかどうかは、その人がセラピー(カウンセリング)を受けて変われるかどうかを決める非常に重要なポイントの1つです。

もちろん、原因を知っているだけで問題が消えてなくなることはありませんが、原因を正しく理解した上でセラピーを受けるのと、何もわからずにセラピーを受けるのとでは、不思議に思われるかもしれませんが、その人がセラピーを受けて変われるかどうかに大きな違いが生まれます(特に、解決にある程度の期間が必要な場合)。

「問題の正しい原因やセラピーの目的を正しく理解した上でセラピーを受けた方が良い結果が(早く)出やすい」ということです。



さらに、クライアントが問題の核心に直面してセッションが足踏み状態になったとき等、自分の問題の原因を正しく理解している人は、「ここを乗り越えれば、私の悩みは解消する(ここから逃げると解決しない)」ということがわかっているので、最も困難な状況においてもあきらめずに取り組み続けることができます。

一方、自分の問題の原因を理解していない人は、どこか自分の人生を他人任せにしがちなところがあって、セッションが少しでも行き詰まると途中で来なくなったり、「とっても簡単、●●するだけ!」「たった一回のセッションで治りました!」といった他のお手軽な方法に逃避しがちです(そして、解決しない)。

なので、私の講座では、心理セラピストになりたい人も、自分が悩みを解決して幸せになりたい人も、心理セラピストが知っておくべきレベルの知識や技術を一緒になって学んでもらうことで良い結果が出せています。

ビリーフチェンジが卓越した成果を出し続けている背景には、こうした外から見ただけではわからない数々の納得の理由があるのです。



自分の悩みや症状の原因を正しく特定して理解しておくことは、問題を解決する上で非常に重要です。

とはいえ、普通の人は、20~30年以上も昔の子どもの頃に経験した出来事が、大人になった現在の自分の悩みや症状の原因になっているとは想像もしないでしょう。

ここで、「つらい子ども時代の経験が成人後の心身の健康状態におよぼす影響」について、非常に興味深い海外で行われた研究結果についてシェアしたいと思います。


 

【逆境的小児期体験(ACE)調査(フェリッティ&アンダ;1998年)】

●肥満の本当の原因
・ 1985年、サンディエゴのカイザー・パーマネンテ医療プログラムにおいて、予防治療プロジェクトのリーダーを務めるフェリッティ医師は驚くべきパターンを発見した。すなわち、成人の肥満患者の大半が、子どもの頃にトラウマとなる出来事を経験しており、さらに、そのトラウマの多くが性的虐待だった。

・ 被験者たちは、長年にわたって心に抱えている不安や恐怖、絶望感を、食べることによって紛らわそうとしていたのだった。特に、女性の場合、体重を増加させることで、自分が魅力的な女性として男性から注目を浴びることから身を守っているようだった。


■逆境的小児期体験(ACE)調査
・ フェリッティ医師とアンダ医師は、さらに調査を進めるために、以下のような大規模統計調査を実施した。

●母集団
・ 調査は米国で行われた。

・ 母集団は1万8000名以上。平均年齢は57歳。4分の3は大卒。

・ 被験者たちは生活の問題を抱えておらず、社会的に不利な立場でもなかった。いずれも教育水準の高い成功した男女で、ほとんどが健康保険に加入して定職に就いている中産階級の白人。


●調査に使用された質問票(ACE調査票)
あなたは18歳以前に以下の経験をしましたか?

①親か同居している大人から、頻繁に、または日常的に、罵倒、侮辱、悪口、屈辱を受けていましたか? もしくは、危害が及ぶかもしれないという恐怖を与えられていましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

②親か同居している大人から、頻繁に、または日常的に、押されたり、つかまれたり、叩かれたり、何かを投げつけられたりしていましたか? もしくは、跡が残ったり、傷ついたりするほど強く殴られたことはありますか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

③大人か、少なくとも5歳以上年長の人間から、性的に触られたり、撫でられたりしたか、あるいは、無理やり相手の身体に触らせられたことはありますか? もしくは、触られそうになったり、不適切に触られたり、性的に虐待されたことがありますか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

④頻繁に、または日常的に、「家族の誰からも愛されていない」、あるいは、「自分が大事で特別な存在だと思われていない」と感じていましたか? もしくは、「家族が互いに関心がない」「親しみを感じていない」「助け合っていない」と感じていましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑤頻繁に、または日常的に、「食事が十分ではない」、「汚れた服を着なければならない」、「自分を守ってくれる人がいない」と感じていましたか? もしくは、親のアルコール依存や薬物依存が原因で、「面倒をみてもらえなかった」、「必要なときに病院へ連れて行ってもらえなかった」と感じていましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑥両親の離婚や別居、その他の理由(棚田注:養子縁組など)によって、実の親と別れた経験がありますか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑦母親(継母)は、頻繁に、または日常的に、つかまれたり、叩かれたり、物を投げつけられたりしていましたか? ときどき、頻繁に、または日常的に、蹴られたり、噛みつかれたり、拳や物で殴られたりしていましたか? もしくは、繰り返し数分間にわたって殴られたり、銃やナイフで脅かされたりしていましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑧酒癖が悪い人、アルコール依存症者、または薬物を乱用している人と同居していましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑨家族内に、うつ病の人、精神疾患を抱えた人、自殺未遂を起こした人がいましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

⑩家族内に、刑務所に収監された人がいましたか?
 はい/いいえ (答えが「はい」の場合は「プラス1点」)

※「はい」の数を合計したものが、あなたのスコアです(最低0点~最高10点)


●調査結果
・ 当初、フェリッティ医師とアンダ医師は、「はい」の数はかなり少ないと考えていた。しかし、実際には、「はい」の数が予想をはるかに上回り、参加者の約3分の2(64パーセント)が1つ以上の項目で「はい」と答えた。

・ さらに、1項目に「はい」と答えた人の87パーセントが、さらに別の逆境を経験していた。

・ スコアが「2」以上の人は40パーセント、「4」以上は12.5パーセントだった。

・ スコアと成人後の病気や身体の不調との間に密接な相関があることが判明した。すなわち、子ども時代に逆境を経験した人は、大人になってから、ガン、脳卒中、心臓疾患、肺疾患、糖尿病、喘息、頭痛、潰瘍、多発性硬化症、過敏性腸症候群、全身性エリテマトーデス、慢性疲労症候群を発症する確率が高くなる。

・ 子ども時代の逆境には、親からの暴言や侮辱、精神的/身体的/性的虐待、ネグレクト(育児放棄)、両親の喧嘩/別居/離婚、母親が虐待される場面を目撃、親のうつ病や精神疾患、親のアルコール/薬物依存、家族内の犯罪者の存在などが含まれる。

・ 以下は、調査結果からの抜粋。

【うつ病】
・ スコアが「1」の人のうち18パーセントがうつ病にかかっており、スコアが1点上がるごとにその確率は大幅に増える。スコアが「3」で30パーセント、「4」以上では50パーセント近くの人が慢性的なうつ病を患っていた。スコアが「4」の人がうつ病となる確率は「0」の人に比べて4.6倍。

・ 女性の場合、相関関係はより深刻になる。スコアが「1」の人のうち、うつ病の患者は男性が19パーセントであるのに対し、女性は24パーセントだった。同様に、「2」では男性が24パーセント、女性35パーセント。「3」では男性が30パーセント、女性が42パーセント。「4」以上では男性が35パーセント、女性が60パーセントという結果になっている。

・ 性別に関係なく、子どもの頃に親を亡くした人が成人後にうつ病を発症する確率は3倍になる。

【自殺】
・ スコアが「0」で自殺未遂を起こした人は1パーセントに過ぎないが、「4」以上では約20パーセントが自殺未遂を経験している。

・ スコアが「4」以上の場合、スコアが「0」の人にくらべて自殺未遂の確率は12.2倍になる。

【ガン】
・ スコアが「4」の人は「0」の人にくらべてガンと診断される確率は約2倍になる。


【心臓病】
・ スコアが「7」以上の場合、心臓病のリスクは3.6倍になる。

【自己免疫疾患】
・ スコアが1点増えるごとに、成人後に自己免疫疾患で入院する確率は約20パーセント上昇する。

【寿命】
・ スコアが「6」以上の人は寿命がおよそ20年短くなる。

・ デューク大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ブラウン大学における研究で、小児期の逆境体験は人間を細胞レベルで傷つけ、細胞を老化させて寿命を縮めることが明らかになった。


【その他】
・ 過敏性腸症候群に苦しむ女性の半数以上は、小児期トラウマを経験していた。

・ 子どもの頃に両親の離婚を経験すると、大人になってから脳卒中を起こす確率が約2倍高くなる。

・ 子ども時代に逆境を経験すると、成人してから慢性疲労症候群をわずらう確率が6倍に増加する。

・ うつ病の母親に育てられた子どもは、成人してから慢性疼痛(線維筋痛症など)に苦しむ確率が高くなる。

・ 16歳以前に深刻なトラウマを経験した子どもは、統合失調症を発症する確率が3倍に上昇する。


■考察
・ 当初、フェリッティ医師とアンダ医師は、スコアと成人後の心身の不調との間に見られる明確な相関関係は、小児期トラウマを抱えていると、慢性的な不安を抑えるための自己対処法として喫煙、飲酒、過食に走りやすいためではないかと考えていたが、実際は違った。たとえば、スコアが「7」以上の人は、飲酒も喫煙もせず、肥満や糖尿病でもなく、コレステロール値が低くても、心臓病のリスクがスコアが「0」の人の3.6倍という結果が出た。つまり、18歳までに経験した逆境体験が、何十年もの時を超えて、身体の病気や精神障害等を直接的に引き起こしていることが明らかとなった。

・ 成人期の心身の健康に悪影響をおよぼすのは、深刻な虐待だけではないことが明らかになった。つまり、軽度の逆境的小児期体験も見過ごすことは適切ではない

・ 1万8000名以上の回答を分析した結果、特定の逆境的小児期体験だけが突出して影響をおよぼすわけではないことが判明した。調査した10種類の小児期逆境体験は、いずれもほぼ同じダメージを与えていた。


■逆境的小児期体験(ACE)研究のその後
・ 当初、フェリッティ医師とアンダ医師によって始められた小児期逆境体験(ACE)研究は、10つの質問からスタートしたが、その後、他の小児期トラウマ(親との死別、兄弟姉妹の虐待を目撃、居住地域内の暴力、貧困家庭、母親が虐待される場面を目撃、学校でのいじめなど)も対象に加えられ、同様に成人後の心身の健康状態に悪影響をおよぼすことが確認された。

・ 小児期逆境体験(ACE)は、心理面においては、他人や集団との関わり方(つながり方)、特に、恋愛・結婚、子育てにおけるパターン等に悪影響をおよぼすことがわかっている。

・ 小児期逆境体験(ACE)による影響として、男性よりも女性の方が発症率が高いことがわかっている。

・ 小児期逆境体験(ACE)は、脳の構造や免疫システムに悪影響を及ぼす。その結果、ストレスホルモンの分泌をコントロールする遺伝子発現が変化し、身体と脳の両方に炎症性ストレスの過剰反応が引き起こされる。すると、身体と脳が有害な炎症化学物質にさらされつづけ、成人後に一連の病気が引き起こされる。

・ 現在、世界保健機関(WHO)は、14ヵ国で健康悪化につながる可能性のある精神的苦痛や心的外傷の検査にACE質問票を採用し、アメリカでは29の州とワシントンDCにおいて公衆衛生の改善にACE質問票が活用されている。


■参考サイト
https://www.acesconnection.com/

 

 

逆境的小児期体験との間に相関がみられた病気の中には、現在のところまだ有効な治療法が見つかっていない難病等も含まれます。

しかし、こうして病気の原因の可能性やリスク因子が徐々に明らかにされることによって、将来的に有効な治療法や予防法が発見されていくのです。

これが「問題の原因を正しく特定する」ことが持つパワーです。



いかがでしたか?



今回紹介した研究結果は、身体の病気に関するものが中心だったので、専門用語が多くて難しく感じたと思います。

しかし、病名や細かい数字を気にする必要はありません(それは私の意図でもありません)。



要点として、

・ 子ども時代のつらい経験(逆境的小児期体験)は、数十年もの時を超えて、大人になった現在の私たちのココロとカラダに大きな影響をおよぼしうる。

・ 特定のつらい経験だけが突出して影響をおよぼすわけではない(軽度の逆境的小児期体験も見過ごしてはいけない)。

・ 問題の原因(子ども時代のつらい体験)を正しく特定することは、問題を効果的に解決する上で非常に重要である(→「変われる人」になるために)。

の3点を理解しておいてください。


心理セラピスト 棚田克彦