職業柄、たまに児童相談所に関わる相談を受けます。
ほとんどの場合、通常の小児科での診療に違和感を感じ、自分で色々調べて考えて、懸命に子育てをしているお母さんたちからの相談です。
その方たちは、予防接種(の全部/一部)を受けていなかったり、湿疹にステロイドを使っていなかったりしていることが多く、そこに体格が小柄だったり、癇癪が強かったりした場合に、近所の方とか医療者とか保健センターの方から「療育環境に問題があるかも」と児童相談所に通報が入ることが多いようです。
先日も1歳の男の子(星矢くん:仮名)のことで数日前に児童相談所の訪問を受け、また後日改めて訪問があるのでその相談のために来院されました。
その子は以前より何度もうちの診療所に受診していて、発育発達を見ていたお子さんですが、たくさん食べる割には身長・体重とも成長曲線の下限をずっと下回っている子でした。
いつもご両親が一緒に受診され、家族間の信頼関係はちゃんとできているのは最初から感じていました。
お子さんにとって、お父さんとお母さんが安全基地になっているということです。
そして、体格が小柄という事以外身体的に何も問題なく、受診中もとてもリラックスしており精神的な問題を感じたこともありません。
表情も豊かでちゃんと自分の意思を表現していて、ご両親の言っている事も理解し伝わっているので、コミュニケーションの問題もありません。
ですが一応確認はしておきましょうということで、半年ほど前に採血をしたことがあります。
栄養状態や各臓器の状態、ホルモンバランスなどを調べたのですが、全てにおいて正常値でした。
そんなこともあり、「何か理由はあるのでしょうが、今すぐ問題になることはないので、このまま経過を見ていきましょう」という方針で、数ヶ月に一回程度ですが当院に来てもらっていました。
そうしたら、児童相談所から訪問があったということです。
ご両親はお二人とも、穏やかで色々な角度からものを見ている聡明な方だなあという印象です。
お父さんは、児童相談所についての情報を集め、僕よりも詳しいように感じました。
お母さんは小さなお子さんに携わるお仕事をされていて、お父さんと同様に深く理解しているようでした。
そこで、ご両親の意向を確認したところ、次のようにおっしゃっていました。
「もしかして次の訪問で母子分離をされるかもしれない。
それはもちろん不本意だし絶対避けたいことなので、できるだけのことはしたい。
でも、児童相談所の方は敵ではないので、次の訪問の時に戦闘体制で望むのは違うと思う。
結果がどうであれ、この子がこの子らしく成長して幸せな人生を歩んでいくことを一番に望む」
そして僕は、次のように答えました。
「戦闘体制で望むと同じ戦闘体制の人が現れて戦いになり、結局望む結果から離れていく。
緩んで信じて委ねれば、一時的に望まない結果になろうとも、最後には絶対幸せな未来が待っている。
この子が何を望んでいるのかをこの子に確認しながら、どうするか決めていくといいと思います」
ご両親とも、同じように感じていた様で、そういう方針で望むということになりました。
(”後編につづく”)