ショーの準備に追われる中、慌ただしく始まったリハーサルで
ソンジェさんは宣言したとおりに私のそばで最強のサポートをしてくれる…
いよいよ明日は本番という夜を迎えて…
…もう何日目だろう。
日付が変わってからの帰宅にもすっかり慣れてしまった。
「ソンジェさん?」
…今日も起きてくれてるの?
玄関の鍵が開いてるのがソンジェさんの起きてる合図だった。
毎晩こうして鍵を開けたまま寝ないで待っていてくれてるから悪いなあとは思いつつも毎晩ドアを開ける時からもう私はうれしかった。
「おかえり~準備終わったの?」
やさしい言葉と
あたたかい部屋の雰囲気
大好きなソンジェさんの香り…
それらに包まれて
心がじわじわほぐれていく。
…ん?
でも今日は何かがおかしかった。
今日も葉子は大変そうだったね~とか
お風呂入れてるよ~とか
そう言うソンジェさんはさっきから一度もこっちを見てくれてない。
背中でなんか隠そうとしてることがバレバレ…ソンジェさんは近づくともっと怪しい動きをした。
リハーサルの次の日から始まった夜のこの創作活動はコツコツこそこそ毎晩続けられていて…何してる?って聞きつつも忙しくてそのままにしてたけど…
今日はすごく力入ってすごく集中してる…
そっともっと近づく…
…
ソンジェさん、素早く何かを隠す
そのままものすごくガードするから勢い付けて紙袋を奪おうとすると
ソンジェさんはあっけなくパッと手を離したりもして…
「そんなに気になるならそろそろ教えてあげましょう。じゃーん‼︎」
種明かしが思ったよりも早かったのと
ソンジェさんとはおよそ結びつかないものが目の前に現れたせいで私は混乱しながらも歓声を上げた。
それはとても可愛らしい花冠…
レモン色と白の花とリボンで作られたそれを得意そうに大きな手のひらに乗せて微笑むソンジェさんは
「明日、これを付けてくれるかなあ?」と遠慮がちに私に言った。
ベールのないドレスにぴったりでしょ
ブーケ担当の人に花の色と種類を指定してデザインまでお願いしたんだ。
作るのは絶対に自分でやりたかったからね。
ソンジェさんがサラッと言うひとつひとつが、忙しい日々の中でどれほど大変だったかわかって…ただ胸がいっぱいになる。
「忙しいのに…どうして…?」
「うーん…元気のない彼女をほっとくほど、俺、鈍感じゃないから」
…ソンジェさんのやさしさは大きくて深い。
私にはいつもゆったり包まれている実感があった。
でも、時にこんな風に形にして目の前に現されるとうれしすぎて悲しささえ感じたりもして…
そっと受け取るとぎゅっと抱きしめられて
あっという間にソンジェさんの腕の中…
明日何もかも終えて
私はこの腕の中に帰って来る。
その時間を思うだけで強くなれた。
…
準備万端で迎えたはずの当日
その大事な花冠が本番前に壊されるという事件が起こる。
それを知った時のソンジェさんの行動はあまりにも素早くて。
花冠を持つと反対の手で私の手を引いて
スタッフの集まるメイン会場へと向かって行った。
「彼女の花冠が壊れていました。どなたかこうなった理由を知りませんか?」
冷静に…でも怒りを込めて話を進める。
やがて元モデル候補の同僚が自分がやったと名乗り出て…
ソンジェさんは
俺たちにではなくて葉子ちゃんにあやまってくださいって言ったり…
もし今後彼女を傷つけた時は許しませんからって言ったり…
花冠を素早くキレイに必死に修復したりもして…
それは心の面でも仕事の面でも完璧なフォロー…私たちは無事本番の時を迎える。
繊細な総レースのドレス
レモン色のシフォンのリボン
イエローのマスカラにピンクの口紅
⑦終へ続く☆
ソンジェさん手作りの花冠
…そして隣にソンジェさん…
この日纏ったもの達は見た目に綺麗なものだけではなくて
あたたかさとか想い想われる幸せとか…
それらも一緒になって私を輝かせた。
ゆっくりぴったりソンジェさんとランウェイを歩く。
ソンジェさんとのすべてをたくさんの歓声が祝福してくれてるみたい…
隣ではソンジェさんがずっと
ああ~本当の結婚式みたいだーうれしいうれしいって小声で私に呟き続けた。
センターステージに着くと戸惑うこともなく私をひょいと抱きかかえてお姫さま抱っこして…これもとてもうれしそうに。
そして私は
大勢の観客の前で、星空の天井のチャペルよりも確かな言葉を受け取る…
「本当の結婚式の時も必ず俺の隣にいてね」
スポットライトの中でそう耳元で囁かれて
クラっとしながらも精一杯平静を装おってそれは私のセリフですって答えた。
「あーどうしよう。かわいすぎてKissしたい‼︎‼︎」
「ここではダメです」
「それじゃあ、絶対あとでしようね‼︎」
くったくのないその笑顔を見つめながら
私はソンジェさんの
やさしさに包み込まれる幸せをかみしめた。
⑦終へ続く☆