先輩たちの言葉 〜2〜 | らくだくらぶ -下山吉光Official blog-

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24歳か25歳くらいの時だったと思う。
その頃僕は小田急沿線の川崎市「生田」に一人暮らししていた。
当時所属していた事務所が代々木八幡にあったので。
あれは確か「とっとこハム太郎」か「ミルモでポン」の収録へ向かう時だった。
僕は両番組で番組レギュラーをいただいていた。

番組レギュラーとは、その作品に登場するモブキャラをほぼほぼ担当するいわゆる何でも屋のこと。
一言しか喋らない時もあれば最初から最後まで動物の鳴き声を入れまくる場合もある。
新人・若手の修行的な感じで入れられることが多いかな。

電車の中で声優の先輩で同じ事務所所属の「佐久間レイ」さんにお会いした。
レイさんとは「ハム太郎」でお会いする前に「やんちゃるモンちゃ」という子供向けアニメで
ご一緒させていただいていた。
何とはなしの会話をしていたとき

「下山くん、声優にとって一番大事なことってなんだかわかる?」

そう聞かれた。
何だろう…感性かな…いや瞬発力かな…勇気とか…

「耳が一番大事なの」

へ?耳??
正直意味が分からなかった。

「山寺さんは耳がものすごくいいの。
だからいろんなキャラクターを演じ分けることができるのよ。
以前スタジオで突然携帯のバイブ音が鳴り響いた。
みんな自分が切り忘れたのかなと確認した。
でも誰も切り忘れていない。
それでも鳴り続けている。
おかしいなと思ったら、なんと山寺さんがバイブ音を本物そっくりに口真似していたの。
耳がいいからどんな音でも自分に取り入れて表現することができるの。
台詞でも同じ。
耳がいい人はちゃんと相手の台詞を聞いて自分の台詞を返すことができる。
しっかりとした会話のキャッチボールができるの。
だからどんなキャラクターを演じようともちゃんと会話を成立させることができる。
自分がどういう風に台詞をしゃべろうか、どのタイミングで出ようか、そういうことばかり考えていてはだめなの。
声を鍛えることも大事だけれど、耳を鍛えることも忘れないでね」

その話を聞いたとき、僕の中で芝居に対する思い、アプローチの仕方、全てが変わった。
いい声出していい表現して…
そのことばかり考えて人の台詞を聞くことを疎かにしてこなかったか。
僕は動物役などをふられたときは実際に本物を見に行ったり、もしくはインターネットで調べてからそれを自分流にデフォルメして表現した。
でも相手の台詞を聞くことが大事…
僕たちは日常会話において当たり前にそれをしている。
自然と距離感やボリュームを合わせたりできるのは耳でちゃんとお互いの言葉を聞いているから。
言葉のキャッチボールはいつもしていることなんだ。
当たり前のことなのに目から、いや耳から鱗だったなぁ。

「耳が一番大事」
今の僕の表現における根本の一つになってくれた言葉。
その時このことは後輩たちにも伝えようと思った。
今でも後輩たちに言い続けている。
そして僕自身日々実感している。