5月に住民投票へ なぜ都構想なのか | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

大阪市を5つの特別区に再編する「大阪都構想」の是非を巡り、5月に住民投票を実施することとなりました。これまで政党間の感情的な対立で議論が停滞していましたが、住民の判断に委ねられます。メディアも有権者もぜひ、冷静に議論を深めてほしいと思います。


 大阪都とは東京都をモデルに、大阪府と大阪市のあり方を見直す構想のこと。具体的には東京23区のように大阪市を府直轄の5つの特別区に再編し、広域行政は大阪都が、身近な住民サービスは特別区が担うようにするものです。特別区は政令市の行政区と違って多くの権限を持ち、区長と区議会議員は住民が選びます。


 当初は大阪府内のもう一つの政令市である堺市も再編の対象とする計画でしたが、堺市長選で都構想反対派の市長が当選したため、今回は加わらないこととなりました。「都」と銘打っていますが、この名称には象徴的な意味合いが強く、実際には都構想の実現が決まったとしても大阪府という名称はそのまま。仮に名称を変更する場合には特別法の制定が必要となります。


 都構想が浮上した最大の理由は大阪府と大阪市の対立です。私も新聞記者として3年半勤務したのでよくわかりますが、大阪府と大阪市はずっと張り合ってきた歴史があります。


 有名なのは大阪府のりんくうゲートタワービルと、大阪市のワールドトレードセンタービル。ともに1990年代、沿岸エリアに競うように建てられ、高さは前者が256.1メートルで後者が256メートル。しかし、需要予測が甘かったためにいずれも運営会社が破たんし、府民、市民の税金を食いつぶす結果となりました。


 笑ってしまうほどバカバカしい話ですが、似たような話はたくさんあります。歴代首長も仲が悪く、陰で互いの悪口を言っているという話はしょっちゅう聞きました。その結果が無駄な施設と借金のヤマ。これを大阪の人たちは「府市合わせ」(不幸せ)と揶揄してきました。


 府と市の無駄な対立をなくすにはどうしたらいいか。一つの解として「府市統合」という構想がずっとささやかれてきました。私が大阪にいた20042007年頃にも財界で府市統合について議論していたのを思い出します。しかし、憲法改正と同じく机上の空論で、誰も実現できるとは思っていませんでした。それが急きょ、橋下徹氏、大阪維新の会によって現実味を増したのです。


 都構想で大阪におけるすべての課題が解決するとは思いませんが、少なくとも府と市の対立をなくし、二重行政を減らすことはできます。住民に身近なサービスは大阪市よりもっと身近な特別区に、経済政策や防災などの広域行政は大阪府にまとめることで効率化が見込めます。将来的にはさらに広域自治体を拡大し、道州単位としてさらに行政を効率化することも可能です。


 野党は手続きの不備などを指摘するばかりで、中身の具体的な議論を深めようとはしてきませんでした。都構想に反対だというのであれば、ほかにどういう方法で大阪を発展させようというのか、その具体案を示すべきです。対案を出せなければ、政局のために反対しているとみられても文句は言えません。


 517日の住民投票で有効投票の過半数が賛成であれば都構想は実現、半数に満たなければ都構想は消滅します。住民投票が決まった以上は、メディアも住民も、与党も野党も感情的ではなく、冷静に中身を議論してほしいと思います。そこにおいては芸人のたむらけんじ氏が都構想の勉強会を開くと発言したのも素晴らしい。あらゆるレベルで議論を盛り上げてほしいものです。


 残念なのは私の地元、愛知・名古屋で統治機構改革の議論がストップしてしまっていることです。明日から愛知県知事選が始まりますが、「中京都構想」は争点となっておらず、恐らく大村知事が再選されても中京都構想は止まったままでしょう。尾張名古屋共栄圏構想を掲げる河村たかし名古屋市長も、一時の情熱はありません。


 大阪と名古屋では規模も事情も違うので同じ構想を当てはめるべきだとは思いませんが、二重行政の削減やきめ細やかな住民サービスの提供、行政の効率化のためにどんな大都市制度であるべきか、もう一度議論すべきです。大阪の住民投票をいい機会にしなければなりません。


 大阪は「日本の第二のエンジン」を標榜していますが、二つでは足りません。モノづくりを中心とした分厚い産業構造と労働者、歴史の息づく街並みを抱えた名古屋は、第二、第三のエンジンとなるべきです。今年春の統一地方選で、しっかりとそのことを訴えていきたいと思います。