インド仏跡巡礼⑳埋もれたストゥーパと、石仏と | 創業280年★京都の石屋イシモの伝言

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◆京都の石屋 石茂 芳村石材店◆部録/石のセレナーデ
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バスは昨日までの時間の遅れを、取り戻すかのように、ひたすら
ヴァイシャリへの道を、情け無用のガタガタ道を、疾走していた。

座席の上で大きく、ポンピングしてる奴らなど、構っちゃぁない。

プーク!!  プーク!!  プーク!! と、けたたましく警笛を鳴らし続け、
前の過積載トラックを、定員オーバーバスを、ノーヘルバイクを、
負けじと、割り込む牛車を、狂ったように、追い越して行く。

「オー、この調子なら、もしかしたら、予定通りに着けるかも」
「いささか乱暴では、あるが、そこはお国がらと、云う事で‥」

と、初日から、少しずつ車内に漂い初めていた “予定は未定⇒
未定は否定” の、インド式時間管理(所謂インド時間)への不安を
窓から外へ掃き出して、新たに、大きな期待が、膨らみだした。

「よっしゃ、これならヴァイシャリ で、愛しのライオン丸に逢える」



途中、お釈迦様が末期の水を飲んだ、と伝わる川を見る為に、
チラッとバスは止まったが、後は、昼飯もとらずに走っている。

「ン? 昼飯もとらず? ダメじゃん、ぜんぜんインド時間じゃん」

午後2時を過ぎても、予約した食事場所には、到着してな~い。

慌てて、クシャクシャになった、予定の紙を広げると‥

<ヴァイシャリへ到着後、ご昼食、その後、ヴァイシャリ訪問>

と、確かに書いてある。なのに、お食事場所は、いずこに?
と、思っているうちに、バスはプシューと鳴いて、停車した。

「見て下さい。此処のストゥーパはたいへん、珍しいです」
「半分、山に埋もれてます。貴重です。見に行きましょう」

って、此処の見学、予定の紙には、書いてないんですけど‥
って、思っても。そんな細かい事、構っちゃぁない御様子で、

インド人ガイドは、アルカイックなスマイルを浮かべつつ、
埋もれたストゥーパへと、すたこら、歩いて行くのである。

                  ◆

ストゥーパは、広い平原にポコッとできた,、小山の中にあった。



綺麗に小山の半分を切り取り、まるでサンダーバード秘密基地
みたいに、自然の山から、人工のストゥーパが顔を出している。



アショカ王が各地に建設した、ストゥーパだが、実はインドの長い
歴史の中で、仏教迫害の犠牲となった建築物も、たくさんある。

かつて、釈尊(ブッダ)が教えを説き、急速に教団を拡大し栄えた
仏教だが、やがて、バラモンの巻き返しによりヒンドゥー教が
隆盛し、またイスラム教も侵略を繰り返し、仏教は迫害される。

迫害は5世紀頃から始まり、特に、13世紀のイスラム教徒軍のは、
熾烈を極め、仏教の拠点となった大学や施設と共に、遺跡や仏像
等が、数多く破壊され、多くの僧侶や尼僧たちも虐殺されている。

非暴力主義の仏教徒達は戦わず、ヒンドゥー教やイスラム教に
改宗させられたり、国外へ逃れる者も大勢いたようである。

やがて仏教は、インドから、根絶する。

そんなインド仏教の永年の衰退を映し“末法思想” が、起ったと云う。
遠く、東の国、日本では、平安後期。 武士が台頭した動乱の時代。

大いに治安が乱れ、僧兵は跋扈し、人々は疫病や飢餓に怯えて、
正にこの世の終わり。と共に、幾つもの新しい仏教宗派が誕生する。

鎌倉新仏教が、産声をあげはじめる、夜明け前でもあった。

おっと、話を、現在のインドへ戻そう。 ところで、このストゥーパも、
インド仏教の悲しい暗黒の時代を見て来た、遺構の一つだろうか?



煉瓦を積んで造られた、ストゥーパを良く見ると、建築物の間に
幾つも部屋が仕切られて、中には、破壊された石仏が見れる。

一眼レフの望遠レンズで、もっと細部まで見ると、どうやら、
あの頭部と右上半身を喪失した坐像は、釈尊(ブッダ)のようだ。

何故なら、右上半身は無いが、台座に残った右腕の手元は、昨日、
クシナガルで見た、石仏と同じ、降魔成道・触地印を結んでいる。



痛ましい、姿である。破戒されても、釈尊(ブッダ) らしき石仏が、
結んだ印は “悪魔と戦い、勝って悟りを開いた” と、伝えている。

                   ◆

戦火にまみれストゥーパは破戒され、壊れた石仏も放置された。

気の遠くなる歳月を経て、風に運ばれた土埃が、雨で固まり、
土が少しずつ堆積し、樹木や草花が覆い茂り、自然と山になった。

悲惨な戦争の記憶も、仏教徒の悲しみも、深い土の下に埋めて‥

そこには、凡夫の想像できない、インドの時間」が流れていた。



インド仏跡巡礼(21)へ、続く