患者本位で土日、夜間も
「あと2日は、感染の恐れがあるので会社を休んでくださいね」。インフルエンザの患者に療養のアドバイスをして、大山さんは電子カルテの送信キーを押した。
ほどなく、全自動錠剤分包機から、日数分の薬が出てきた。患者に見せて服用の注意を説明し、紙袋に入れて手渡した。
「診察した医師が説明するほうが、患者さんの満足感、安心感が高いと思うんです。他の医療機関でたくさんの薬をもらっていた患者さんには、相談してできるだけ3種類以下に減らすようにしています」
薬の副作用、飲み合わせなどはコンピューターで点検できる。在庫がない場合は処方箋を書いて院外薬局に行ってもらうが、高血圧、糖尿病、花粉症、インフルエンザなど、99%の患者は院内処方だという。
診察時間の長さも特徴だ。平日の夜間診療は、午後4時から10時まで。土日も午前中は開いている。
「会社帰りの患者さんに利用してもらえるし、診察時間が長いと一人一人に余裕を持って説明できます。それと、翌日が休診だと『調子が悪かったら別の病院にかかって』と言わざるをえないですよね。それが嫌で土日もやるようにしました」
東京生まれ。在日韓国人の一世だった祖父の勧めで韓国の医大に進み、研修した救急病院で、さまざまな疾患を任され腕を磨いた。
特に関心を持ったのは胃カメラ、大腸カメラ。「メスを持たなくても、体の一番奥にある胃腸を直接見られるのが魅力でした」。恩師から「その分野を勉強したいなら、光学機器が発達している日本が一番」と勧められ、2010年にUターン。名古屋大の医局員として働きながら、日本の医師免許を得て、日本国籍も取得した。名古屋大病院などで研修し、2年前に内科、整形外科のクリニックを開業。胃・大腸カメラも備えた。
幅広い疾患に対応する総合診療や長時間の夜間診療は、韓国ではよくあるスタイル。「特別なこととは思いません。地域のホームドクターだから」
時間があると、地元の喫茶店で住民たちと談笑する。地域活動にも熱心に参加している。住民の温かさに、第2のふるさとのような愛着を感じるという。以前は、診察が忙しくて、夕食を抜くこともしばしばだったが、昨年9月に結婚。愛妻弁当が健康の支えになっている。 (編集委員・安藤明夫)