平野啓一郎 No.14◇本心◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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母が「自由死」を選んだのは何故なのかーーー朔也は母の「本心」を知りたくて、彼女のVFを作ったがーーー






◇本心◇

平野啓一郎



舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。
母の友人だった女性、かつて交際関係にあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。
さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る――。



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貧富の格差が広がる近未来の日本。同時に自分で自分の死ぬタイミングを選べる「自由死」が選択できる日本でもある。



朔也はたった1人の家族である母を事故で亡くした。それだけでもショックは大きいが彼女は生前「自由死」をしたいと朔也に告げていた。息子として反対したが、母の願いを叶えられなかった後悔もあって「《母》を作って欲しい」、つまり母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)を作って欲しいと依頼した。



《母》は生前深く関わった人間と会わせると学習してより本物に近づくと言う。朔也は母の主治医の富田に傷つく一方、母の同僚だった三好彩花とは親密になる。そんなある日、朔也は職業である「リアル・アバター」の仕事で事件を起こす。それは決定的に朔也を傷つけるが、意外な顛末に。 


自分を「ヒーロー!」と尊敬するカリスマ・アバター・デザイナー、イフィーとの出会いはルームシェアしていた三好との関係を変化させる。そして母が昔、付き合っていたという作家、藤原亮治。彼との対面で朔也は自分に繋がる母の「本当」を知るーーー



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「本心」です(・∀・)

久しぶりの平野啓一郎。近未来日本が舞台です。もうこの世に無い大事な人は「死」を迎えるその一瞬前に何を思うのか? ましてやそれを自分で決めたのなら? そして予想外の準備出来ない死を迎えてしまったら? 

朔也の気持ちが他人事じゃねー……もし自分の親が「自由死」を決めた、と知ったら自分も反対してしまう……本人ははっきりと気持ちが揺らがないであろうと分かりながらも生きて欲しいと思う。わたしはどうやって親のいない世界を生きていくのだろう? それはやはり「生きて良いに決まっているじゃないか!」と他人の肩を叩ける自分の姿を見てもらいたい。



そしてそこにディストピアが加わります。貧富の格差がデカ過ぎて、未来には悲観的、貧しい人たちは仮想空間やアバターを通してでしか裕福な人たちの世界、つまり「あっち側の世界」に入れません。「もしかしたら選択を迫られたのかも知れない」と思うのも宜なるかな。この近未来設定と「人とは、愛とは、生きるとは?」の問いかけがうまく融合していると思います。



今回のテーマは「最愛の人の他者性」です。新しい用語、新しい人間の性質。最初は「空白を〜」の系統を行くのかと思いきや、朔也と三好、三好とイフィーの不思議な三角関係を通して「愛とは?」を説く「ある男」系統かぁ、と思い直しましたがこれ、両方だ。両方入っている。

「人間を問う」こと、「愛を問う」こと。これの答えを出すことは至難であり、両方入っているなら尚更だ。だから本書はまるで読者の「本心」を知りたいように、問いかけと語りかけが多いのだと思う。



「本心」でした(・∀・)/ 

ガニメデ人に支配された地球。でも人類にはある希望が……(*^o^*)/