逢坂冬馬 No.2◇歌われなかった海賊へ◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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レールの先には、強制収容所があるーーーナチに反抗する少年グループ「エーデルヴァイス海賊団」は鉄道爆破を仕掛けるがーーー






◇歌われなかった海賊へ◇

逢坂冬馬



1944年、ナチス体制下のドイツ。父を処刑されて居場所をなくした少年ヴェルナーは、体制に抵抗しヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。やがて市内に建設された線路の先に強制収容所を目撃した、彼らのとった行動とは?



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2020年。総合学校の歴史教師クリスティアン・ホルンガッハーは生徒が提出したレポートの惨憺たる出来に頭を抱える。その中でも目を引いてしまったのはトルコ系移民ムスタファのレポートだ。しかしとある名前がクリスティアンの記憶を掘り起こすことになる。



フランツ・アランベルガー。クリスティアンの祖母をはじめ、皆に異常者と呼ばれる男。クリスティアンはムスタファの話を聞くために彼の家を尋ねる。そこで一冊の本を手渡される……



1944年。父を密告で処刑されたヴェルナーは密告犯を殺そうとしていたところをエルフリーデとレオンハルトという2人の少女と少年に見られる。2人はナチに徹底反抗する少年グループ「エーデルヴァイス海賊団」の一員だった。ヴェルナーともう1人、爆弾に惹かれるドクトル少年はその海賊団に入る。



ヴェルナーたちが住む街に鉄道が引かれることになった。ところが、線路はまだ続く。操車場にしては警備が厳重だ。おかしい……ヴェルナーたちは線路の先に何が有るのか突き止める。……強制収容所だ。このまま線路があってはここにどんどん「ナチが好まない全ての人」たちが集まり、死んでしまう。4人は綿密に計画を立て、線路爆破を実行しようとするが……



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「歌われなかった海賊へ」です(・∀・)

アガサ・クリスティー賞どころかどの新人賞を見ても反響がデカかった逢坂冬馬作品2冊目登場。今回は1944年、終戦間際のドイツが舞台。もうこの系統で書いていくつもりなのだろうか……もし第3弾があるなら「プラハの春」かも知れない。



1944年。ちょうどこちらの直前。あっちはミステリ重視でしたが、本書は一応歴史青春小説なのでその当時社会はどうだったのか、周囲は何をどう思っていたのか、が重要になっています。



もしあなたの住む町に、強制収容所が作られたら?

よくよく考えるとアウシュビッツ=ビルケナウも強制収容所が出来るまでは普通の人が住む、普通の村だった筈なのです。他の、どこの強制収容所も、普通の村、普通の町、普通の人々の故郷だったのに、そこに人を殺すための強制収容所が作られたら…………とても耐えられない。ましてやドイツは負けたのだ。自分たちが知っていたことは人殺しを是認するものだったのだ、と突きつけられたら一生罪に苦しむでしょう。



ただ「罪は永遠に償われない」は動かない。なかったことにならない。それを知っていて口をつぐみ、自分たちを被害者だと思うことはやはり違うとも思う。事実償う機会も方法もあった。ただ誰もそれをしなかった。そこに完全な善人もいない、と思った理由がある。



「罪は永遠に償われない」ならどうすれば良いのか。最後のクリスティアンとムスタファを見れば自ずと分かる。未来のわたしたちが過去の人間の全てを理解出来るとは思えないし、それはほとんど傲慢だーーーそう、理解というのは傲慢なものなんだーーー。しかし「起きてしまった、生まれてしまったものは無かったことにはならない、伝えなければならない」と思った時、人間は同じ過ちを繰り返さない、と信じることが出来ると思う。



「歌われなかった海賊へ」でした(・∀・)/ 

待ちに待った大仕事。勇んで地球を飛び出すが……(*^o^*)/