竹取物語。 | 江戸の杓子丸

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化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書

 

「竹取物語」

 

121分 日  1987年

 

監督 市川崑(本編)
    中野昭慶(特撮)

 

製作 田中友幸 羽佐間重彰
脚本 菊島隆三 石上三登志 日高真也 市川崑
音楽 谷川賢作
撮影 小林節雄(本編) 江口憲一(特撮) 大根田俊光(特撮)
編集 長田千鶴子
出演 沢口靖子 三船敏郎 若尾文子 石坂浩二 中井貴一
    春風亭小朝 竹田高利 小高恵美 伊東四朗 ほか

 

 

【完全ネタバレ】

 

 

平安の空想科学小説。☆☆★★★

 

 

〔ストーリー〕
 子供を失った初老の夫婦がある日、竹やぶの中で光る筒に包まれた赤ん坊を見つける。
その子供は美しい娘へと成長し、「かぐや姫」と呼ばれるようになる。
 だが、かぐや姫はやがて月へ帰らなくてはならない宿命を持っていた。
そしてある満月の夜、月からの使者が乗る巨大な光る円盤がやってくるのだが・・・。

 

 

市川崑監督作品。
特撮パートは、中野昭慶監督。

 

ウィキによると、

 

『竹取物語』は1970年に死去した特撮監督の円谷英二が生前に映像化を切望していた題材であり、円谷とともに映画製作に携わってきた東宝映画社長の田中友幸にとっても念願の企画であった。

企画立案から完成までには10年の歳月が費やされ、総製作費20億円の東宝創立55周年記念超大作として完成した。

 

とある。

 

かぐや姫は宇宙人、という設定がそうだけど、SF色が強いのは元々、円谷さんが絡んでいたからか。

 

 

正直、なかなか厳しかった(笑)

 

この時代らしい、というかこの頃の日本映画のイメージそのまんまだね。
製作費はすごいしキャストもすごいけど、な~んか面白くないというか、重みや深みがないというか。

 

エンディング・クレジットでピーター・セテラの「STAY WITH ME」が流れ出す。
「竹取物語」で洋楽持ってくるか(笑)


こういう軽薄なところがなんか80年代後期らしいような。

 

冒頭から登場する三船さんもかっちょいいけど、何か役不足な気がするし。

 


けれど、お金がかかってるというだけあって、かぐや姫を拾う「竹取の造(みやつこ)」の家や都大路のセットは見事なものだった。

 

衣装も色や造形が綺麗で楽しい。
衣裳デザインはワダ エミ。

 

 

源氏物語もそうだけど、平安時代の物語にある挿絵は大抵やや俯瞰で描かれている。
市川監督は、そのアングルを選んで撮っているんだと思う。

 

宮中の屋敷内や屋内にいる人物を撮るショットでこのアングルが多かったのは、そのためじゃないかな。

 

 

竹林のショットがとても幻想的で、見ごたえがある。

 

風にあおられた背景の竹林が豪快にうごめくその手前は、何とも静かなかぐや姫と友人の明野(あけの)。

 

ああいうのはどう撮るんだろう。

特別なことはしてないのかな、不思議なショットだった。

 

 

「加耶(かや)」という名の娘を失った翌日、竹取の造(みやつこ)夫婦は竹林で赤子を見つける。
二人はその子を「かや」として育て始める。

 

子供のかぐや姫は、瞳が碧く成長が異様に早かったり、傷を負ってもすぐに治せてしまったりと不思議な力を持っている。

 

やがて「かや」は、瞳も黒くなり美しい娘に成長する。

 

この成長した「かや」が沢口靖子。
当時、22歳。確かにきれい。

 

全編を通してディフュージョンが強いんだけど、この「かや」のショットもぼやけ具合がすごい(笑)

 

「かや」は自身の出生についてや、育ての親である竹取の造らと別れなければならない運命に苦悩する。

 

だからこそ、その苦しみを一時でも忘れさせてくれる大伴(おおとも)の大納言(中井貴一)との真摯で清潔な恋はよりロマンチックな気がする。

 

 

ある夕暮れ、野原で「かや」は盲目の少女・明野と出会う。

 

この明野は、原作に登場するのかわからないけど、盲目というところがミソ。
「かや」の気品や美貌に惑わされることなく、心を通わす友となる。

 

盲目ゆえか聡い明野は、まるでイヴに入れ知恵をする蛇のように、求婚され悩む「かや」に耳打ちするショットが印象的。

 


原作では、かぐや姫は5人の公達(きんだち)に求婚を受けるけれど、この映画ではすっきり大伴の大納言、車持の皇子〔くらもちのみこ〕(春風亭小朝)、安倍の右大臣(竹田高利)の3人となっている。

 

そして、それぞれが真心の証として、天竺の海に棲む「龍の首の珠」、「蓬莱(ほうらい 渤海)の玉の枝(根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝)」、唐土の「火鼠の裘(かわごろも 焼いても燃えない布)」を持ち帰ると約束し旅に出る。

 

 

大伴の大納言は天竺の近く、濃霧の海上で伝説の竜と遭遇し船ごと海底へ沈められてしまう。

 

このシーンは、いかにも日本の特撮でなんとも安っぽいけど、見事なショットもあった。

 

ただ、海上をすべる大伴の大納言らの船を俯瞰で捉えるショットも、なんとも貧弱で面白くない。

 

 

死んだと思われた大伴の大納言は、異国人に助けられ日本に帰ってくる。
しかし、「かや」を奪われるとあせった車持の皇子(くらもちのみこ)らは刺客を放つ。

 

この殺陣のシーンは、SEで効果を狙った演出だろうけど、どうも力強さも幻想さもない。
なんか的外れなような気がする。

 

 

いよいよ、帝もかぐや姫に興味を惹かれ参内を命じるが、「かや」は突っぱねる。

 

この帝と「かや」の対峙の演出や編集が、「犬神家の一族(1976)」などにあるようなスピード感とミステリアスさが際立っていて魅力的。

 

 

いよいよ月から迎えが来る満月夜。

 

淡い青を重ねて、白銀の唐衣(からぎぬ)を纏うかぐや姫。
竹取の造と女房も白を基調としている。

 

まるで、死に装束のようだ。

 

 

満ち欠けしながらも月は絶えないように、永遠の命や美しさを願う欲望。
それが「かぐや姫」なのかも知れない。

 

「かぐや姫」は若くして旅立ったから、もしくは命を絶ってしまったことで永遠と不変の美しさを得た悲しい女性という事なのだろうか。

 

月はただの象徴で、「星になった」と捉えると冥界へ行ったという事になる。


闇夜に浮かぶ神秘的で魅惑的な満月の、その壮大さや美しさ。

 

そして、満月夜は犯罪率が高いというけど、畏怖の念やその月光による高揚感というのかな、やはり心を乱すものである事は間違いない。

 

 

この映画では、かぐや姫は月からやって来た宇宙人で迎えに来るのは、「未知との遭遇(1977)」を連想させる宇宙船。

 

なかなか格好いい造形でクライマックスを盛り上げてくれる。

 


高畑勲監督の「かぐや姫の物語(2013)」はまだ観ていないけど、観たくなったな。

 

 

DVDの特典に、「竹取物語外伝」というメイキングがある。

 

撮影現場の風景や「竹取物語」にゆかりがあり竹を供養する寺などが登場する。

 

沢口靖子が専門家に当時の生活について聞いたりするけれど、十二単姿よりも可憐だ。