昨年のかすみん 「異界のひと、失速の真相」中編 | 走ることについて語るときに僕の書くブログ

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タイトルの通り。
ワタナべの走った記録です。時折、バスケット有。タイトルはもちろん村上春樹さんのエッセイのパクリ。

2015年のかすみがうらで失速した隠された理由を明かすはなし。自己ベスト更新目指して走るうちに30km地点で「白いシャツの男」に話しかけた僕。美ジョガーという言葉にビミョーに反応した彼。
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「あ、ああ、美ジョガーね…。」

ここで彼の声のトーンが少し落ちたような気がしました。


ん??
女性の話しは苦手なタイプなんだろうか。


ちらりとよぎりましたが、気に留めず話をつなぎました。

「美ジョガーって近所にぜんぜんいませんねー。だから雑誌などで言われてるだけのフィクションと思ってました。
皇居を走ったことがあるんですが……」

「いましたよ」
「え?」


僕の言葉をさえぎるように彼は話し始めました。

「美ジョガー。うちのイナカコースにも…」


少しためらうような、意を決したようなニャアンスをただよわせながら彼は話し始めました。
少し長い話でしたし、レース中の会話です。

ブログ記事という都合上、分かりやすくするため多少つじつまを合わせた部分もありますが、話の事実関係をまとめるとだいたい次のようなものでした。


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冬の朝ランは、5時くらいに走るのが普通なんです。
冬の夜明け前。東の空は紫色を呈してはいましたが、夜に走るのと大差ない暗さでした。

いつものマイコースの河原をジョグしていたら後ろから人の気配がしました。
走る足音。息遣い。そして水筒をしょっているのでしょうか?ジャボジャボという水音。

足音のピッチや息づかいから結構なスピードを出してることが分かりました。


そのまま追い越してもらおう。
そう思ったわたしは後ろをうかがいながら道をあけました。
チラッと目の端に入っただけなんですが赤いウェアが見えました。背格好から女性ということが分かりました。

追い越されるときになんとなく見ましたが、
赤いキャップに赤いウィンドブレーカに、下は、、、スカート。
この近辺では見ないいわゆる美ジョガーでしたよ。


そこまで図々しくないから顔までは見ませんでした。
年齢も。。。
あはは。ランニングの恰好してるとたいてい美ジョガーって呼びますよね。



彼女とは二、三メートルくらいの間隔があきました。
背後で聞こえていた「じゃぼじゃぼ」という音が彼女からしましたが、みると別段水筒を持っているわけじゃない。

不審に思って見ると、彼女の足元、、、シューズから音がしてるみたいで、水滴がときおり撥ねだしているのが見えました。

シューズの中に水があって、そこからあふれてるような感じです。



おかしいですよね。
雨も降ってないのにシューズの中から水が出てくるなんて。
水たまりに誤って踏み込んでしまったにしては、水が尽きることなく「じゃぼじゃぼ」聞こえてくる。
水たまりじゃないとしたら、、、?



「あれ?」

思わず口に出してしまいました。

すると彼女がちらりとこちらをうかがい、またゆっくり前を向きました。


水たまりにはまったのでないとしたら、ここは河原です。まさか川から彼女が上がってきたとでも???
おかしな発想に「あれ?」って自分でつっこみを入れてしまったんです。

でも自分の中で、ナニカとても嫌な感じ、、、違和感とでも言うのでしょうか、、、がし始めました。



このまま彼女にもっと先に行ってもらおう。
そう思って少しスピードを落としました。

彼女との距離が離れるかと思いきや彼女は変わらず二、三メートル先を走っているのです。
前を向いたままです。こちらを見たわけではないのです。だからこちらがスピードを落としたことが分かるはずもない。


気味が悪くなってさらにスピードを落としました。
同じく彼女もスピードを落としたらしく、間隔が変わりません。
変わらず前を向いたままです。

そして、何よりも妙なのは、息をはずませて前に出ていったはずの彼女の吐いている息が白くないのです。
冬の朝です。わたしの息はこんなに白く出ているのに。


今度は「ナニカ嫌な感じ」、じゃありません。
彼女がなにか異質な、、、異界の存在であることを意識してみて、寒さを忘れました。

脇道もない河原の一本道です。道の上には我々しかいません。
遠く、紫色の地平線。まだ太陽は見えません。

Uターンして彼女に背を向けること、あるいは脚を止めることをしてもムダであるばかりか、ナニカよくないことが起こる確信にちかい予感がありました。



どのくらいその状態で走ったのか分かりません。
彼女がゆっくりとこちらを振り返ろうとしています。
しかし ソレ を見てはいけないと思いました。必死で前方の道に視線を落として見ないようにします。視線の先には彼女のジョギングシューズと水滴がはねる音が聞こえてきます。やばいやばいやばい。 ソレ がこちらに視線を向けているのが分かりました。やばいやばいやばい。


前方から音が聞こえました。


「・・・・・・・」


彼女が発している「音」であることは分かりました。そしてその「音」がヒトから発せられた声に似ていることも分かります。
でもソレは人の声だと呼べない「音」でした。
乾いたガラガラ声、、、とでも呼べばいいのでしょうか。
人の言語であることは分かるのですが人からこんな声が発されるのを耳にしたことがありません。

妙なたとえですが、、、だれもそんな声を聞いたことがないと思うのですが、、、役に立たなくなってしまった、機能が失われた喉ぼとけや唇や舌が発する音、、、はこんな音になるのではないでしょうか。



「お・・・るなよ」


ソレ は同じ音を繰り返していました。


「おご・・なよ」



おごるなよ???

どういう意味でしょうか?
おごれるものも久しからず、、、のおごりでしょうか?
調子にのって速く走るなよ? わたしが男性だから???


わかりません。
ソレの言ってる意味がわかりません。
でも、なにかこちらが反応しないとソレは消えないと思ったのです。


「分かった。分かりました。おごりません」

前方の道を見ながら二三度唱えました。


「お・・・るな・・よ」


ソレの声は繰り返されます。


わたしはあたりはばからわず大声を出していました。
アドレナリンが全身を駆け巡りました。
ダッシュで ソレ を追い抜こうとしていました。



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「彼」はここでいったん話を止めました。

「給水しますか?」

気が付くともう35km地点です。前に給水所が見えてきました。
彼の、、、たぶん与太話とは思いますが、話術に引き込まれたようにあっという間に時間が過ぎていたのです。
緊張してちょっと喉の渇きも感じました。


「給水とります。とりますか?」
「わたしは、、、もう水は、、、」

彼はとらないようです。
僕は給水所に寄るためにスピードをいったん落としました。


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