ニューヨーク物語 74 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

ショーのリハーサルは、出演者でありスポンサーでもあるマリアンのスタジオで行われた。


私達は毎日、ニューヨークから列車に乗り、ニュージャージーにあるマリアンのスタジオに向かった。


ショーに選ばれたダンサーは13人。


ショーは、間に2回の休憩を挟む3部構成。


各部は3作品づつで、1作品が10分以上の物が殆どで、この人数で踊りきるのは非常にハードであった。

作品によっては、メインとなるダンサーが選ばれた。


9作品中の1作品はフィナーレである。




リハーサル初日、マリアンのスタジオで初めて顔を合わせた私達。


ダニエルからキャスティングシート(香盤表)を手渡された。


「みんな受け取ったな?じゃ、ショーについて説明して行くぞ。」


私達は、ダニエルを囲む様に半円を描いてスタジオのフロアに、思い思いの格好で座った。


ダニエルがショーの構成、各作品がどのような作品であるかを、順に説明して行く。


第1部冒頭はラテン系の音楽で、衣装は赤と黒。
ややスパニッシュよりの作品である。
オープニングナンバーである為、この作品にメインダンサーは居なかった。


続いては、マリアンのソロ作品。
これは短い作品になる。


そして、1部ラストは男女6名、3組のカップルの作品。



私は、1部では2作品の出演だった。



「次のセクションは…」


ダニエルが説明を続ける。

第2部は黒人ダンサーのケニーがメインを務める作品で、ケニー以外のダンサーは仮面を着けるらしい。


そして2作品目は、ジャックとパトリシアのペア作品。
現ルームメイトのジャックと、元ルームメイトのパトリシアである。


そして2部ラストは、再びケニーがメインの作品で、非常にハードなセクシーナンバーである。


私は2部にキャスティングされていなかった。


「第2部は休める訳だ。」


そして第3部…


冒頭作品のタイトルを見ると『WAR』とある。


「これはKAZUMIがメインだ。」


「え!?」


「ショーの作品全体の中でも一番長く、一番ハードな物になるだろう。」


キャスティングシートには、誰がメインを取るかまでは印されていなかった。


私はダニエルを見た。


ダニエルは私の顔を見ると、ニヤリと笑って言った。

「覚悟しとけよ。」


私は、口の中が一瞬にして乾いてしまい、何も言えず、ただ、ただ身を強張らせていた。


ダニエルは説明を続けていたが、私は最早、聞いていなかった。


『俺が…?メインダンサー?』


この時の私の感情を書き記す事は不可能である。


喜びは無く、感動も無かった。


なんと言うか…


心が完全に止まってしまった様な、不思議な感覚であった。


私は、あのような状態に陥ったのは最初で最後である。



気が付くと、ダニエルの説明は終了しており、変わってマリアンがスケジュール表を配り、諸々の事を説明していた。




『WAR』


即ち『戦争』である。


この作品は、私に取って、一生の宝となった。


ダニエルが『私』と言うダンサーを如何に深く理解し、この上ない適材適所として私に与えてくれた最高の贈り物である。





しかし…


リハーサルスタートから、私のエンジンはかかり辛かった。


何とも、様々な要因が私の集中力を妨げた。



「よし!15分後にリハーサルを始めるぞ!」


顔合わせが終わり、ダニエルが晴れやかな表情で言った。




私のニューヨークでの唯一最大の目標が、遂に現実化し、今、スタートした。