ショーのリハーサルは、出演者でありスポンサーでもあるマリアンのスタジオで行われた。
私達は毎日、ニューヨークから列車に乗り、ニュージャージーにあるマリアンのスタジオに向かった。
ショーに選ばれたダンサーは13人。
ショーは、間に2回の休憩を挟む3部構成。
各部は3作品づつで、1作品が10分以上の物が殆どで、この人数で踊りきるのは非常にハードであった。
作品によっては、メインとなるダンサーが選ばれた。
9作品中の1作品はフィナーレである。
リハーサル初日、マリアンのスタジオで初めて顔を合わせた私達。
ダニエルからキャスティングシート(香盤表)を手渡された。
「みんな受け取ったな?じゃ、ショーについて説明して行くぞ。」
私達は、ダニエルを囲む様に半円を描いてスタジオのフロアに、思い思いの格好で座った。
ダニエルがショーの構成、各作品がどのような作品であるかを、順に説明して行く。
第1部冒頭はラテン系の音楽で、衣装は赤と黒。
ややスパニッシュよりの作品である。
オープニングナンバーである為、この作品にメインダンサーは居なかった。
続いては、マリアンのソロ作品。
これは短い作品になる。
そして、1部ラストは男女6名、3組のカップルの作品。
私は、1部では2作品の出演だった。
「次のセクションは…」
ダニエルが説明を続ける。
第2部は黒人ダンサーのケニーがメインを務める作品で、ケニー以外のダンサーは仮面を着けるらしい。
そして2作品目は、ジャックとパトリシアのペア作品。
現ルームメイトのジャックと、元ルームメイトのパトリシアである。
そして2部ラストは、再びケニーがメインの作品で、非常にハードなセクシーナンバーである。
私は2部にキャスティングされていなかった。
「第2部は休める訳だ。」
そして第3部…
冒頭作品のタイトルを見ると『WAR』とある。
「これはKAZUMIがメインだ。」
「え!?」
「ショーの作品全体の中でも一番長く、一番ハードな物になるだろう。」
キャスティングシートには、誰がメインを取るかまでは印されていなかった。
私はダニエルを見た。
ダニエルは私の顔を見ると、ニヤリと笑って言った。
「覚悟しとけよ。」
私は、口の中が一瞬にして乾いてしまい、何も言えず、ただ、ただ身を強張らせていた。
ダニエルは説明を続けていたが、私は最早、聞いていなかった。
『俺が…?メインダンサー?』
この時の私の感情を書き記す事は不可能である。
喜びは無く、感動も無かった。
なんと言うか…
心が完全に止まってしまった様な、不思議な感覚であった。
私は、あのような状態に陥ったのは最初で最後である。
気が付くと、ダニエルの説明は終了しており、変わってマリアンがスケジュール表を配り、諸々の事を説明していた。
『WAR』
即ち『戦争』である。
この作品は、私に取って、一生の宝となった。
ダニエルが『私』と言うダンサーを如何に深く理解し、この上ない適材適所として私に与えてくれた最高の贈り物である。
しかし…
リハーサルスタートから、私のエンジンはかかり辛かった。
何とも、様々な要因が私の集中力を妨げた。
「よし!15分後にリハーサルを始めるぞ!」
顔合わせが終わり、ダニエルが晴れやかな表情で言った。
私のニューヨークでの唯一最大の目標が、遂に現実化し、今、スタートした。