英国シューマッハ・カレッジへの旅 | MOMO

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MINIMAL × ORGANIC


大学ではひたすら法律を勉強し、ロースクールでのサバイバルライフを生き抜き、弁護士になってからは六本木の高層ビルで毎日深夜まで働いた。会社の法務部に転職した後も怒濤のM&A。法律の分野には、通算11年間も自分の時間を投資してきたことになる。

それらを全部捨てて、というわけでもないが一旦脇に置いておいて、今新たな方向に挑戦することに決めたのは、自分の暮らしや社会システムにある矛盾ときちんと納得の行くまで向き合いたかったから。





成長・拡大することなしには維持できない今の経済システム。効率性を追求するあまり、あまりに細分化された仕事からは人間味が失われ、日々の暮らしの中で自然がとても遠い存在になってしまった。この巨大な仕組みの中で、そこから日々生まれる矛盾にどう対峙し、もし変化をもたらすことができるとしたら自分の役割は何なのか。そんな壮大なテーマに取り組むためのスペースと時間を自分に与えることにした。


シューマッハ・カレッジ




シューマッハ・カレッジは、持続可能で真に豊かな社会をつくるための視点や考え方を研究、教育するための場として設立された学校だ。環境、食、経済、建築、心理学、芸術など、様々な分野の授業が行われ、現在では大学院コースも開設されている。

学校の名前は、「スモール・イズ・ビューディフル」の著者であるイギリス経済学者E・F・シューマッハにちなんで付けられたもの。「スモール・イズ・ビューディフル」は、1980年代に書かれた本だけど、物質至上主義の現代社会を鋭く分析し、より良い社会へ変えていくには何ができるのかについて方向性を示してくれる本当に素晴らしい本だ。

私はヒントを得るために、彼の思想が受け継がれたこの学校をどうしても自分の目で見てみたかった。デンマークでのデザインの授業を1週間お休みさせてもらい、イギリスに行ってきた。

学校はイギリスの郊外に位置し、歴史のある古い建物を校舎に、豊かで美しい自然に囲まれている。

朝は瞑想、ヨガのクラス、食事はオーガニックの野菜がふんだんに使われた料理をみんなで一緒にいただき、講義は夜まで続く。





今回は下見も兼ねていたので、経済理論とは関係のないMindful Bakingというコースに参加した。しかし、天然酵母のパンをつくりながら繰り広げられる先生のお話はとても有益なものだった。その昔BBCで働いていた先生は、パンづくりを突き詰めた結果、原料の製造・販売、工場で大量生産されるパンの製造過程、農薬とアレルギーの問題がいかに密接に結びついているかに行き当たり、パンづくりを素材に全国的キャンペーンを始めるに至ったという。

一緒に参加した人も意識が高くてびっくりする。ブラジルから来た会社経営者であり、4児の母でもある女性が、

「人生は選択の積み重ねであり、どんな食べ物を食べるか、どんなことに時間を使うか、どんなことにお金を使うかという日常レベルの選択と社会問題は全部つながっている。個人が意識的に選択することを始めるだけで、変化へつながる。」

と言うのを、みんなウンウンうなずく。

豊かな未来を描き、力強く行動している人に実際に会い、想いを共有できたことが一番の収穫だった。


これからの未来

未来は決まっていない。でも、芸術やデザインの歴史を勉強していると、時代によって社会は、「理性と感情」、「物質と精神」、「過剰と質素」など、対峙する二つの概念の両極を行ったり来たりして、一定のバイオリズムを刻みながら進化しているのに気がつく。

社会が一つの極に傾きすぎると、反対の極への欲求が人々の無意識下で次第に起こり、それを反映する商品やデザインが注目を集めて社会をまた新たな方向に動かして行く。 

今の社会をそんな大きな文脈で捉えると、どこからどこへ向かっているのだろう?

物質—精神の軸で見れば、過去何百年かに渡り、物質的な経済的進歩を優先し、欲望と競争心を煽ることでその成長を追求しすぎた結果、世の中は過剰なモノに溢れ、ヒトの心は空虚と不安に悩まされるようになった。その反動で、今、シンプルな暮らしと精神的な豊かさを求める心が徐々にが大きくなっている気がする。





自然との触れ合い、人の創造性、社会とのつながりなど、モノを追いかけているうちに、どこかに置いてきてしまったものたちに再び出会うにはどうしたらいいのだろう?? 昔は良かったとノスタルジックに嘆くことも出来るけど、それじゃあ悲しくなるばかりだ。

そうじゃなくて、今ある社会が進化の過程なのだとしたら、物質面に傾きすぎた状況を冷静に踏まえた上で、心の欲求に行き場を与える方法を、新たに見つけ出すことを考えたい。


ネクスト・ステップ


さて、というわけで全体の方向性というのはいいのだけれど、自分の持ち場を見つけて行動しないことには何事も始まらない。胡麻粒のように小さな存在のわたしでも、何もやらないよりはマシなはず。

今回の出会いに大きな力を得たので、6月末には再びイギリスを訪れ “Green Entrepreneur”という社会起業家のコースに再び参加し、点と点をつなげて、自分にできることをもっと明確にしたいと思っている。

人が自然と調和しながら、創造的なしごとを楽しみ、美味しい食べ物と豊かな文化に囲まれて暮らす。今はまだ本の中のフィクションのような美しい未来を、現実のものとして創りだすために。

小さくてもいいから凛々しく。そんな風に自分の人生を使えたら、、、幸せだなあ。



学校でお迎えにきてくれたアキレスくん。志は高く、でも陽気なかんじでがんばりたい(笑)