2ヶ月かけてコツコツとつくってきた絵本がようやく出来ました。
アンデルセンの未公開処女作に絵をつけました
2012年冬、デンマークの歴史学者がアーカイブで調べものをしていたところ、書類の入った箱の底から、「ろうそく」と題された6ページの手書きの文章を発見しました。
この物語は、みにくいあひるの子や人魚姫の作者として知られる童話作家アンデルセンがデビューする前、まだ18歳だった頃に書いたはじめてのお話と考えられています。
アンデルセンの出身地であるデンマークでは、その未公開処女作の発見がお茶の間を賑わす一大ニュースとなったのですが、実はその翌日にたまたま私はアンデルセンの故郷である小さな町を旅行で訪れていたのです。 平日に、アンデルセン博物館を一人でぶらぶらする日本人女性がめずらしかったのでしょうか、取材に来ていた地元のテレビ局に突然お話の感想を聞かれるというのがこのお話との出会いでした。
心温まるとてもかわいらしいお話です。
少し短くまとめたお話を、挿絵と一緒にどうぞご覧ください^^
「ろうそくのお話」
ある日、真っ白なろうそくの赤ちゃんがこの世に生まれてきます。
白く輝き、傷一つなく、それはそれは完璧なろうそくでした。
実は、ろうそくのお母さんは子羊でした。
お父さんは、その脂をシューシューと溶かす大鍋でした。
ろうそくは、生まれて来た世界のことを知りたくて、ワクワクしながら出かけました。
ところが、会う人はみんな、自分のことで頭がいっぱいで忙しく、相手にされません。
ろうそくを初めて見る人は、それが一体何分からず、「何だこの白くてひょろ長い棒は!?」と言って、好きように使いました。
そのうち、ろうそくは、ひとの手垢で真っ黒な身体になってしまいます。
しまいには役立たずだと投げ捨てられ、優しい人も、見かけが真っ黒なろうそくを恐れて離れていってしまいます。
ろうそくは、とうとうひとりぼっちに。
「神さま、ボクは何のために生まれてきたのでしょうか??」
誰の役にも立たないどころか、お父さんがお母さんがせっかくくれた白い身体をこんなに汚してしまったことを考えると、悲しくて悲しくて涙がとまりません。
ところが、ある日のこと。
小さな火花をパチパチさせた火打箱がやってきました。
実は、火打箱は、目にはみえないものが見えるこころの目を持っていました。
ろうそくに近づくと、その内に秘められたまぶしい輝きを見抜き、そっと火をつけてくれます
火がともされ、冷たく固まっていたろうそくの心は、春の日差しを浴びた雪のように溶けていきました。
ろうそくのしずくは、新しい命のタネのように、次々にしたたり落ちました。
そして、古びた汚れをおおいながら、足元につもりました。
ろうそくは、火打箱から小さな火花をもらいました。
いえいえ、火花だけではありません。もっともっと大切なものも一緒にもらいました。
ろうそくは、自分らしく生きる場所を見つけたのです。
ろうそくは、美しい光でみんなを喜ばせるのが、うれしくてたまりませんでした。
心温まるシンプルなストーリー
この作品は、デビュー前に書かれただけあって、あんまり練られたものではないです。
でも、シンプルで、かわいらしい。 何だかすごく惹かれて、日本に帰ってからアンデルセンの伝記を読みました。 そしたら、このろうそくはアンデルセン自身の人生を描いたものなんだということがわかりました。
アンデルセンは、貧しい靴屋の息子として生まれ、子どもの頃に父親を亡くしますが、母親にやさしく愛情深く育てられます。幼い頃からとても信心深くて、人をすぐに信じてしまう純真さを友達にからかわれたりしていたそうです。偉人の伝記を読んで、「はじめは、とても苦しいことを切り抜けてはいけないけれど、何もかもが、まず不幸のどん底にくると、その時、神様はお助けをおくだしになる。」ということを信じたアンデルセンは、有名になりたいと言って、引き止める母を説得して、大都市であったコペンハーゲンまで一人旅立ちます。
俳優になろうと、ボロボロの洋服を来て、何とか飢えをしのぎながら、コペンハーゲンでの日々を過ごす中で、さまざまな人に出会い、絶望と挫折を繰り返しながら、少しずつチャンスをつかんでいきました。 ろうそくのお話に出てくる火打箱のような存在の人が、アンデルセンにもいたのです。 その人との出会いが転機となり、有名になるという彼の願いが少しずつ形をかえながら実現していくのです。
彼の伝記と併せて読んでいると、自分の可能性を信じる心、周りの人や運命を信頼する純真な心と目標に向かってひたむきに打ち込む姿勢が、次々と助けを呼び寄せて、一滴のしずくがやがて大きな波になっていくのが、リアリティをもって迫ってきました。
アンデルセンからのメッセージ
3年前は、自分の心に正直に、そして自分のもっているものを最大限に生かして世の中の役に立つ生き方をしたいと思い、転職を決心した頃でした。 これからのことに悩んでいる時期だったのだけど、目に見えない何かを信じるってやっぱり大事なんだな思いました。 今の状況、置かれた環境はどうであれ、一番大事なことは、自分の心の奥底にある信じる力なんだと素直に思ったのです。
何だか、時空を超えてアンデルセンに「がんばってね」と励まされているような気がして、本当にお気に入りのお話です。
手作りした絵本を、デンマークにあるアンデルセン博物館に作った本を寄贈したいと連絡したところ、ぜひコレクションに加えたいとのお返事をいただきました。 私のつくった本が、このお話の世界で初めての絵本だと、とても喜んでいただけました。
これでデンマーク悔い無しです*^ ^*