can i kiss and make up? | ムッシュ速報(Theムッシュビ♂ト公式ブログ)



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電車の中ではネットニュースを読む漁ることが多い。大抵は政治や社会の話題。どうしようもない矛盾に少し怒り、脳みそを使うことで自分自身から目を逸らしていられるからだ。

8時間、毎日残業に追われる人たちからしたら、「たった8時間」かもしれないが、それでも終わる頃には鈍い頭痛がして、感受性も何もかも冷凍庫の中で固まって凍っているみたいになってる。

自分が選んだこととは言え、「このままじゃ本業に響くな」と呟く。潮時かなあ、と。


だから、心を解凍したくて、鞄から一冊の本を取り出す。タイトルは「Let's kiss and make up」、「海外では、仲直りの言葉らしいです!」とこの本を書いた彼女は言っていた。


淡いベージュの表紙、薄いピンク色の遊び紙をめくると、冒頭から佐藤心が諸星きらりを語る言葉が踊った。装丁は淡い色でいい。表紙の絵はモノクロの線画でいい。なぜなら、この本にはカラフルな言葉で溢れているからだ、とぼんやり思った。


第1章にあたる「Sugar heart killer」は、「佐藤心と諸星きらりが付き合い始める少し前」を描いている。最初に描かれている佐藤心の姿は、同年代のアイドルたちとの飲み会で、ぐでんぐでんに酔って、9つ歳下のきらりのことでぐだを撒いている。


だってさー、かわいいじゃんよ。どう見たってかわいいだろー


と。


まるで俺たちのようだ。気心知れた友人に、想い人へのほとばしる想い(しかし、現時点では相手へも伝わらず、その想いは何かを成したわけでもない)をぶちまけ、エネルギーを無駄に吐き出す。吐き出さないと潰れそうになるよな、わかるわかる。


そしてその翌日、二日酔いの昼過ぎに、「昨夜の心」という悪友からのLINEから1日が始まる。断続的に鳴るスマホの着信音に何もときめきはなかった、はずだった。


この本はそんなイントロから始まる、繊細で美しい物語だ。


夜の電車の中で、本をゆっくり読むために敢えて各停に乗り、最後まで読みきった。


結末を記すことはしない。が、こんな景色が見たくて生きているんだ、とぼんやり思った。ただ、その景色は今自分が見えているものからはあまりに遠く感じられて、ただ一人、高瀬川沿いの夜の街で腑抜けたみたいに座り込んだ。


だから、作者のきびさんに聞いたんだ。


「この本の佐藤は、最初からこういう未来をイメージしていたんでしょうか?」と。


「してなかったと思います」と。


ああ、じゃあ、きっとそうだ。


想像もしなかった素敵なことは、この先あるかもしれないし、ないかもしれない。


でも、イメージすることはできる。


晴れた早朝の空気みたいに澄んだ「好き」に身を任せたら、少しは描けるのかなとぼんやり思った。


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