タバコを吸う患者の数は多く、以前勤務していたアルコール病棟ではほぼ全員吸っていたぐらいだ。
しかし、昨今喫煙者に対する風当たりは強く精神科病院も例外ではなく院内禁煙となってきているところは多い。
喫煙は様々な疾患のリスクファクターになっている。
それゆえ禁煙指導はどんどん行っていったほうがいいとは思うが精神科に入院している方の場合喫煙がストレス発散になっている事が多くなかなか禁煙は難しい。
それでは精神科における患者さんの禁煙の治療法にはどのようなものがあるのだろうか。
ざっとエビデンスとしてあるものをあげてみる。

・忠告:うつ病の方で1年半のフォローアップで19%の患者で忠告のみで自制ができたという報告がある

・個人カウンセリング:これはうつ病の方で1年半のフォローアップで25%の患者で忠告のみで自制ができたという報告がある

・ニコチンパッチやガム等代わりになるもの;うつ病の方で3ヶ月で36%が自制できた

・ブプロピオン:7調査のメタアナリシスでは6ヶ月のフォローで統合失調症の患者で有意に効果があったという報告がある
誰にでも嫌な出来事などは記憶の奥底にこびりつきそれをみるだけで嫌な気持ちになるといった事の経験はあるだろう。
いわゆるトラウマといった出来事だ。
この症状が重くなるとPTSDとなったりする。
以前は精神分析などを行うことを治療としており莫大な時間と資金がかかった。
ざっと計算すると1時間1万円ほどでそれが少なくとも毎週で年単位とかかる。
2年間かかったとすると100万円以上かかってしまう。

薬物療法も抗うつ薬を使うが、効かない事も多い。

それゆえ治療に難渋する場合も多い。何か他の治療はないだろうか。

ひとつ注目されている方法でreconsolidation(記憶再統合)というものを紹介する。
記憶再統合というものは一度は長期記憶として安定化した記憶が想起されることにより不安定な状態になり、そして再び安定な状態に戻る神経システムを意味する。
ニューヨーク大学のDaniela Schillerは人間において古い恐怖の記憶はreconsolidation期間で恐怖でない新しい情報によって書き換えられるのではないかという事を利用し治療してはどうかという。

つまり高所恐怖症の人にはreconsolidationの期間に高いことは安全だという体験をしてあげればいいとなる。

これはなんとなくショック療法に近いものがあり、昔から言われていることでもあるのだがDaniela Schillerの場合はこれを実験で検証したというところに価値がある。

被験者らに不快な体験を記憶づけそれを呼び起こして不快な体験を不快でないと記憶を再統合させることに成功したのだ。

この手法が確立されればPTSDや強迫性障害の治療などで有効になるかもしれない。
さて前回うつ病について説明した。
そこで共通点があったときづいただろうか?

境界性人格障害もアスペルガー症候群もうつ病もある時点のみをみると

「太いヤリがひとつのところに向かっている」

という点で共通しているのである。(これまで通りヤリは認識や興味の矛先と考えて欲しい)

それゆえこの3つの病気の鑑別が難しく、これが境界性人格障害もアスペルガー症候群もうつ状態になりやすいと言われている理由である。

境界性人格障害は、「太いヤリが不安定に動く」というものであった。
特に境界性人格障害の場合、ヤリが動きやすくいろいろな所に向かうためネガティブな状態に行きがちになってしまう。
ポジティブな気持ちというものは長く続かないためこのように不安定な際はどうしてもネガティブになってしまうのだ。
それゆえ境界性人格障害は常にネガティブな側面に向かいがちであり何をやっても満足ができず慢性的な軽いうつ状態のように見えてしまう。

次にアスペルガー症候群についてであるが、「1本のヤリがひとつのところに常に向かっている状態」というものであった。
これはうつ病の状態と近いため同じように見えるかもしれない。しかし大きな違いはアスペルガー症候群の場合、ヤリは動かないので慢性的なうつにはなりにくい。しかし一度うつ状態になるとなかなか抜け出しにくいといった欠点がある。
アスペルガー症候群は自分のヤリを動かしにくいため重いうつ状態にみえてしまうのだ。

そして3つ目のうつ病に関しては前回記述した通りである。

このようにうつ状態というのは様々な病気でみられるのだが、どういう機序でうつ状態になったかを考えないと治療に難渋してしまうのである。