朝日新聞:親の離婚、子の意見は? 「子どもにやさしい司法」とは 識者に聞く | 親子交流(面会交流)支援団体の代表であり、お坊さんでもあり、母でもある私の日々徒然日記

親子交流(面会交流)支援団体の代表であり、お坊さんでもあり、母でもある私の日々徒然日記

一般社団法人びじっと・離婚と子ども問題支援センターの代表理事であり、大法寺副住職でもあり。そんな自分の日々徒然日記。

 親の離婚によって、子どもたちも生活に大きな影響を受けます。その意見を、裁判所の判断にどう反映させればいいのでしょうか。家事司法の中の子どもの権利のあり方に詳しい名古屋大学大学院の原田綾子教授(法社会学)に聞きました。

     ◇

 今回の民法改正案に「子どもの意見表明」という言葉は入っていませんが、親の責務として、「子の人格を尊重する」と明記されました。既に821条にもある文言ですが、これが重要な視点として改めて検討され、その意義が確立されたことは評価しています。

 

 「子の人格を尊重する」という文言には、子どもの意見が適切な形で尊重されるべきだとの考え方が含まれ、その前提として、子どもの主体性の尊重が求められます。

 

 司法関係者は、子どもの主体性を尊重し、子どもが司法に参加できる環境をいっそう整える努力をしなければならなくなりました。司法の中で、子どもの声を聞く実務につながるような運用が求められます。

 

 誤解されることもありますが、子どもの権利条約にある意見表明権は、子どもに責任を負わせて何かを決めるというものではありません。子どもの声を周囲がきちんと受け止めて考えるという対話のプロセスを大事にするということなのです。

 

 子どもは、親の離婚の中で様々なことを考えています。子どもが離婚手続きに参加すると、何を言うか不安に思う父母もいます。「巻き込みすぎるとよくない」「もめる」と考える人もいるでしょう。

 

 ただ、親の離婚によって将来設計に影響を受ける子どもが、話し合いの蚊帳の外でいいのでしょうか。子どもは親とは違うことを考えている可能性があるということを、大人は重く受け止めなければなりません。

 

 子どもが安心して気持ちを外に出せるように、大人が手間をかけて子どもに関わり、子の最善の利益のために、仮に子ども自身が望まない決定になったとしても、丁寧に説明すること。そのための制度作りには、法案からもう一歩進めて、改善してほしいところがあります。

 

 現在も、家事事件手続(てつづき)法で、親権や別居親との面会交流など、子どもが影響を受ける調停や審判には、「子どもの手続代理人」をつけられる制度が設けられています。裁判官が、子ども専任の弁護士を「子どもの手続代理人」に選任し、代理人は、子ども自身が法廷で意見を述べる手助けをしたり、子どもの意思を代理したりすることができます。

 

 代理人を経験した弁護士に調査したところ、親からのプレッシャーを受けた子どもが本音を言えるようにサポートしたり、子どもの気持ちや意向を文書にして提出したり、一緒に期日に出席したりして、子どもの声が審理に生かされるように、かなり丁寧なやりとりを重ねていました。

 

子どもの手続代理人制度、広げるためにできること

 

 ただ、選任数は多くありません(最高裁判所の調べでは2023年は38件)。事案が複雑になる懸念から裁判官が選任をためらったり、父母に費用の負担が生じたりするため、利用が少ないのが現状です。

 

 裁判官が、家庭裁判所の調査官による調査で十分だと考えていることもあります。しかし、調査官は子どもへのインタビューで意思を把握することはできますが、あくまで中立的な単発の調査にとどまり、子どものために動くことはできません。

 

 子どもの手続代理人は、「あなたの気持ちをこんなふうに伝えたら、こんな影響があったよ」と、子どもにフィードバックすることができます。子どもの意思は変わることもあるので、継続的に関わることができる代理人のほうが意思の把握に適しています。代理人が子どもの声を聴取し、調査官が家庭状況の調査をするといった役割分担をして連携すれば、子どもがもっているイメージと家庭の状況にズレがないかを確認することもできるでしょう。

 

 今後は、できる限り多くの子どもが、手続代理人制度を利用できるようにする必要があります。父母が費用を負担すると、父母の考えに左右される可能性があり、望ましくありません。現在も弁護士会による費用の補助がありますが、国費でまかなわれるように予算化するべきです。

 

 また、代理人になる可能性のある弁護士を含め、司法関係者全体が子どもの人格の尊重を志向し、威圧的な雰囲気ではなく、子どもの気持ちをやさしく聞き取るための研修を受けられるようにしなければなりません。

 

協議離婚にも目配りを

 

 一方、日本では、裁判所を通さず、離婚届を出すだけで離婚が成立する協議離婚が約9割を占めます。協議離婚の過程で、子どもが意見を言えるようになるかどうかは、課題として残されています。せめて、子どもの意見表明の前提として、子どもが十分な情報を得てから意見を言えるような支援をすることが必要でしょう。

 

 たとえば、米国・カリフォルニア州は、「家族は変わる(Families Change)」と題して、離婚を経験する人たちに役に立つ情報を届けるための明るい雰囲気のホームページを作成しています。その中で、「親」「ティーンエージャー」「子ども」と分けて、離婚後の暮らしで失うものを減らせるように、それぞれに適切な情報や動画を掲載しています。

 

 日本でも、相談窓口の情報も含めた冊子を作って学校の先生に配布するなど、子どもに積極的に届ける仕組みを作ってほしいと思います。子どもの人権ホットラインなど相談の間口を広げることも必要です。

 

 発達には個人差もあり、子どもが何歳なら意見を表明できるかという線引きは難しいでしょう。「乳幼児だから分からない」と思いがちですが、大人がその子なりに理解できる言葉で伝え、表情やまなざしからくみ取ることもできるかもしれません。

 

 子どもの意見が反映された決定がされると、自分が大事にされたという実感をもつことができ、子どもの生きる力にもつながります。繰り返しになりますが、子どもの声を聞くことは、人格の尊重と強く結びついています。子の最善の利益の中に、子どもの意見を聞くというプロセスも入っていると考えるべきです。

 

 今回の法案で、子どもの意見表明権を保障するための入り口に立つことができました。これを機に、子どもにやさしい司法を実現してほしいと思います。(聞き手・杉原里美)

 

 

 

 

 

面会交流支援では、「子どもの最善の利益」について、

子どもの意見は「尊重」しますが、

その(個人の感情や偏見などによって色づけられた)意見が、

子どもの「最善」であるのかを常に考えています。