新型コロナウイルス 感染症非専門医から見る医療の現状 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

全国の新型コロナウイルス重症者数が400人を超え過去最多となり、

医療崩壊や、緊急事態宣言という声のトーンが日に日に大きくなっているのを感じています。

 

私の視点では、全国での重症者数が435人というのは1億人単位の国家規模で考えれば、

まだまだ緊急事態宣言などを出すような状況ではないです。

日本国内で他の病気で発生している重症者の数と比べれば、これも桁違いで少ないからです。

 

100万人都市を例に考えれば、1つの100万人都市に4人程度の重症者数となりますから、

常識的に考えれば十分対応可能な規模と思います。

 

現在国が準備している重症者用のベッドは2000程度ですから、それが現在も大きくは増えていないとすると、

現在の使用率は約2割強程度となります。

しかし、重症者数が1000を超えてくると新型コロナ用の重症ベッドは半数以上が埋まってくる計算となり、

一部地域によっては準備した重症ベッドが溢れ、県外への搬送が必要な事態となりうるでしょう。

 

連日、新型コロナのことばかり報道されているので、あたかもこの400や500という数字が夏場の150と比べて、

増えているように感じる方が多いのですが、

この冬に差し掛かる時期というのはあらゆる疾患の重症者が続々と病院に運び込まれる季節です。

特に血圧と連動する血管系の疾患、脳卒中や心筋梗塞などの重症者は増えますし、

冬場の環境と免疫の低下による肺炎などの感染症も例年増加します。

 

たとえば、私の専門である脳卒中を例にしますと、

私の勤務先の病院では11月の頭くらいまでは50床程度の急性期病棟の6割程度くらいしか埋まらない日も多々ありました。

それが、先週から今週にかけて、どっと一気に満床です。

しかも脳卒中は意識障害や、永続的な半身麻痺などの後遺症を残し、中には数日で亡くなるような重篤の方もいますので、

多くは重症ということになります。

新型コロナでは人工呼吸器が話題になりますが、脳卒中でも重篤であれば発症後直ちに呼吸不全をきたして人工呼吸が必要になりますし、麻痺による嚥下障害から誤嚥による肺炎を引き起こし、状況によっては肺全体の機能不全からの人工呼吸となります。

現にこの1週間で当科に搬送された脳卒中患者のうち3名が人工呼吸器が必要となりました。

 

脳卒中という病気だけを見ても、この1-2週間で私の勤務する病院だけで重症者が30人以上増えています。

全国規模で言えば、数千~数万の単位の重症者が増えているでしょう。

 

感染症である新型コロナウイルスと、非感染症である脳卒中などを比較するのはおかしな話ではありますが、

重症度や重い後遺症を残すという点や、

治療が必要な期間や長期のリハビリを要する点で医療への圧迫もひけをとりません。

 

私が言いたかったのは、

そういった他の疾患の重症者が、国の規模で言えば万の単位で増えるのがこの時期であるということです。

コロナで取り沙汰される全国で数百~千程度の重症者数というのは、これら他のメジャーな疾患と比べればずっと規模は小さいということを認識いただければと思い、比較させていただきました。

 

さて、医療崩壊という言葉が躍る中、現在11月28日に私の眼から見た医療の状況についてお伝えしたいと思います。

これは後にも述べますが、私の勤務している病院はコロナ入院患者の入院はありません。

正確には、いざ患者が増えれば入院の受け入れを行政に対して標榜してはおりますが、要請がないというのが現状です。

 

結論から先に申し上げますと、

この1-2週間、続々と脳卒中関連の重症者が運び込まれ、病棟は埋まっておりますが、特に問題なく通常稼働しているのが現状です。

病棟は満床が続いていますが、ベッドが埋まって地域の脳卒中医療が医療崩壊とは呼びません。

どうにもこうにもい満床の際には他で治療できる患者さんの場合は他病院への搬送をお願いしています。

 

私の知る限り、友人が勤務している病院もどこもほぼ通常で稼働しています。

つまり、我々のようなコロナ対応を主としていない医師の目線から見れば、何ら医療崩壊という認識はありません。

我々は通常通り、冬場に激増する脳卒中などの重症患者への診療、緊急手術、予定手術、外来診療を続けています。

我々がtwitterなどのSNSに医療崩壊だ、などとアピールすることは現状ありません。

不運なことに院内で患者職員数人のクラスターが発生し、一時的に救急診療や予定手術を停止している病院はありますが、

ごく一部というのが現状で、通常は周囲の医療機関が穴埋めできる範囲です。

 

しかし、SNSやコメント欄では医療従事者と名乗る方から、

「重症ベッドが埋まり、通常の重症ベッドもコロナ患者に回すことになりました、これはもう医療崩壊です」

というような内容のコメントをよく見かけます。

 

こういった医療従事者のコメントをみると、どこの病院もそのような状況になっているのではないかと誤解される方が多いのではないか、

下手をすると感染症専門家で政策決定に携わる人も影響を受けているのではないか、と私は不安になります。

 

実際には、新型コロナの入院患者を受け入れている病院は地域でも一部です。

そのうち重症者を受け入れている病院は感染症指定ベッドのある病院を中心に、ごく一部というのが現状です。

9割以上の病院は新型コロナ患者の入院診療に現状は携わっていません。

つまり、上記のようなコメントは常に、一部の新型コロナ患者入院を引き受ける病院のスタッフから発せられています。

 

実際に新型コロナ重症患者を受け入れている病院で、且つ首都圏や北海道など重症者がある程度増えている地域では、

コロナ重症患者の一極集中が起こり、集中治療室などの部署でコメントのような状況が生じているのは事実と思います。

そういった新型コロナ重症者に対する医療の最前線で治療にあたっているスタッフの方々には最大限の敬意を表したいと思います。

 

しかし、それを見て医療全体が崩壊しているというような印象を与えるのはミスリードです。

その他9割以上の病院は、私の勤務先もそうですが、ほとんどが通常通りに稼働しているからです。

新型コロナ重症を請け負っている病院の重症ベッドが多少新型コロナ患者に転用されたとしても、

全体としての医療崩壊に直結するわけではありません。

 

新型コロナ入院患者の受け入れは、感染症指定ベッドを有する医療施設を中心に行われております。

感染症指定ベッドを持つ医療施設は特別な補助金を得られますが、感染症患者を受け入れなければいけないというルールがあるからです。

つまり、従来からこういった感染症が広まった際には対応を義務づけられた医療機関となっており、その分補助金が出ています。

 

そしてその感染症指定ベッドを有する医療施設の多くは国公立の病院と、あとは大学病院など公の性格を持つ病院が多いです。

私の勤務先の病院の近くでは、大学病院や市民病院などの公立病院がコロナ入院患者を受け入れています。

コロナ重症患者が公立の性格を持つ一部の医療機関に集まるのはそういった訳では必然的と言えます。

 

それらの医療機関の、一部の科、一部の部署に一極集中的に重症患者の負担がかかっているのが現状ですが、

制度上、また、医療全体を保つ上では現状仕方のない仕組みではないかと思います。

感染症の性格上、いたるところの病院で新型コロナ重症者を引き受けるよりは、感染症を標榜している医療施設に集中した方が効率が良いからです。

その分、私の勤務先のように、コロナ入院を受け入れいていない周辺の病院は冬場に増加する他のメジャーな疾患に十分に対応できるからです。それぞれが役割を全うするしかありません。

ただ、重症コロナを担当する施設のスタッフの方々については敬意を表するとともに、感染症指定を標榜する病院側にも十分な人員配置を整える義務があると思います。そこのスタッフの負担が集中的に高いからこそ、上記したようなSNSのコメントなどが散見されるのでしょう。

しかし、医療全体が崩壊という印象があるかというと、少なくとも私の見るところ、今の所は全くありません。

 

最後に私の勤務先の病院でのエピソードを紹介します。

 

3月、4月に未知の疾患として新型コロナウイルスが国内で流行しだした際、

当院でもコロナの入院患者を受けいれるかどうかという議論が持たれました。

当院は感染症指定ではなく、陰圧室も1室しかないために、複数の入院患者を受け入れるならば病棟単位でコロナ専用病棟にせざるをえないという結論となりました。

 

当院は感染症指定ではありませんが、数年前に新型インフルエンザが流行した際にそれらに対応する前提で自治体から補助や物資を受け取っていたので、いざという際には受け入れなければいけないという義務感があったからです。

 

そこで、要請があった際には普段リハビリや地域ケア病床(軽症の内科患者がメイン)に使用している1病棟50床程度を、まるまるコロナ病棟にすることになりました。そのために病棟に入院している患者さんを徐々に減らすなどしていったのですが、

結局、行政から要請がくることはなく、しばらく病棟をガラガラにした分収益が減り病棟が赤字になっただけでした。

その時は、感染症指定の公的病院や、軽症者用の宿泊施設だけで結局は対応できてしまう範囲だったのです。

 

他の病院経営者から聞いた話もあります。

そこはコロナ病棟を作ったものの、全く病棟が埋まらず、同じく赤字ですぐにやめてしまったという話です。

 

結局、今後入院を要する中等症や重症者が増加し、ニーズが生まれれば、病院側はそれに対応する病棟や病床を生み出すことが可能です。これまでは、私の勤務先のように、コロナ病棟を作ったとしても全く埋まらないから結局準備病床が増えなかったという面があります。公的病院を除けば、病院も経営が成り立たねば潰れてしまいますので、コロナに関しても病床が埋まる算段が立たないと病床を作れないという背景が私立の病院にはあるのです。

 

ところで、専門外の病棟や病院でもコロナの患者がみれるの?という意見があると思いますが、

まず軽症であれば病院入院の目的は主に隔離になりますので、自分たちの感染対策以外に私たち医療者がやる特別な治療はありません。肺炎などの中等症であれば点滴や酸素投与ですから、十分可能です。

スタッフが感染してしまうというリスクは完全にはゼロにできませんが、現実的には重症化リスクの低い30代までを中心にスタッフを組むしかないでしょう。

 

実際、現在の東京の重症者は40代2名、50代9名、60代13名、70代24名、80代12名ということですから、

30代以下は陽性者は多くても重症者はほとんどいないということです。

 

重症に関しては人工呼吸器対応までは、保有する人工呼吸器の台数まで対応可能です。

少なくとも私の勤務先のように普段から脳卒中で人工呼吸器を使う部署は人工呼吸器には慣れています。

慣れていなかったとしても、1日2日真面目に勉強すれば基本的な扱いは医師も看護師も習得できます。

 

かくいう私も研修医になって日も浅い時期に、ローテーションである日突然人工呼吸器が装着された患者を数人持つことになり、

慌てて1日、2日で本を読み漁りました。

 

唯一、ECMOだけはこれは体外循環装置ですから、真に専門的な臨床工学士や医師、看護師がいないと難しいと思います。

ただ、ECMOは現在国内で10台程度しか重症コロナ患者に稼働していないようです。

これはネット上で確認することが可能です。

 

このような超高度医療機器というのは適応が狭いのでそう多く適応患者が増えることはないと思います。

多くの患者はECMOなしでも回復する、もしくは、ECMOをしても助けることが難しい状態、のどちらかだからです。

 

 

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