6月。
湿った夜風に吹かれながら、港にたたずむ男が一人。
雲がかかっていてもなお、煌々と輝く月を見上げて彼はひっそりと溜息を吐き出した。
「はぁ、俺一人でどうしろっていうんだよ」
呟きに応えるのは、波の音ばかり。ふと、聞こえるはずの無い言葉を想像して、彼の口元に笑みが浮かんだ。同時に左目の下から頬にかけて刻まれた傷も自嘲的に歪む。
「ひとりぼっちってのは、こんなに寂しいもんだったかな・・・・・・」
つぶやきの後、彼の視線は手の中に落ちた。
視線の先にあるのは、金色の髪飾りだ。弓のような形をしたそれを手の中でゆっくりと弄ぶ。この髪飾りの持ち主は、深い深い眠りについてしまった。いつもは、うるさいくらいに思っていたのに、今じゃあのヒステリックな叫びさえも懐かしく感じる。
「もう、6月か……」そっと、目を閉じると数週間前の出来事が鮮やかに蘇る。
『あんただけが頼りなんだからね』
眠りにつく前、彼女は眉間に皺をよせ厳しい顔で彼にそう言った。
『いい?劔が消えたのは、アンタも感じたでしょ?
つまり、今の私達にはオーガ様を復活させる手段が無い。
でも、逆に言えばヤツルギ達も私達を封印できない。だから、今がチャンスなの!
封印の劔に匹敵するほどの力を手に入れることが出来れば、オーガ様を復活させる事ができる!!
そしたら、ヤツルギにだって邪魔されずに地上を海底帝国のものにできるのよ!!』
そんなに上手くいくのか?と問いかけたら、上手くいかせるのよ!と怒鳴られてしまった。
気の強い所は、昔から変わらない。
『じゃあ、私はしばらく眠るわ』
彼女の魂が、髪飾りの中へ吸い込まれていく。それと同時に、彼女の姿も徐々に薄くなっていった。
『・・・・・・ファンガーク、がんばんなさいよっ!!』
最後の最後に聞こえた励ましの声に、瞳の奥から熱いものが沸き上がり零れ落ちそうになる。ぐいっと、それを拭って笑顔で頷いて見せたのだった。
「つっても、劔の代わりなんか本当に見つかんのか~?」
とりあえず木更津の周辺を探し回ってみたものの、それらしきものは見つからない。
本当にあるのかもわからない物を探し出す不安に、彼の心は押しつぶされてしまいそうだった。
そんな彼の背後から、奇妙な声が聞こえた。
「ギョギョギョ~~ッ!!」
「あ?」
振り向くと青い影が橋って近づいてくるのが見えた。見覚えのあるその姿に思わず喜びの笑みが浮かんだ。
「おぉっ!!ギョジーン兵っ!!!」
「ギョギョッ!!ギョギョギョ~~ッ!!!」
久しぶりの再開に、二人は抱き合って喜んだ。だが、すぐにギョジーン兵は慌てた様子でズボンのポケットの中を探り始めた。
「どうしたんだよ?」
「ギョ!ギョギョ~ギョギョギョッ」
ギョジーン兵は、ポケットの中から小さい透明な欠片を取り出すと、彼の目の前に差し出した。彼は、恐る恐る透明な欠片を受け取り、じっくりと眺める。
何の変哲も無い透明な欠片。大きさは五センチほどで、掌に丁度おさまる大きさだ。なのに見た目より重さがある。
石だという事は何となくわかった。だが、これに何の意味があるかなど、彼には見当もつかなかった。
「それで、これがどうしたって言うんだよ?」
「ギョギョ~ギョッギョギョ~ギョギョギョ~!!」
ギョジーン兵は、ジェスチャーも交え必死にその欠片がなんなのかを説明する。彼は、その動きをじっと見つめる。ジェスチャーを見終えた彼は、納得したように頷いた。
「ほぅ~、つまりこれは地底帝国の奴らが持ってた、水晶の欠片ってことか!?」
「ギョギョ!!」
ギョジーン兵は、手をたたいて頷く。
「で、その水晶の欠片が何の役にたつんだよ?」
彼は、眉間に皺をよせ不思議そうにギョジーン兵を見つめた。
「ですから、この水晶は強い力に反応するんですギョ!きっと、劔を越える力を持ったモノを探し出すのに役立ちますギョ!!」
「おお~、そういうことか・・・って、喋れるんなら早く喋れよっ!!」
彼は、ギョジーン兵の頭をスパーンっと叩いた。ギョジーン兵は、叩かれた所をさすりながら申し訳なさそうにギョギョっと呟き、頭を下げた。
彼は、髪飾りをポケットに押し込むと水晶を握り締めた。
これで、少しは目的のものが見つけやすくなるかもしれない。そう思うと自然に気持ちが前を向いた。
大体、あきらめるなんて自分らしくなさすぎるだろ。彼は、心中でそう呟いて勢いよく立ち上がった。
「よっし・・・・・・じゃあ、行くぞ!!」
「ギョッギョ~!!」
一歩ずつしっかりと歩き出す。
旅がどんなに長くなろうと、またここに帰って来なければならない。
俺の帰るべき故郷は、もうこの海しかないのだから。
「オーガ様、待っていてくださいね~っ!」
暗い海に彼の声が響き渡る。
叫びの後、彼とギョジーン兵は海に背を向けて歩いていった。振り返る事を恐れているかのように、前だけをただ真っ直ぐに見て行ってしまった。
彼の声に応えるものはやはり無かった。
ただ波音だけが、彼らの背中を見送っていた。
- おしまい -
以上、もものすけの妄想小話でございました。お粗末さまでございました。
なんでこんな話かというと・・・・・・なんと、ファンガーク様の出番が6月のアクションショーで最後なのです!!
また、いつの日かきっと会える事を信じたいので、『さよなら』は言わず『またお会いしましょう』でお別れしたいと思います。
7月からのアクションショーがどうなるかは、もうちょっと楽しみにとっておきます(´∀`*)ウフフ
海底帝国バンザーイ!!!
そしてダンス部Tシャツは、明日締め切りです!!
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