山口県下関市の北部の豊北町に特牛港(こっといこう)がある。ここにはこの地固有の牛の種を古代から繁殖、飼育し、農耕用に販売して来た。特に、気の荒いオス牛を特牛(こっとい)牛と呼んでいる。この語源は不明であるが、日本で唯一の牛の種類の固有名詞である。
万葉集16-3838の事負乃牛(ことひのうし)を牡牛(オス牛)と理解することが万葉時代からの常識とすれば、特牛港で飼育、販売される特牛牛はこの時代には中央にまで使役され有名であった証しとなる。他に、巻9-1780番に牡牛(ことひうし)が見える。巻16-3886番は単に牛とある。
参考
原文: 吾妹兒之 額尓生 雙六乃 事負乃牛之 倉上之瘡
訓読: 我妹子が額(ひたひ)に生(お)ふる双六の牡(ことひの)牛(うし)の鞍(くら)上(へ)の瘡(かさ)
訳: 私の愛しい妻の額の二つの、双六の勝負に負けた形の牛の、牡牛の倉の、鞍の上の瘡
訓読: 我妹子が額(ひたひ)に生(お)ふる双六の牡(ことひの)牛(うし)の鞍(くら)上(へ)の瘡(かさ)
訳: 私の愛しい妻の額の二つの、双六の勝負に負けた形の牛の、牡牛の倉の、鞍の上の瘡
注:
無心所著謌二首
標訓 心の著(つ)く所無き謌二首(3838と3839)
万葉集巻9-1780番では、「牡牛の」の「ことひうし」(牡牛)は、重い荷物を背負うことのできる、強健な雄牛。その「ことひうし」が貢ぎ物を屯倉(みやけ)に運ぶことから、地名の「三宅」に掛かる枕詞となっている(参考)。