《前編からの続き》
あれから沢山の季節が巡りました。
おばあちゃんが亡くなりました。
初めて経験した身内の死でした。
私は家を出て一人暮らしを始め、兄は結婚して実家で暮らしています。
相変わらずの心配性で口うるさい為、一人息子には嫌がられています。
お陰で、私は解放されています。
ある日珍しく兄からメールが来ました。
「鈴やんの木を切ったよ。虫が酷くて、 消毒しても、どうにもならない。
残念だけど、親父と相談して切ったから」
飛んで帰りました。
20年位前に3人で植えた鈴やんの木はばっさり切られて、地面すれすれのところに切り株が残っているだけでした。
「なんで、切っちゃったの? 酷いよ」
私は半泣きで兄に抗議しました。
殆ど実家に帰らないくせに、そんな事言う権利なんてないはずなのに。
兄は、「他に方法がなかった」とだけ言いました。
鈴やんの木の切り株の前で泣いてる私と、途方に暮れる兄を心配して、甥っ子が近付いてきました。
「すっげーベタベタの虫でさ、野球のボールとか木に触ると使えなくなるくらいなんだよ。
それにもう枯れてたよ」
一生懸命 父親である 兄を庇っています。
10歳。
鈴やんの木を植えた頃の私の年齢です。
「恵利ちゃんごめんね。 洗濯、外に干すのにちょっとね。それに他の木にも移るって言われて、ごめんね」
優しい義姉が言葉を掛けてくれます。
そう、時は流れているのです。
新しい家族がここにしっかり根を張って、新しい時を過ごしている。
センチメンタルなだけの私の我が儘を押し付けたりしたら、それこそ鈴やんに叱られてしまいます。
「いや~ちょっと思い出に浸っちゃってね。ごめん、お義姉さん」
義姉に謝りながら、私はこれでいいんだって思いました。
そうです。
新しい家族がここには根付いているのです。
そして先日、私はこの義姉に呼び出されて実家に帰ることとなりました。
とにかく、暇を見て一度来いというのです。
行ってきました。
平日ですから 兄も甥っ子もいません。
父と母は出かけていて、義姉が迎えてくれました。
「恵利ちゃん ほら」
庭先で待っていてくれた姉が指差す先には、切り株から伸びた枝に、たっぷりと芽ぶいた鈴やんの木がありました。
「あっ 復活してる」
驚きの声を上げる私に義姉は言いました。
「あれから少しずつ株から芽が伸びたの。 植木屋さんに聞いたらね、また元に戻るって、根性あるよね、さすが伸一さんの木」
「伸一さんって?」
私は聞き返しました。
「鈴木伸一さん。恵利ちゃん知らなかったの? 私は結婚前から 嫌って程聞かされてるわ、鈴木伸一さんの話、伸びるって書くのよ。」
「鈴木伸一さん、、鈴やん、伸一さんて言うんだ。
そりゃ伸びるよね」
義姉と私は声を上げて笑い、私は途中から涙が溢れて止まらなくなりました。
涙はどんどん出て来ます。
心の中から湧いてきます。
だけどそれは寂しさだけのものじゃなく、義姉の優しさや兄の気持ち、それに少しだけ大人になれたような思いが入り混じったものでした。
鈴やんの木、切られたってまた芽吹いてきた鈴やんの木。
もしも辛い事があったって、きっと何度でも立ち直っているはずだよね。
拝啓 鈴木伸一様
お元気ですか。
あれから沢山の季節が流れました。
鈴やんが大阪へ行ってしまってからは寂しくてたまりませんでしたが、鈴やんはいつでも、もっともっと寂しかったんだって分かった時、今まで感じた事がないくらい、切なくなりました。
気付けなくてごめんなさい。
お母さんは泣いていました。
私は胸が苦しかった。
お兄ちゃんは、お父さんと二人で、いろんな所に連絡を取っていましたが、やがてそれを辞めました。
どうして辞めたのかは、教えてくれませんでした。
大阪のおばさんには会えましたか。
おばさんは鈴やんに優しくしてくれましたか。
頭に手をのせて、笑ってくれましたか。
私は大人になったけど、なかなか本当の意味で大人になりきれていない気がします。
だけど、大切な人を心配させないって約束、忘れてないよ。
大切な人を心配させないって事は、自分自身がいつでも幸せである事だと思いました。
自分自身を大切にしながら生きて行く。
いつも笑顔でいること。
そうすれば、大切な人達は安心してくれるように思います。
それは、近くにいても、遠くにいても同じだと思います。
私はまだまだ出来ていないけど。
鈴やんは今幸せですか。
幸せでいてください。
仕事は何をしてるのですか。
恋人はいるのですか。
結婚はしているのですか。
私達の事、覚えててくれてますか。
私は鈴やんが大切です。
鈴やんも私を大切にしてくれました。
大切な人を心配させてはいけないんだよね。
だから鈴やんも幸せでいてください。
笑っててください。
そしていつか
幸せなあなたを見せてください。
お兄ちゃん、
ありがとう。
......................
長いのに、最後まで、読んで下さって、ありがとうございました。
いつか書きたかった日記でした。
だけど、なかなか書けなかった。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
それから、書くきっかけをくれた日記コミュ
「日記☆ええじゃないか♪」
それから、天軍の皆さん、ありがとうございました。