渋川版『御伽草子』十九「一寸法師」前編 | うぃんどふぇざぁ

うぃんどふぇざぁ

歴史とゲーム好きの小人族の一人がなにやらもそもそするブログ

中ごろ乃ことなルに。津の国(くに)なにはのさとに。おうぢと。うばと侍(はんべ)り。うば四十にをよぶもので。子(こ)乃なきことをかなしミ。すミよしにまいり。なき子をい乃り申に。大明神(ダいミやうじん)あハれとおぼしめして。四十一と申に。タヾならずなりぬれば。おうぢよろこびかぎりなし。やがて十月(とつき)と申に。いツくしきおのこを
まうけ  ケり

さりながら。うまれおちてより乃ち。せい一寸(すん)ありぬれば。やがてそ乃なを。一寸ぼうしとぞなづけられタり。とし月をふるほどに。はや十二三になるまでそダてぬれどもせいも人ならず。つくゝとおもひけるハ。タヾものにてハあらざれ。タヾばけ物ふせいにてこそ候へ。われらいかなるつミ乃むくひにて。かやうのものをば。すミよしより給ハりタるや。あさましさよ
と。ミるめもふびんなり。ふうふ思ひけるやうハ。あ乃一寸ぼうしめを。いヅかタへもやらバやと思ひけると申せバ。やがて一寸ぼうし此よしうけ給り。おやにもかやうに思ハるヽも。くちおしきしダいかな。いツかタへもゆかバやとおもひ。かタななくてハいかヾと思ひ。はりを一ツうばにこい給へバ。とりいダしタびにける。すなハちむきハらにてつかさやをこしらへ。都(ミやこ)へのぼらむやとおもひ
しが。しぜんふねなくてハいかヾあるべきとて。又うバにごきと。はしとタべと申うけ。なごりおしくとむれども。タち出(いで)にケり。すミよしのうらよりごきをふねとしてうちのりて。ミやこへぞのぼりける
すミなれし  なにはのうらを  タちいでヽ
ミやこへいそぐ  わかこヽろかな

かくてとば乃津にもつきしかバ。そこもとに乃り捨(すて)て都(ミやこ)に乃ぼり。こヽやかしことミるほとに。四でう五でうの有様(ありさま)。心もことばにもをよバれず。さて三てうのさいしやうどのと。申人乃もとにタちよりて。物申さんといひケれバ。さいしやうとのハきこしめし。おもしろきこゑときヽ。ゑんのはなへタち出て。御らんずれ共人もなし。一寸ぼうしかくて人にもふミころされんとて。有つるあしダ
乃下にて。物申さんと申せバ。さいしやう殿(どの)ふしぎ乃ことかな。人はみえずして。おもしろきこゑにてよばハる。出てみバやとおほしめし。そこなるあしダはかんとめされケれば。あしダ乃下より。人なふませ給ひそと申。ふしぎにおもひてみれば。いツきやうなるものにて有けり。さいしやう殿(どの)御らんじて。げにもおもしろきものなりとて。御わらひなされケり

かくてとし月をくるほどに。一寸ぼうし十六になり。せいはもと乃まヽなり。さる程(ほど)にさいしやうどのに。十三にならせ給ふひめぎミおハします。御かタちすぐれ候へば。一寸ほうしひめきミをみタてまつりしより。思ひとなり。いかにもしてあんをめぐらし。わが女(ねう)ばうにせばやとおもひ。あるときミツものヽうちまきとり。茶袋(ちやぶくろ)に入。ひめきミ乃ふしておはしけるに。はかりことをめぐ
らし。ひめきミ乃御くちにぬり。さてちやぶくろばかりもちてなきゐタり。さいしやう殿御らんじて。御タづねありケれバ。ひめぎミ
乃。わらハがこのほどとりあツめてをき候うちまきを。とらせ給ひ御まいり候と申せバ。さいしやう殿(どの)大(おほき)にいからせ給ひけれバ。あん乃ごとくひめぎミ乃
御くちに  つきて  アり