連休明けの朝、満員の通勤電車はトラブルの為かなり遅れて
いました。
無言の車内でちょっと離れたところにいる誰かの舌打ちが
聞こえてきたり、「あ~ついてない」みたいなつぶやきが
どこからともなく聞こえてきたとき、もう、20年以上は会って
いないバイクの先輩Dさんをふと思い出しました。
何で知り合ったのかというとバイク屋さんが同じだっただけなんですが
立ちごけしてクラッチレバーを折ってしまい何キロも家から押してきた
とのこと。
…別にわざわざ何時間もかけて押してこなくても、レバーだけ買いに
くればいいのではないか、などと、そのときだけ合理的な思考が働いて
しまったのですが…
Dさんのセロー。初めてあったときからとにかく「ボロボロ」でした。
いわゆるレースなどで使用してボロボロになった感じではなく
日々の地味な生活の中で疲れてきた感じとでも言うのでしょうか。
シートの表皮も、心無いいたずらのせいかカッターで切られて
スポンジが見えていたり、ハンドルは、数知れないほどのたちごけ
のせいか、なんとも微妙にゆがんでいてDさんのトホホなバイクライフを物語っているような気がしました。
残念ながらバイク屋にはクラッチレバーの在庫がなく、取り寄せになるため数日かかりそうとの話を聞きがっかりするDさんの悲しそうな顔を見ていたら、スキマの心の中に不思議な親切心が芽生てきてしまい、自分の手持ちのガラクタの中からなんだか合いそうなレバーがあったのでとりあえずそれをつけて走れるようにして、帰ってもらうことにしました。
ちょっと傷の入ったレバーでしたが、あるとないとでは大違い。
Dさんはすごく喜んでくれてスキマに近所の自販機から缶コーヒーを買ってきてくれたのでした。
そんな不思議なご縁でDさんとは、道ですれ違うと挨拶したりするようにり、ショップのプチツーにも参加してきたので話す機会もあったりしました。
…ツーリングなのに、町工場に通う作業着姿のDさんは
あまりに平常心すぎてちょっと違和感が~(^。^;)
たぶんツーリングのお昼ご飯は伊豆のどこかでジンギスカンだったと思います。半球形のヘルメットみたいな形の鉄板にお肉をくっつけてジューって焼いていたので。
同じテーブルに座ったDさんの話は、他のバイクのり達の話とは異なり、とても不思議な内容でした。
宇宙の話、哲学の話…
その中に人間の幸・不幸の話がありました。
人間の幸せや不幸というのは一定量決まっていて
そのバランスが大切。
一度に沢山の幸せや不幸が訪れることのないよう
過すのが、最上の生き方なんだとDさんは力説してました。
たとえば、自分は何回も立ちごけを繰り返して
いるが、そうやって小さな不幸を積み重ねて
いるから、大事故のような大きな災難からは
避けていられるのだというのです。
スキマは「なんだか大きなローンを組んで
分割払いにしていねみたいですね~」と
言ったら。
Dさんは小さく何度もうなづきながら一言。
小さな不幸というのは厄落としのようなもの
なんだから、くよくよしてはいけないよ。
合っているかどうかは別として、なんだか
心の奥底に残る一言でした。
お昼を食べ終わったあと、リヤシートにてんこ盛りの
荷物をくくりつけたセローに跨ろうとしたとたん
足を引っ掛けて、反対側に倒れていくDさんを発見。
急いで駆け寄ってみると、今度はブレーキレバーが…
アルファベットの「J」の文字のように曲がって
しまいました。
まあ、何とか指はかかるから、と言ってそのまま
帰路についたのでした。
その後何度か話をしたりしていたのに、いつしか
見かけなくなってしまったDさん。
今頃どうしているのだろう…