飛行機乗りの3割頭 ~「まさか自分が」の危険性~ | トキワのもり

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"今日のメニュー"はトライアスロン。"今週の飛び"はハンググライダー。書くときに書く。

あけていますおめでとうございます。


先日新年初飛びをしました。

ハングではなく、最近練習を始めたパラグライダーです。

3本飛んだのですが、最後の3本目で・・・




山沈しました。


沈問題の画像



<#13,2015.01.11>(↓フライト詳細)
晴れ、本流は南風。14 時頃、西風が落ち着き東からも南風の回り込みでテイクオフに風が入るようになった。ベテランパイロットから東に出始めた。北斜面でリッジを取っている機体がちらほら。
14 時半頃自分もテイクオフ。南風本流なので北斜面に張りつきリッジを狙う。
リッジはいい練習になるので、ハングのときと同じようにわくわくしながら山際を攻めていった。
どこでも上がるというほどではなかったので、慎重に上昇帯を見極めながら 20 分ほどかけて 150m ほど上げてトップアウトした。パラであることを考え、尾根上から北には行かないよう注意し、必ず南側にいるようにした。
山頂を少し見上げるくらいの高さになったので、テイクオフ北側よりの上昇帯も使えると考えて西方向への移動を伸ばした矢先、強めの南風が突発的に吹いた。
おかしいと思ったときにはすでに遅く、バサバサという音を立てて機体はつぶれた。ローターをもろに食らったのだろう。瞬間テンションが抜け、30m ほど急降下した。
翼が回復したときには機体は 180 度向きを変えていて、目の前には木が迫っていた。
すでに四方は木に囲まれて逃げ場はない。覚悟を決めて一気にフルフレアーをかけた。
奇跡的に機体がひっかかった位置と自分のハーネスがひっかかった位置の距離が、ラインの距離とほぼ同じだったために衝撃はほとんどなく、無傷ですとんと木に座ることができた。




機体がつぶれて「アッ!」と思ってから 10 数秒後にはちょこんと木の上にいたのです。

だのにひどく「冷静」でした。

感情なしでひょうひょうと「山沈しちゃいましたー ごめんなさいー 回収お願いしまーす あ、怪我はありませーん」なんて無線を入れ、自己確保をしていました。

自分のいる位置、機体の状態、木の太さ・形などを確認して、自分がかなり安定している状態にあるとわかりました。

無傷どころか痛みもまったくなく、機体も装備も損傷はありませんでした。

だからなにも焦る気持ちはなく、「まぁ助かるだろう」とゆったり待っていました。




無事に帰ってきて、あらためて振り返るとこれはとても怖いことだなと思いました。



山沈したらどんなに自分で木から降りられそうだと思っても、救助を待つのが鉄則です。
(山沈での死亡事故のほとんどはパイロットの自力の脱出の失敗による滑落です)


いざ当事者になるとこの鉄則を知っていてよかったと思います。


「飛行機乗りの 3 割頭」という言葉があります。

空中では地上にいるときに比べて、どうしても判断力が鈍ってしまう。
どんな達人でも、後で地上で考えたら、何でこんなことしたんだろう、というミスをする。
地上の3割しか頭が働かない。
なぜか。

「畳1枚の幅の道を歩け」と言われたとして、地上なら簡単。
では上空 2000m に畳1枚の幅の道があったら、平気で歩けるか?




普段は飛んでいるのに、今回は落ちて、地面から 15m くらいの木の上にいるという状態では、「3 割頭」どころではないと思うのです。

そんな状態の頭でいくら「冷静」な判断を下そうが、まったくもって信用できないと言ってもいいでしょう。



「あちゃー・・・山沈しちゃったよ。でも意外と平気なもんだな。

こんだけ丈夫な木の枝だし、おれの体勢もいいし、場所もわかりやすいから絶対助かるな。

・・・まぁでも一応自己確保するか。あと一応片腕は木に巻きつけとくか。

この木、登りやすそうな形だな。ロープあるしそんなに高くなさそう※だし自力で降りられそうだな・・・ま、待っとくか」

(※降りて見上げたら木は斜面に生えていて、根元から考えると木の高さは 7m くらいでしたが、真下の道からは 15m ほどの高さにいました。木の上にいるときは根元を見ていたので実際の高さよりも低い位置にいると思っていたのです)



いつまた強い風が吹いて機体が飛ばされるかもわからないですし、木の枝だって折れない保証はありません。

非常事態下にあるのに楽観的に考えるのは最悪の事態を招く可能性を増やすだけです。

今回は結果としては正しい判断が下せましたが、思考のプロセスを振り返ると背筋が凍る思いです。



そもそもローターに叩かれたのも、突発的だったとは言え、予想が甘かったのとハングでの経験を過信しすぎていたのが原因です。

パラの操作の習熟は十分ではなく、特性も体で覚えるまでには至っていない状態で攻めていい空域ではありませんでした。



謙虚に飛ばなければなりませんね。