旅の終わりはさくら観光の豪華夜行バス「Quality Express(クォリティエクスプレス)」 | ごんたのつれづれ旅日記

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バスや鉄道を主体にした紀行を『のりもの風土記』として地域別、年代別にまとめ始めています。
話の脱線も多いのですが、乗り物の脱線・脱輪ではないので御容赦いただきまして、御一緒に紙上旅行に出かけませんか。

4月最初の日曜日の夜、金沢からの帰りに名古屋に立ち寄って高校時代の同窓生と楽しく歓談した僕は、名残惜しかったけれども午後11時に席を立った(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11827608241.html)。


同じ時代を生きてきて、異郷の地で頑張っている友人と会うのは、つくづくいいものだと思う。
高校時代にはそれほど親密な間柄でなくても、不思議と場が盛り上がって話が尽きなくなり、東京行き夜行バスの切符なぞ打っちゃっても構うものかという心境になってしまう。

それでも後ろ髪を引かれる思いで、名古屋駅太閤通口のJRバス乗り場の脇にある「ゆりの噴水」前に戻ってきた。
一緒に見送りに来てくれた友人が、

「バスは23時15分発なんだろ? どうせ待たされるんだから、ギリギリでいいんじゃね? もう少し飲もうよ」

と言ってくれたのだけれど、これから乗る高速乗合バス会社のHPには『発車時刻の10分前までには受付をお済ませ下さい』と書かれているのだから、やむを得ない。
これに乗り遅れたら、翌日の仕事に差し支える。

 

 
 

ひっきりなしに各地へ向かう夜行バスが出入りしているJR乗り場の中を通りながら、その友人は、

「ほう、すげえなあ、こんなに夜行バスに乗る人がいるんだ」

と驚いていた。
仕事柄、名古屋から各地へ出張することが多い友人だが、夜行高速バスは利用したことがないという。

23時発の東京行き「青春ドリームなごや」2号と「青春レディースドリームなごや」2号、松山行き「オリーブ松山」号、大阪行き「青春大阪ドリーム名古屋」1号、23時10分発東京行き「青春ドリームなごや」4号、23時15分発金沢行き「北陸ドリーム名古屋」号、23時20分発東京行き「レディースドリームなごや2号」、23時30分発岡山・倉敷行き「両備エクスプレス名古屋」号などが、ロータリーにずらりと並び、乗客がひしめいている様は、確かに壮観だった。
年末に金沢行き「北陸ドリーム名古屋」号を利用した時に眺めた光景と、全く同じである。


 

唯一異なるのは、この日の僕が、JRバスではなく、元ツアーバスの高速乗合バスに乗ることだった。
前もってネットで予約しておいたのは、「桜交通」の新宿行き夜行便である。
コンビニで料金を振り込んだ時に手に入れた乗車券には、「23:15発 NA 04便 Quality Express」と記載されている。

「桜交通」は福島県白河市に本社を置くバス事業者で、平成15年に仙台と福島・郡山を結ぶ高速バスに参入、以前より運行していたJRバスや宮城交通・福島交通の既存路線と激しい値下げ合戦を繰り広げたのは有名な話である。
平成17年にはいったん路線を休止させたけれども、子会社の「さくら観光」が主催する首都圏と東北、中京、関西を結ぶツアーバスの運行を続け、昨年、全てのツアー路線が高速乗合バスとしての許認可を受けたのである。
「さくら高速バス」と名付けられた同社の高速乗合路線の予約は、今でも、「桜交通」ではなく「さくら観光」のHPで受け付けられているが、それはツアーバス時代の名残なのであろうか。

 

 

 

「ゆりの噴水」付近には、様々な高速乗合バスの係員があちこちに立っていた。
どの係員に声をかければいいのか迷ったけれども、案内板に「さくら観光ミルキーウェイEXP」と掲げている赤いジャンパーの女性に声をかけてみれば、

「あ、Nで始まる便は、あちらの係員にお願いしまーす」

あとで調べてみると、「ミルキーウェイEXP」は埼玉県に本社がある「さくら観光」という同名の高速乗合バスで、首都圏から仙台、名古屋、関西方面へ路線を展開しているが、僕が乗ろうとしている「桜交通」とは全くの別会社だった。
「ミルキーウェイEXP」の係員は、少なからず同じ質問をされているのであろう、いかにも手慣れた様子で滑らかに答えてくれたが、よく、面倒くさそうな表情をしなかったものと思う。

 


彼女が指さした方向には、10mほど離れて黄色いジャンパーを羽織った女性が数人の利用客に囲まれていた。
手持ちの乗車券を見せると、便名が書き込まれた小さな紙片を僕に渡しながら、

「23時15分になりましたらバスへ御案内致しますので、これをお持ちになって、もう1度ここへお越し下さい」

とにこやかに言った。
なんだ、結局は発車時刻に来れば良かったんじゃん、と僕と友人は顔を見合わせて苦笑いした。
寒かったのでJRバスの待合室を拝借して立ち話をしていれば、あっという間に時が過ぎた。
友人とは集合場所で別れた。

先ほどの女性係員が、

「『さくらQuality Express』NA004便、新宿行きを御利用のお客様はぁ、これよりバスの方へ御案内致しまーす!こちらの歩道をまっすぐに歩いていただきましてぇ、信号を渡ったところにバスがおりますのでぇ、そちらの係員の指示に従って下さーい!」

と大声を張り上げている。
メガホンもなく肉声での案内だったから、大変だな、と思う。

御案内と言っても、係員が引率するわけではない。
他社の出発便とも重なったようで、数十人の乗客とともに、広々としたJRバス乗り場から颯爽と発車していく定期高速バスを横目にぞろぞろ歩いていると、どことなくうらぶれた心持ちにさせられる。
空港で、JALやANAの広大なカウンターの隅っこに追いやられた格安航空会社の便に乗る時と似ているような感覚で、何となく自嘲気味になった。

「2列に並んで信号をお待ち下さーい!横にはみ出ないようにして下さーい!はい、後ろから自転車が来まーす!道をあけて下さーい!」

歩道の要所要所では警備員さんが声を涸らして交通整理を行っているが、乗客たちは連れとの話に夢中になっているか、または1人で俯いて無反応かのどちらかである。

  


名古屋駅から則武1丁目交差点へ向かって少し歩いた、ホテル「ザ・グランドティアラ」の向かいの新幹線の高架下が、元ツアーバス系統の高速乗合バス乗り場である。

何の変哲もない道端に、ずらりと高速乗合バスが並んでいる様子は、昔のツアーバスの雰囲気そのままだった。

先頭のバスから順番に呼び出しがあり、列を離れた乗客の改札をしながら1台ずつ発車していくから、

「『さくらQuality Express』NA004便のお客様、お待たせ致しました。こちらのバスへお乗り下さい」

と案内されるまで、少しばかり時間を要した。

 


 

僕が乗るバスは、白地にピンク色の波線と桜の花びらがデザインされ、「SAKURA QUALITY EXPRESS」と大書されている韓国製ヒュンダイ・ユニバースの車両だった。

全員の改札が終わって出発準備がすっかり整ったのは、23時30分を過ぎていたような気がする。
このあたりの時間の流れも、元々の高速バスとは違う、ツアーバスの感覚である。
航空機でも、出発時間はプッシュバックが始まった時などと定義されているから、鉄道と同じように杓子定規に考える必要は何もない。

若い運転手さんが係員さんに、

「前のバス、すぐ出発するの? 時間かかるの? 行っちゃダメ?──じゃあ、あと10秒!」

などと声をかけている。
間隔を詰めてバスを縦列駐車しているから、前のバスが発車するまで動けないのであろう。
せっかちな運転手さんなのかなと思ったが、あと10秒、というのは多分に冗談っぽい口調だった。

このバスと他のバスでは乗車人数に大きな差があるから、乗りこみに要する時間も当然異なるだろうと思う。
前に止まっているのは真っ赤な車体の「キラキラ」号で、前後の間隔を広めにした横4列シートであるから、30人以上は乗るものと思われる。
一方で、僕が乗る「さくらQuality Express」の定員は21人だけなのである。

 


 

昨年の10月以降、金沢を様々な方法で往復してきた。
1回目は、千葉-長野間夜行バス(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11659290746.html)から長野-富山間昼行高速バス、富山-金沢間昼行高速バスの乗り継ぎ(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11692042608.html)。帰路は加賀温泉・金沢-渋谷間夜行バス(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11699807058.html)。
2回目は、秋葉原・新宿・さいたま・群馬-富山・金沢間夜行バスに乗り(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11703780646.html)、帰路は特急「はくたか」と「妙高」の乗り継ぎ(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11733873604.html)。
3回目は、東海道新幹線と名古屋ー金沢夜行バスを乗り継ぎ、復路は高岡に出て高岡ー名古屋、名古屋ー東京と昼行高速バスを乗り継いだ(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11835389500.html)。
4回目は新宿-金沢・七尾間夜行バスに乗り、能登半島を巡ってから、帰路は特急「北越」と上越新幹線の乗り継ぎ(http://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11779807412.htmlhttp://s.ameblo.jp/kazkazgonta/entry-11779809870.html)。
5回目以降は航空機や鉄道ばかりの利用が続き、さすがに経済的に余裕がなくなって、今回は高速バスだけで金沢を往復することにしたのだ。

夜行高速バスでの往復は、若かりし頃には何の苦もないものだったけれども、1回目の夜行での往復は、さすがに身体にこたえた気がした。
僕も歳をとったな、と苦笑したものだった。

今回は、帰りのバスを思いっきり豪華にして、少しでも楽に過ごせるようにと考えた。
「さくらQuality Express」は、そのためにぴったりのバスだった。

座席は「2×1 maximo」と呼ばれ、左側に2列、通路を挟んで右側に1列の横3列で配されている。
この構造の利点は、横3列独立シートよりも座席の幅が広くとれることで、「さくらQuality Express」では座面の幅が70cmと、これまで僕が乗った高速バスの中で最大である。
「WILLER EXPRESS」の3列独立シート「リラックスワイド」の座席幅が49cmであることを考えれば、「さくらQuality Express」の幅の広さがよくわかる。

 


 

特筆すべきは、定員減になるにもかかわらず前後を7列に抑えていることで、前席とのシート間隔はなんと97cmもある。
しかも、個々の座席はシェルで囲まれて、最大140度のリクライニングを倒す時でも、座面が前にせり出しながらシェルの内部で背もたれが傾いていくため、後席の空間を狭めることが全くない。
前席の下部をくり抜いたフットレストの幅と奥行きも充分で、 身長175cmの僕が足をいっぱいに伸ばしてもまだ余裕があり、ふくらはぎを支えるレッグレストもぴったりとフィットするから、まるでベッドに横になっているかのような座り心地でくつろぐことができた。

 


僕が指定されたのはA-02、右側の2列側の窓際だったが、隣りの席とはカーテンで隔てられて、個室感覚は満点だった。
座席構造は「WILLER EXPRESS」の「コクーン」を更に広くした感じで、個室感覚は「コクーン」の方が優れているけれども、ゆったり加減の度合いは「さくらQuality Express」に軍配が上がる。

夜は騒音防止のためか使うことが出来ないが、座席には電動マッサージ機能まで付いている。
さすがにそこまではいらないよ、とツッコミたくなるほど過剰なサービスだが、このバスは昼行便にも使われているので、その時に使う乗客もいるのだろう。
実は、銭湯などに設置されているマッサージチェアは大好きなので、スイッチを入れてみたくてうずうずした。
毛布をはじめアイマスクや耳栓、スリッパなどのアメニティも充実している。

さくら観光のHPに「バスの旅を優雅に楽しみたいあなたに さくら観光のフラッグシップ」と誇らしげに謳われているのも、大いにうなずける。

http://www.489.fm/bus/qe.html

僕はこの座席を6270円で予約したのだが、日によっては3000円~4000円台で販売していることもあるようだ。
新幹線料金が10780円、またJRバスの「ドリーム」号の正規運賃が6200円であることを考えれば、充分にリーズナブルと言っていいだろう。

 

 

実際に座ってみれば、こいつはいいぞ、とはしゃぎたくなるような、予想以上の豪勢さだった。
おそらく、この夜に東海道を行く旅人の中で、最も贅沢な客になったと言えるのではないだろうか。
乗る前のうらぶれた気分などは、とっくに消し飛んでいた。
これならば、疲れは最小限で済むだろうと安心した。
奮発しましたねえ、採算は合うのですか?──と、ちょっぴり心配にもなったけれど、余計なお世話というものであろう。

ただ、幾許かの心配事がない訳ではない。
ヒュンダイ・ユニバースのバスに乗るのは3回目だけれども、空調が日本車に比べて難があるように感じていた。
乗ったのはいずれも冬だったが、暖房が効き始めると足元が異常に熱く感じるのだ。
1回目の時は左側の独立席で、車内全体が暑くて仕方がなかったけれど、足元はあまり気にならなかった。
2回目は今回と同じ右側の席で、壁際の足元から靴下を通して伝わってくるカアッという熱さが気になって何度も目を覚まし、遂には、あいていた隣りの通路側の席のフットレストに足を置いたりしたものだった。
覗き込んだことはないけれど、右の壁の下には、ひと昔前の国鉄の気動車のように、暖房のパイプでも通っているのだろうか。

果たして今回はどうなるものか、と若干不安だったけれども、しばらくしたらやっぱり熱くなってきたものの、広いフットレストが幸いして足に逃げ場があり、前夜からの旅の疲れとほろ酔い加減も手伝って、僕は出発して10分も立たないうちにコトン、と眠りに落ちてしまった。
だから、どのような経路で高速に乗ったのか、などということは見当もつかない。

  


停車の柔らかい衝撃でふと目を覚ましたのは、新東名高速道路の浜松SAだった。
東名高速からいなさ連絡路で内陸に向かい、新東名高速本線に乗って最初のサービスエリアである。

既に日付が変わって、午前1時を回っていた。

このバスにトイレはないから、機会があるならば必ず用足しをしておかなければならない。
バスを降りれば、ひんやりとした夜風はすこしばかり湿っぽく感じたけれども、雨が降った痕跡はなかった。
見上げれば、吸い込まれるように深い漆黒の夜空が広がっていた。

煌々と建物の照明に照らされながら、東京方面へ向かう様々な高速乗合バスが静かに翼を休めているけれど、さすがに降りる人は多くないようだった。

  

 

バスに戻ると、奇妙な低音が後方から聞こえてくるのが気になった。
誰か、マッサージ器でも動かしているのかと思ったが、しばらくして歯ぎしりの音だと気づいて、猛烈に可笑しくなった。
どんなに豪華なバスでも、他人の鼾や歯ぎしりまでは遮断できない。

それでも、襲ってくる睡魔には勝てず、程なく深い眠りに引き込まれ、おや、この小刻みなバウンドは首都高速ではないのかとぼんやり思ったのも束の間、暗かった車内に照明が灯り、運転手さんがささやくように新宿到着が間近であることを伝えた。

カーテンの外は、真っ暗である。

 

 

時刻は午前4時50分だった。

早暁の街はまだまだ眠りから覚めていないけれど、これでも定刻なのだ。
そのような運行ダイヤのバスを選んだのだから、こんな時間に降ろされても文句をいう筋合いはない。

名古屋からの所要時間は、最速の昼行便である「新東名スーパーライナー」とほとんど変わりがなかった。
夜行便としては異色の駿足ぶりに、運転手さんは仮眠をとらずに夜を徹してハンドルを握り続けて来たのだろうか、と思った。

僕はと言えば、あまりにぐっすりと寝過ぎたため、名古屋から「どこでもドア」で東京へ瞬時に移動したような呆気なさだった。
はるばる300kmを越える旅をしたという実感が全く湧いてこない。
それだけ「さくら Quality Express」の寝心地が良かったということで、5時間余りで旅を終えてしまうには何だか勿体ない気分だった。

新宿駅西口を正面に見据えるコクーンビル前の路上では、他の高速乗合バスも、寝起きで不機嫌そうな表情の乗客を次々と降ろしていた。

  

 

 

 

 

 

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