岐路に立つ日本を考える -3ページ目

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 オーストラリアがオーストラリア北部のダーウィン港を中国人民解放軍のフロント企業と目されているランドブリッジグループに約5億豪ドル(約450億円)で99年間貸し出す契約を結びました。この件について、オーストラリア政府から同盟関係にあるアメリカに何の相談もなかったことで、オバマ大統領は不快感を表明していますが、もはや後の祭りでしょう。世界中のどの国もアメリカを恐れなくなり、中国になびく傾向を示していますが、オーストラリアもこの流れに同調してしまったようです。

 ダーウィン港は米豪の同盟関係において中心的な役割を果たしている港だけに、米政府にとってその衝撃はあまりに大きいと言わざるをえません。今後数年中国経済は停滞するかもしれないが、長期的には成長余力はまだまだ大きく、自国経済の発展のためには中国との関係強化を図っておくべきだとの中国側からのプロパガンダに完全に取り込まれてしまっているようです。衰えていく大国アメリカに付き合っていたのでは割を食うに決まっているとの考えが、離米親中化への動きを加速化させているといえるでしょう。

 こうしたオーストラリアの動きと合わせて考えて大変気になるのは、現在オーストラリアが導入を検討している新しい潜水艦の件です。オーストラリアは自国の潜水艦建造技術の向上のために共同開発国を日本、フランス、ドイツのいずれかの国の中から選びたい方針で、特に日本の極めて静穏性の高い潜水艦であるそうりゅう型潜水艦に対する関心が高いとされています。そして日本政府もまた、このそうりゅう型潜水艦のオーストラリアへの売り込みにかなり力を入れています。中谷防衛大臣は22日にシドニーで開かれる日豪外務・防衛の閣僚協議に出席するためにオーストラリアのアデレードにある潜水艦建造施設を訪問し、潜水艦の共同開発国に日本が選ばれても、現地での建造は十分可能で、経済効果をもたらすことができるとの認識を示しました。防衛省防衛装備庁の石川正樹・長官官房審議官は同盟国の米国にも見せたことは一切ない日本の潜水艦技術をオーストラリアには基本的に全部提供できると語りました。

 同盟国アメリカとの同盟の要衝であるダーウィン港を、中国の人民解放軍関連企業にアメリカとの相談なしに貸出を決めてしまうようなオーストラリアから、中国に技術流出の可能性は本当にないのでしょうか。中国がそうりゅう並の静穏性を保持した潜水艦を保有できるようになるとしたら、我が国の安全保障上極めて深刻なダメージになります。

 オーストラリアを何とか自陣営につなぎ止めておきたいアメリカが日本政府に相当圧力をかけて売り込みをさせているようですが、オーストラリアが中国になびいているのはアメリカの今後のさらなる弱体化を見抜いているからであり、この程度のことでオーストラリアをつなぎ止められると思っていること自体に問題があると言わざるをえないでしょう。ダーウィン港の問題を持ち出して、今からでも日本政府は軌道修正すべきではないかと考えます。


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 クリントン政権期の財務長官を務めたローレンス・サマーズが”Grasp the reality of China’s rise”(中国が台頭している現実を捉えよ)との記事を発表しました。サマーズは中国から帰国してすぐにこの記事を発表しましたが、端的に言って、完全に中国側に取り込まれた内容となっています。
http://larrysummers.com/2015/11/09/grasp-the-reality-of-chinas-rise/

 記事を要約すると、ざっとこんな感じです。

 今後世界経済の成長の1/2から1/3を中国が占める確率が高く、中国経済の重要性は高まる一方だ。習近平が提唱している「新型大国関係」に移行しなければならない。中国の経済的な成長が促されることで社会的政治的に好ましい変化へとつながっていくことが好ましいのか、それとも中国を封じ込めて経済的に弱化させようとすることが望ましいのか。中国を追い詰めれば敵対的なナショナリストの台頭を許すことになり、それは米国の利益にはならない。習近平が英国で大歓待を受けたように、中国との協力関係を築かないと米国は従来の同盟国から孤立することになる。TPPは中国を排除した形で進められ、AIIBにアメリカは参加しないというが、こうした中国を敵視した策が良い結果を生むとは考えられない。お互いの繁栄を促進し、相互協力を強める方向に向かわないと、悲劇的な結末を生むことになるのだ。

 サマーズはハーバード大学の学長も務めたアメリカを代表する知性ですが、そんなサマーズでもここまで中国に騙されてしまうという現実から私たちは目を背けるべきではないでしょう。サマーズはオバマ政権の国家経済会議の議長も務めたこともあり、政権に対する影響力も実に強い立場にあります。

 中国は世界各国のマスコミにお金を出して食い込むだけでなく、マスコミ各社に対して簡潔でわかりやすい情報のまとめを毎日提供し、足を使った取材などしなくても形となる記事が書けるような「配慮」を行っています。政界であれ、官界であれ、財界であれ、芸能界であれ、学者の世界であれ、あらゆる手段を講じてその影響力の拡大に努め、マスコミ対策と同じような処置を国家的な計画に基づいて実施しています。

 こうした中国のたゆまぬ努力と比較した場合に、いったい我が国は何をしているというのでしょうか。この点の重さに改めて気付かされた記事でした。


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 トルコのアンタルヤで開かれたG20が首脳宣言を採択して閉幕しました。この首脳宣言については、かなりミスリーディングな報道がなされているように思います。例えば、これを報じた日本経済新聞の見出しは「成長戦略の実施、最優先 G20首脳宣言 」で、「最優先事項は構造改革を含む成長戦略の適時かつ効果的な実施」であるとの紹介をしています。

 しかしながら、首脳宣言で使われている「構造改革」は、日本国内で通常言われている「構造改革」とは全く性質の異なったものだということが、首脳宣言を読むと理解できます。ややわかりにくい和訳ではありますが、客観性を担保するために外務省が発表している和訳を使いながら解説したいと思います。

 まずは首脳宣言で確認された「最優先事項」についてです。首脳宣言は「我々の最優先事項は,需要を支える措置並びに実際の及び潜在的な成長を引き上げ,雇用を創出し,包摂性を促進し,及び不平等を減らすための構造改革を含む我々の成長戦略の適時の,かつ,効果的な実施である。」としています。雇用を創出し、格差の拡大を防ぎ、需要を創出するような処置が「構造改革」の中身であって、格差の拡大につながったとしても規制緩和の実施によって競争を厳しくしていこうという「構造改革」とは真逆のことを言っているわけです。市場原理によって生み出される格差を是正することで、消費性向の高い低所得層への配分を増やすことで需要不足を解消し、これを経済成長につなげることで雇用を回復させるような方向での「構造改革」の実施を訴えているわけです。

 このことを、首脳宣言では次のようにも表現しています。「我々は,成長が,包摂的で,多くの雇用を伴い,かつ,我々の社会の全ての層の利益となることを確保することにコミットしている。多くの国において拡大する不平等は,社会的一体性や我々の国民の幸福にリスクをもたらす可能性があり,また,負の経済的影響を与え,成長を引き上げるという我々の目的を阻害し得る。経済,金融,労働,教育及び社会政策を組み合わせた,包括的で,かつ,均衡ある一連の政策は,不平等を減らすことに資する。」「我々は,我々の財務大臣及び雇用労働大臣に対し,不平等へ対抗するための行動を強化し,かつ,包摂的な成長を支援するため,我々の成長戦略及び雇用計画を見直すことを求める。」

 そして首脳宣言はより具体的な処置として、①「成長及び雇用創出を支えるため,短期的な経済状況を勘案して機動的に財政政策を実施するという我々のコミットメントを再確認する」としています。つまり、積極財政政策の実施を迫っているわけです。そして②「金融機関の強じん性の強化及び金融システムの安定性の向上は,成長及び発展を支える上で極めて重要である。」としています。これはバブル的な手法によって経済の下支えを行うことへの警鐘とみるべきではないかと思います。さらに③「我々は,世界的な食料安全保障及び栄養を改善し,また,我々が食料を生産し,消費し,及び販売する方法が経済的,社会的及び環境的に持続可能であることを確保するという我々のコミットメントを強調する食料安全保障及び持続可能なフード・システムに係るG20行動計画を承認する。」とし、「小規模農家や家族農家,農村の女性及び若者のニーズに特別の注意を払う。」と述べています。小規模農家が環境に負荷をかけない農業を行っている場合に、経済的に割に合わないからといって大規模農業に置き換えるようなことは避け、彼らが持続的な農業を行っていけるように政策的な処置を講じようという方向性を打ち出しているわけです。

 積極財政を求める①からすれば、消費税増税という緊縮財政策は否定されることになり、むしろ国債発行によってでも財政拡大を図ることが求められています。金融システムの安定性の向上を求める②からすれば、株価の引き上げに伴う資産効果によって景気の下支えを行おうとする現行の金融政策のあり方に問題があるということになります。持続可能な食料生産の確保を求める③からすれば、単純な市場原理に基づく農業政策に対して疑問を呈するものとなっているわけです。

 こうして見ると、安倍政権が現在進めている「構造改革」路線と真逆と言っていいような「構造改革」をG20は首脳宣言として採択したということになります。

 G20首脳宣言に示されたことが実施されることになるのか、安倍政権の動きを注目していきたいところです。


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 フランスのオランド大統領は今回のテロ攻撃を受けて、捜索令状なしでの家宅捜索をできるようにし、報道規制・人や車の往来の制限・集会開催や夜間外出の禁止処置・カフェやレストランの閉店などを命じることができる非常事態宣言を発令しました。さらに、危険人物を国外に迅速に追放したり、過激な思想を持つモスクの閉鎖を命じたりすることの検討も始めた上に、非常事態宣言によらなくても強力な治安対策をとれるよう憲法改正に乗り出す方針まで示しました。

 「非常事態宣言」と言いますが、内容で考えればこれは実質的には戒厳令でしょう。戦後世代の日本人は「戒厳令」と聞くと、ファシズム国家、軍事独裁国家のみが持つ特異な法律という意識が刷り込まれていますが、国家が存立するためには民主国家においても当たり前の立法なのだということを理解する必要があります。オランド政権は言うまでもなく左派政権ですが、国家の存立が全ての基本であり、国家の非常事態に際しては人権等を一時的に制限するのは当然だという認識は普通に持っているということを、我々は見落とすべきではないでしょう。最大野党である共和党のサルコジ党首(前大統領)は、オランド政権に対応が手ぬるいとして、さらにISとの接触が疑われるシリア滞在経験者の拘束、過激主義者用の収容所設置、過激な発言を行うイスラム教の指導者(イマーム)の国外退去などまで求めています。国内ではヒトラーに例えられることすらある安倍総理が、国際標準から見るといかに穏健であるかがこうしたところからもよくわかります。

 こうしたフランスの動きに対して、日本国内の野党はどう反応しているでしょうか。社民党はなぜか今回の事件について何一つ声明も発表しておりませんが、民主党や共産党はフランスへの哀悼の意を述べた上で、国際連携の必要性は述べています。注目すべきは、フランスが非常事態宣言によって戒厳令的な対応を行っていることについては、非難めいた言葉は何一つ述べていないところです。朝日新聞とかNHKなどの左派マスコミも、今回のフランス政府の処置に対して非難めいたコメントは出しておりません。

 もちろん、特定秘密保護法の騒動、安保法制の騒動から考えて、これは彼らの二枚舌を表しているものだと考えるべきなのでしょう。こうしたテロ対策の国際協調のために絶対に必要な特定秘密保護法についてあれほどまでの反対をしておきながら、しらっとテロ対策への国際協調を述べているところにも、それは表れています。

 しかしながら、この二枚舌ぶりを突破口にして、国家の存立により重点を置いて、非常時には人権等が制限されるのはやむをえざるをえない当然の処置なのだということを認めさせる格好のチャンスが現政権にやってきたとは言えないでしょうか。伊勢志摩サミットを半年後に控え、本格的なテロ対策に取り組まなければならなくなっているわけですから、新年早々の通常国会においては、共謀罪の新設程度でお茶を濁すのではなく、政府は非常事態法のようなものの立法処置を国会に対して求め、この問題に対する国民的な議論を巻き起こすべきではないかと思います。


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 パリで同時多発テロが発生し、非常に多くの死傷者が出ました。被害に遭われた方々は本当にお気の毒な話で、謹んで哀悼の意を捧げます。

 フランスのオランド大統領はISの犯行を明言し、ISも犯行声明を発表しました。フランスがシリア問題に介入してISに対する空爆を実施したことが今回のテロを実行した理由だといいます。

 確かに表面的にはこの通りなんでしょうが、どうもすっきりしないものを私は感じてしまいます。

 フランスは捕らえられた自国民の身代金をISに支払ってきたとみなされている国です。仮に身代金ビジネスが彼らにとって有力な資金源の一つであるなら、フランスではない別の地域を攻撃対象にする方が「適切」ではないでしょうか。フランス以外にも身代金を払ってきたとみなされている国はありますが、フランスがテロの対象とされるのであれば、自分たちだって身代金を払っていてもいつ狙われるかわからないという思いに駆り立てることになるでしょう。つまり、身代金ビジネスをやりにくい環境に自らを追い込んだともいえます。ISはその程度の計算もできない間抜けな連中だということになりそうです。

 また、自爆テロの容疑者1人の遺体の近くから、シリアのパスポートが見つかったというのもいかにもという感じがします。もし彼らがフランスや欧州を潰すのを戦略的な目的としているなら、今後も難民の大量流入が続いていった方が「適切」だと言えるでしょう。この事件をきっかけにして、フランスに限らず欧州はみな難民の排除の方向に舵を切るでしょう。つまり、フランスや欧州を助ける役割をISは実行しているということになります。

 そもそもISの資金源はどうなっているのでしょうか。支配地域の油田から取れる原油を横流ししているからだという話がありましたが、まじめに空爆をやっているなら油田施設はことごとく破壊され、油の積み出しルートも徹底的に絶たれているはずで、そんなビジネスが成立しないのは明らかです。しかも世界的な景気減速を背景にした原油価格の下落は、仮に横流しが未だにできるとしても、決して利益の上がるビジネスではなくなってきているはずです。サウジアラビアなどが裏から支援しているという話がありますが、送金状況を徹底的に洗いさえすれば、資金源を断つことはそんなに難しいことではないでしょうし、そもそもサウジ自体が原油価格の低迷で、資金的な余裕もなくなってきているはずです。その上、身代金ビジネスさえできなくなるような環境にISが自らを追い込んでいるとなると、ますます資金源については怪しさを感じざるをえません。

 フランスをはじめとする欧州とアメリカは、アサド政権に打撃を与えるためにIS叩きを口実としてシリア介入をしてきたふしがあります。つまり、IS叩きは建前にすぎず、アサド叩きこそが本音であったということです。そうでなければ、これだけ四面楚歌になっているはずのISがどんどん支配勢力を拡大するなんてことができるはずがありません。そして、そんなことは当事者であるISが最もよくわかっている話でしょう。

 ついにロシアがアサド政権を守る立場からシリアに軍事介入しました。この時点では本気でISに敵対する立場にいるのはロシアだけであったはずです。ロシアに対するテロはその立場からは「理解」できなくもありません。しかし今回わざわざロシア以外も本気で敵に回すようなことを実行してくれたわけです。これにより、欧州とロシアが手を結ぶきっかけになる可能性は極めて高いでしょう。同じISのテロの被害にあったという点で、ロシアと欧州は感情的にも強い共感を持ち合う関係になります。

 ISというのは、こうしたことの計算も全くできない、完全にアホな組織なんでしょうか。私にはそうだとはとても信じられないわけです。それゆえに、今回の同時多発テロの背景も報道されている内容を素直に受け取ることができないのです。


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 旭化成建材による杭打ちデータ偽装について、冷静ではない議論がどんどん広がっているのではないかと懸念します。

 良いことかどうかは置いておいて、まずは事実をしっかりと整理して見るようにしたいものです。まず、こうしたデータ偽装は旭化成建材だけが極端な悪質企業であったから起こったというわけではどうやらないということを念頭において考えるべきです。つまり日本全国にはこうした偽装物件が溢れているわけです。しかしながら、東日本大震災において深刻な被害を受けた東北地方の太平洋岸において、津波襲来前に深刻な建物被害はほとんどなかったのではないでしょうか。少なくとも大型のマンションなどについて建物が倒壊するようなケースは見られませんでした。昭和56年の建築基準法改正以降に建築確認を受けて建てられた物件については、倒壊といった深刻な被害が生まれる可能性は、少なくとも東日本大震災クラスまでの地震であれば、ないと言ってよいでしょう。そしてその中にはくい打ちに関する偽装物件も恐らくは多数含まれているはずです。つまり杭打ち偽装物件についても、大地震の際に倒壊する可能性はほぼないということが東日本大震災によって証明されているともいえるわけです。

 考えてみれば当たり前で、今回支持層に達していない杭が見つかったとはいえ、杭は14メートル以上は打ち込まれているわけで、この杭が引き抜かれるような規模の地震は想定されないからです。パークシティLaLa横浜は地上12階建ての物件ですから、恐らく建物の高さは40メートル程度でしょう。高さ40メートルの建物に14メートルを超える杭が数十本打ち込まれていることを冷静に考えるべきです。傾きが発見された西棟だけでも52本の杭が打ち込まれているわけです。倒壊するような建物かどうかについては、杭と建物本体とのジョイントがしっかりとなされているか、建物本体にきちんとした鉄骨が入っているか、コンクリートを水でじゃぶじゃぶにして強度を弱めて工事されていないかどうかといった建物本体の質が決定的に重要なはずで、きちんとした杭が十分な長さで必要な数は打ち込まれているかぎり、そうした杭が支持層に達しているかどうかは、建物の倒壊には事実上影響していないでしょう。

 問題は、杭が支持層に達していなかったせいで、建物に2センチの沈降が生じている箇所があることです。建築の専門家に訊いてみますと、もし支持層に杭が達していれば沈降は1センチ以内に留まるはずだということでした。つまり建物に2センチの沈降が生じている箇所があるのは明らかに杭が支持層に達していなかったせいだといえるわけです。そしてこの沈降は今後もより拡大する可能性は否定できないようです。

 ただ現状では人間が知覚できるレベルの床面の傾きはありません。もちろん将来的にはどうなるかはわかりませんが、強烈な地震が急に襲ってきた場合に倒壊の恐れがないとすれば、当面の居住には現実的な心配はないというのが実際でしょう。

 住民が抱える問題の中には、欠陥住宅の中にしかもその事実を世の中に広く知られてしまった状態で今後も居住し続けなければならないという不快感に加えて、将来このマンションを売って引っ越ししたい時に困難が生じざるをえないという点でしょう。こうした点に対して住民側に沿った適切なソリューションを提供できればよいのではないかと思います。このマンションの騒動の余波を受けてデータ偽装が発覚した学校などについて建物そのものの安全性が疑われ、建て替えを求める声を無責任に煽るような報道をマスコミが行っているのはいかがなものかと思います。

 複雑な議論を避けるために、今回はこれで終わりにします。この問題は最低あと1回扱ってみようと思います。


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 TPPの概要が発表されました。賛成するにせよ、批判するにせよ、内容の理解が前提となりますから、とりあえず今わかっている点について、簡単に整理した上で私の見解を述べさせて頂きます。

 農産物については、まず大半の野菜類については従来の関税が0~3%でしかなかったことから、関税撤廃の影響は極めて軽微だと思われます。タマネギなどは従来8.5%の関税だったので、影響がないとはいえないですが、これもそれほど国内農業にダメージを与えるとは考えにくいです。果実については従来の関税率が最高で17%でしたので、撤廃の影響はやや出てくる懸念はありますが、生食では大きな影響はないのではないかと思います。リンゴ果汁については中国産が圧倒的に多いので、この一部がTPP加盟国に置き換わる可能性はありそうですが、国内農家への影響は軽微だと思われます。主食用の米の無関税枠の拡大は国内消費量の1%程度に留まる上、米の内外価格差が消失している現在においては、国内の米生産に対する影響も極めて軽微でしょう。豚肉については大幅な関税の低下が話題になっていますが、現在でもコンビネーション輸入(本来だと関税の高くなる低価格な肉と、関税の安い高価格な肉を一緒くたにすることで、安い関税率しかかからなくようにする裏技)が蔓延していて、実質的には輸入豚肉の関税率は4.6%程度だと言われていましたので、影響はないも同然かと思います。牛肉は38.5%の関税が段階的に9%にまで下がるということで、それなりに影響が出そうにも見えますが、和牛と輸入牛は私の中では別物でしかなく、和牛の消費量の抑制にはあまりつながらない気がします。それよりも、アメリカへの和牛の低関税輸出枠が年間200トンに制限されていたのが3000トンまで15倍に拡大し、しかも関税自体も廃止となることも見逃すべきではないかなと思います。3000トンというのは国内生産量の1%にすぎませんので、15倍に低関税輸出枠(今後は無関税輸出枠)が増えると言っても過大評価はできないですが、バランスのよい取引になったと思います。

 食の安全が阻害されるといわれていた点についても、科学的根拠に基づいていれば国民の生命と健康の確保のために必要なSPS処置(食の安全を確保するための規制)は可能とされましたし、遺伝子組み換え作物の表示についても従来通りで構わないとの結論になりましたので、これについても杞憂で終わりました。

 国民皆保険制度については、混合診療の導入を含めて、現行制度の変更は求められないことになりましたので、この点については安心してよいでしょう。

 著作権については、非親告罪化が懸念されていましたが、オリジナルの著作物の収益に大きな影響を与える場合に限定されるということになりましたので、日本のパロディー文化がこれによって影響を受けるという懸念は事実上なくなったといえるでしょう。

 企業が国を相手に国家主権を超えて訴えることができるというISDS条項については、大きな誤解がまかり通っていたようです。確かにカナダが環境規制を強化したことによって、アメリカの燃料メーカーが操業停止に追い込まれて訴えを起こした事件は、アメリカ企業の勝訴に終わりました。企業利益に環境保護政策が負けたということでISDS条項は危険という話になったのですが、しかしこの事件を詳しく調べてみると、それほど単純ではないことがわかりました。カナダは連邦レベルで環境規制を強化したものの、各州がそれより緩い個別の環境規制を導入することを禁じていなかったわけです。つまり、環境規制の緩い州の内部で生産されたものがその州の内部だけで流通する場合には緩い規制が認められるが、その州の外側に持ち出す場合には連邦レベルの環境規制をクリアしないといけないために認められないというダブルスタンダードを作ったわけです。そうすると、環境規制の緩い州にアメリカの燃料メーカーが売る場合には、外部からの持ち込みになるために連邦レベルの規制をクリアしなければならないということで、競争条件が同一にならないという点を争ったわけです。つまり、国の内外で企業の競争条件に不平等があるという点が問題にされたものです。企業利益の侵害を楯にしてかなり無茶な訴訟が起こせる可能性があるというのは、杞憂に過ぎないといえるでしょう。

 一度緩めた規制を再度強化することは認めないとするラチェット規定についても、「食や人命の安全に関わる規制強化は含めない」との合意が取れていますので、過大な懸念は不必要になったと思います。

 労働分野については、他国で類似資格を獲得したら日本国内でも行えるようになるのではないかとか、単純労働者の受入れが認められるのではないかといった懸念がありましたが、これも杞憂に終わりました。むしろ児童労働の禁止とか強制労働によって作られた製品の輸出入を禁止する規定が入りました。

 以上見てきたように、TPPの合意内容は反対派の懸念をほぼ払拭するものとなっていると思われます。詳細部分がわからないので断言はできませんが、その可能性は高いと思われます。

 ただ、自由な投資や貿易が促進されることによって、日本経済の外的依存が高まっていくことそれ自体がいいことだとは、私は今なお思えないです。国防・安全保障上の処置がどの程度取れるようになっているのかという点がわからない点も気になるところです。例えばアメリカ企業の中にも中国系企業もあるわけで、こうした企業に国内企業と同等の資格を与えて活動できるようにするという点に危険はないのかということに懸念を覚えます。そもそも国内のTPPに対して期待する議論というのは、国内に頼っていたのでは経済成長できないという前提に基づいていたところもあり、その前提が正しいとはいえません。

 もちろん、TPPのようなものが次々できていく中で、蚊帳の外にいて果たしていいのかという議論も理解できます。TPPのルールが今後の多国間の自由貿易協定の土台とされるであろうことの意義も大きく、ルールを守らない中国のような国に対する牽制になるという意義も理解できます。世の流れとしてこれは受け入れるしかないのかもしれません。

 それゆえになお悩ましい思いを持っています。


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 東京電力福島第1原発事故後の作業で被ばくし、その後に白血病になった元作業員に対して、労災を認定したと、厚生労働省が発表しました。恐らくこの件を利用して、反原発活動家は危機感を煽る宣伝を繰り返しそうで、心配をしています。

 今回の一件は、1976年に設定され、その後変更されていない労災認定基準に該当したので、厚生労働省としては労災の認定をしないという選択肢はなかったというだけのことです。決して、19.8ミリシーベルトの被爆が白血病を引き起こすほど危険ということではありません。原発作業員の確保のために、万が一の心配に対応する緩い労災認定基準が導入されたという政治的な背景を無視して考えるべきではありません。

 1976年の基準は、『相当量の電離放射線に被ばくした事実(年5ミリシーベルト以上)があること』、『被ばく開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発生した疾病であること』、『骨髄性白血病又はリンパ性白血病であること』の3つです。今回の作業員の場合、業務に従事した1年半の間に計19.8ミリシーベルトの被爆があり、要件を満たしているので認定をされました。
 しかしながら、現在の科学が教えるところでは、むしろ19.8ミリシーベルト程度の被爆であれば、全く被爆しなかった場合と比べた場合には、むしろ白血病になる割合は減るというのが実際のところです。下図をご覧下さい。



 0.1シーベルト、0.2シーベルトと横軸に記されているのは累計被爆量で、0.1シーベルトが100ミリシーベルトに相当します。世間の思い込みと違って、150ミリシーベルトくらいまではむしろ白血病に罹患して死亡する確率は下がっていることがわかります。(ガン全般の話とは別で、白血病に関しての話です。)
 どのような立場に立ってどのような運動をするかはもちろん自由ですが、思い込みによって事実と違うことを主張することはやめて頂きたいと思います。
 そして、こういう誤解を生みそうな話題こそ、正確な事実を知らせる上でのマスコミの役割が大きいと思いますが、どうせ何もやらないどころか、無根拠な危機感を煽る側に回るであろうと予想されます。悲しい現実です。


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 中国が申請した「南京事件」に関する資料がユネスコ世界記憶遺産に登録されました。これに対して自民党はユネスコへの分担金・拠出金の停止等といった処置を政府に求める決議を採択し、政府もそうした処置を検討対象にするとの姿勢を示しています。

 これに対しては早速中国共産党から「ユネスコを公然と脅迫する言論には驚かされた。全く受け入れられない」との反発があり、日本政府や中国共産党の反応を世界中のマスコミが報道しました。その中には、「南京大虐殺」を真実だということを前提とした上で、日本が分担金の停止をちらつかせてユネスコを脅しているというニュアンスのものも少なくありません。例えばイギリスの有力紙ガーディアンはJapan threatens to halt Unesco funding over Nanjing massacre listing(南京大虐殺に関する資料の採用に対し、日本はユネスコ分担金を停止すると脅迫)との見出しの記事を掲載しています。

 これらの非難をどう考えるべきでしょうか。こういうことを政治利用しようとする中国のやり方には不愉快な気持ちを抱きつつも、自分の意見が通らないからといって分担金 ・拠出金の削減を主張することには賛成しかねるという考えの方も国民の中にはかなり多くいると考えます。そして、こうした人たちの理解を得られるようにしなければ、分担金・拠出金の削減 ・停止という話は持ち出すべきではなかったのではないかとの立場です。

 今回の件に限らないですが、日本の議論は結論に飛びすぎるところがあります。マスコミが結論しか報道しないというところも問題ではありますが、そうしたマスコミの特性を念頭に置いた効果的な宣伝を戦略的に考えていない政治家の側にも、一定の問題を見ることもできると、私は考えます。

 「ユネスコのアジア太平洋地域世界記憶遺産委員会は構成する11名のメンバーのうち中国人4人、韓国人1人であるのに対して、日本人は1人もいない。そもそも人選が公正・中立とは言えないのではないか」とか「資料が真正ではない可能性が極めて高いと言わざるをえない。仮に真正なものでなかったとした場合、ユネスコはどう責任を取るのか。」といった批判を、日本国内だけでなく、世界中のマスコミに向かって繰り返し主張することを、今なおなぜ怠っているのでしょうか。ユネスコの怪しさが明確に伝わる情報が浸透するかどうかが、日本政府の主張に耳を傾けてもらうのに最も大切なポイントになるという点が全く意識されていません。日本文化の観点では無粋かもしれませんが、この事実が広がるかどうかで、世界のこの事件に対する目は大きく変わることになるのに、この点に関する発言が残念ながら一切聞こえてきません。

 そしてこうした情報に加えて「ユネスコは当事国である日本の見解を求めることをしないばかりか、日本から意見や資料を提出したいとの要請すら拒絶してきた。」とか「そもそも登録しようとしている資料自体の真贋を確かめたいので見せてもらいたいとの日本政府の事前要請すら、ユネスコは拒絶した。」といった批判も、その情報が浸透するまで、繰り返し波状攻撃で展開すべきです。問題はユネスコに求められる中立性以上に資料自体がでっち上げかどうかなのであって、その点を曖昧にする攻め方を行っているのが残念です。

 こうした事実関係について、政府として、あるいは文部科学省として、きちんとまとめた文書を作成して、世界中のマスコミに公表すべきでしょう。日本政府が何を問題としているのかを明確に示し、いかにユネスコがいびつな組織になっているかが伝わるようにすべきです。産経新聞や読売新聞はおそらく全文掲載してくれるでしょう。ユネスコへの分担金・拠出金の削減 ・停止、あるいはユネスコからの脱退の話を持ち出すのはそれからすべきことだったのではないかと、私は思いました。

 今さら言っても遅いかもしれませんが、今からでも宣伝戦には参入できます。情報戦を仕掛けられているという認識を、未だに役人が持ちきれていないのも問題だと思います。情報戦をどう戦うかという見地から、広報宣伝体制を抜本的に改変していくことを政府に求めたいところです。

 南京事件の真相については、米国内で検証委員会を作ってみるという提案をアメリカ側にしてみるのも考えてみてはどうでしょうか。アメリカが乗るかどうかはわかりませんが、ユネスコに同様の不信感を持っているアメリカが乗ってくる可能性はないとは言えないでしょう。その結果として、例えば南京大虐殺記念館にある写真の中に一枚も本物がないことをアメリカが公表することになったとしたら、世界に与えるインパクトは絶大でしょう。

 中国政府や韓国政府に負けないだけの、あらゆるチャンネルを通じたしつこい戦略的な宣伝戦を日本がどう構築するかが今後の鍵になると、私は思っています。


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 世界においては実に不可解な動きがいろいろと起こっています。

 ロシアによるISISやシリアの反体制派に対する攻撃に対して、アメリカは激怒するような顔を見せながら、一方でこのタイミングで空母セオドア ・ルーズベルトをペルシャ湾から撤退させました。表向きは2ヶ月前に発表した定期的なメンテナンスのためということになりますが、事態が急変している中で単なる定期的なメンテナンスの予定を動かさないのはあまりに不自然です。しかもアメリカはISIS掃討のために行ってきたシリアの反政府勢力に対する訓練を大幅縮小させることも発表しました。
http://www.nbcnews.com/news/world/russia-bombs-syria-u-s-pulls-aircraft-carrier-out-persian-n440731
http://mainichi.jp/select/news/20151010k0000m030123000c.html

 さらに不思議なのは、イスラエルの反応です。イスラエルとシリアは民族・宗教の対立を抱えているだけでなく、ゴラン高原の領有問題でも対立している上、シリアはイスラエルの天敵ともいえるイランとも盟友関係にある国です。それなのに、アサド政権支援の立場からシリア介入を強めたロシアを、イスラエルのネタニヤフ首相は批判することを行いませんでした。それどころか、アメリカやNATOのロシア批判の姿勢には加わらないことを表明し、事実上ロシアのシリア介入を容認しました。
http://www.reuters.com/article/2015/10/03/us-mideast-crisis-syria-netanyahu-idUSKCN0RX0N520151003

 同様にアサド退陣がシリア和平の前提だとの立場に立っていたサウジアラビアも、アサド政権の当面の存続を容認する意思をロシアに対して明らかにしました。
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-10-11/putin-says-russia-s-campaign-in-syria-more-effective-than-u-s-

 さらに10月2日に閉幕したウクライナ問題を協議する4カ国のトップ会議(ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシア)について、ドイツのメルケル首相はウクライナ東部からの重火器を撤去させる手続きについて合意したことを高く評価しながら、クリミアがウクライナに戻ることはないと発言し、事実上クリミアがロシア領であることを認めたと、ロシア系の通信社のスプートニクが発表しました。
http://sputniknews.com/politics/20151003/1027980523/merkel-admits-crimea-is-part-of-russia.html

 こうした一連の流れについて完全な説明を加えることは甚だ困難だと言わざるをえません。しかしながら、米露の間ではクリミア半島、黒海、さらには地中海のラタキア軍港(シリア領内)に至るまでのロシアの権益を認める一方、イスラエルやサウジアラビアの要求にも応じる妥協的処置をロシア側に約束させるような合意がなされたと考えるのが合理的であるように思います。その妥協的処置が何であるかは完全な憶測にしかなりませんが、平和的な手段でアサドを退陣させて新たな政体に移行するということかもしれません。実は2012年に同様の提案がロシア側からあったのを欧米が拒絶したとの話を、フィンランドの大統領だったマルッティ・アハティサーリ氏が1ヶ月ほど前に明らかにしています。サウジアラビア側の話からもどうもそういうニュアンスが感じ取れるところがあります。
http://www.theguardian.com/world/2015/sep/15/west-ignored-russian-offer-in-2012-to-have-syrias-assad-step-aside?CMP=share_btn_tw

 どういう手打ちがあったかはわからないですが、とにかくロシアが中東に影響力をある程度行使できることをアメリカは容認したということではないかと思います。メルケルもそうした米露の流れを理解した上で動いているのではないかと思われます。

 表面的な対立は今後もおそらく演出されるでしょうが、その内実は出来レースであると考えた方がよいかもしれません。


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