岐路に立つ日本を考える -2ページ目

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


人気ブログランキングへ

 桜田義孝衆議院議員の慰安婦を巡る発言が大問題となり、桜田議員は発言を撤回せざるをえなくなりました。韓国外務省が「歴史の前で恥を知らない一介の国会議員の無知蒙昧な妄言にいちいち反論する一顧の価値も感じない」と強く非難した他、自民党の河村建夫元官房長官も「理解に苦しむ」と不快感を示しました。

 報道によると桜田氏の発言は「職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ」「売春婦だったということを遠慮して(言わないから)、間違ったことが日本や韓国でも広まっているのではないか」というものだったようです。

 慰安婦が当時の合法的売春婦であったとしても、家庭の貧しさゆえに自らの意に反して春をひさぐ職業に就かざるをえなかった女性たちに対する想像力がもう少しあれば、言葉をもっと選ぶことができたようには感じます。桜田氏が実際にどのような流れの中で発言したものかはよくわからないので、軽々に決めつけるわけにはいきませんが、慎重さに欠けたところもあったとはいえるかもしれません。

 しかしながら、歴史の一次史料に基づいて慰安婦がどのような存在だったかを捉えた時に、桜田氏の発言は韓国外務省の言う「無知蒙昧な妄言」ではないですし、「理解に苦しむ」ものでもないでしょう。むしろ事実ベースに基づいてみた場合には、慰安婦を性奴隷のように扱うことの方が「無知蒙昧な妄言」で「理解に苦しむ」ものではないでしょうか。このようにして事実に基づく発言が事実上許されないものへと切り捨てられていく状況に、日本の言論空間の大いなる歪みを感じざるをえません。

 そもそも、今回の日韓合意を誠実なものにしようとする努力において、日韓の間に明らかに非対称的な落差があることを感じざるをえません。韓国側では、日本大使館前のある慰安婦像について、今回の日韓合意の履行の最高責任者であるはずの朴大統領自身が「韓国政府が『ああしろ、こうしろ』と言える問題ではない」と、最初から撤去に向けた誠実な努力を放棄する発言を公言しています。これを日本政府も日本の主要マスコミも、なぜに大きく問題視しないのでしょうか。朴大統領が日韓合意違反のこの問題発言を撤回をし、謝罪をしたのでしょうか。ここにも日本の言論空間の大いなる歪みを感じるわけです。

 これに対して、桜田氏の発言は、政府を代表する公式な発言でないのはもちろんのこと、政府部内の会議における発言でさえありません。自民党の合同会議内の発言でした。つまり、私的な党内部においてなされたもので、しかも社会に対して広く発信する発言ではなく、党内で議論を深めるための個人の立場からの発言であったわけです。「この日韓合意の問題にどう対処したらよいか」について、党内で検討する場での発言だったのであり、講演会で話したとかブログに書き込んで情報発信を行ったというのとは次元が違いすぎます。朴大統領の慰安婦像撤去の努力否定発言が年頭記者会見での公的な発言であるのと比べた場合に、その落差は歴然としています。外部に対して公開・発信しているわけでもない党内部の部会における一個人の自由な言論まで許さないようにする報道となっては、日本の民主主義の土台を大いに掘り崩すものとなることに、どうやら日本のマスコミは全く気付いていないようです。気付きながら敢えてやっているのかもしれません。特定のイデオロギーにとって都合がいいかどうかが優先され、事実ベースでの議論をやめさせようとするこうしたマスコミのあり方こそ、ファシズム的な態度です。

 ここに日本のマスコミを望む方向に誘導してやろうという勢力が付け入る大きな隙間があります。彼らは入り込めるところにはどこにでも入り込み、「使える」と判断したネタを当然ながらマスコミ側にどんどんとリークして、マスコミの流れに影響力を行使しようとするでしょう。こうした勢力の意図を理解した上で、日本の民主主義のあり方を考えた際に、リークされてきた「特ダネ」について報じるべきか報じないべきかをしっかりと判断するのもマスコミの持つべき矜持ではないでしょうか。ところが主要マスコミにはこういう点での社会的な責任意識など微塵もないために、自由闊達な議論をできなくするような報道を平気で行い、結果として日本の民主主義を土台から破壊していくわけです。

 この歪んだ情報空間との正面切っての戦いが避けられないところまで日本が追い込まれてきているという危機感を、自民党においても政府においても共有して、ここから逃げない対応策に打って出るべきだと私は考えます。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 昨年末の慰安婦に関する日韓合意について、何かと正当化を試みる論壇があります。その論拠は海外の多くの国を日本の味方に引き入れることができた点では評価できるというところだったりします。

 しかしながら、今回世界各国が日本を評価しているのは、今回日本が忌まわしき性奴隷制度を軍関与のもとで行っていたことを認め謝罪したと認識している点であるということを、私たちは正確に理解する必要があります。例えばオーストラリアのビショップ外相が出した歓迎声明には、The widespread use of sexual slavery brought great suffering and personal trauma to many women during the wartime period.(性奴隷の広範囲な利用は戦時中に多くの女性達に多大な苦しみとトラウマをもたらした)との一文が入っています。この理解で決着がついたというのが海外の認識であるわけです。
http://foreignminister.gov.au/releases/Pages/2015/jb_mr_151229.aspx

 さらに、従来の荒唐無稽な20万人という数字がいつのまにか40万に引き上げられていたり、10代前半の処女をかき集めて慰安婦として駆り出したとされたり、さらに話は膨れ上がってきています。外交的に成功どころか、大失敗ではないでしょうか。

 勘違いしてはいけないのは、慰安婦像を建立しているのは韓国政府ではなく民間団体であり、韓国政府が大使館前の公道にある慰安婦像を撤去させたとしても、その他の場所にある慰安婦像についてまで韓国政府は口出しできないわけです。世界中で慰安婦像を建設する動きがありますが、今回の合意が勘違いされたままでは、この動きが加速することはあっても、やむことはないでしょう。

 さて、この問題にどう立ち向かうべきかです。私は安倍総理が今回の合意に関する説明を、日韓合意に反しない形で、しっかりと行うことが重要ではないかと考えます。例えば、以下のような説明を安倍総理の名前で文書で公表することを提案します。

 今回の日韓合意には多くの誤解が広がっています。日本が誠実に謝罪しているにも関わらず、今回の合意について韓国国民の多くは未だに反対の立場を表明しています。このあたりの事情は非常にわかりにくいところなので、日本政府の立場からご説明いたします。
 戦時中の慰安婦の数は1万5千~2万人、そのうち6割程度が内地人で、朝鮮半島出身者は2割~3割程度と推計されています。当時の慰安婦は新聞広告などを通じて広く募集され、ここにビジネスチャンスを見出した業者も活発にリクルートに動いていました。当時の日本には貧しさから娘をこうした業者に売る人身売買的行為が合法とされ、こうした業者に娘が売られるという事態も発生していました。この中で、親が事情をろくに説明しないまま娘を業者に売り渡してしまった事態や、悪徳業者が嘘の説明で娘を連れて行く事態も発生しました。
 日本政府と日本軍は戦地での強姦被害等が発生しないようにするためには慰安婦が数多く必要であることを認識していたので、こうしたリクルート活動についてバックアップしていたことはありますが、朝鮮半島でリクルートをする段階で日本軍が強制的に女性を連れて行った事例はないというのが、日本政府の見解です。
 慰安所は民間業者が運営していましたが、その運営のあり方には日本政府と日本軍は非常に大きな関与をしました。一日の労働時間に規制を設けること、週に1日は休息日を設けること、性病検査を軍医が実施すること、体調不良の際には休ませること、適切な避妊法の指導を行うこと、取りたくない客は拒否できる権利を慰安婦に認めること、十分な手取り額を得られるように業者の暴利を規制すること、借金の返済が終了した後は故郷に自由に戻れるようにすることなどを、軍の監視と管理のもとで行っていました。
 慰安婦たちは十分な給与を得ていました。アメリカの戦争情報局の報告書(Report No. 49: Japanese Prisoners of War Interrogation on Prostitution)によれば、慰安婦は1ヶ月におおよそ1500円の売上を上げ、おおよそその半額を天引きされ、手取りは750円程度であったとされています。当時の日本の二等兵の給料は月額6円程度でしたので、平均的にはその百倍以上の給与を稼いでいたということになります。
 しかしながら、敗戦後に、そのように稼いだお金が水泡として消えるという事態が発生しました。文玉珠さんは日本の郵便局を相手に、当時日本の郵便局に預けた26145円の貯金を返せという訴訟を提起して、敗訴しています。これは終戦直後の1946年に日本が必要にかられて預金封鎖を行ったためです。この処置は日本の金融機関にお金を預けていた人たち全てに適応されたもので、特定の人たちを狙い打ちにしたものではありません。そのために彼女は敗訴したわけですが、文玉珠さんをはじめ慰安婦の方々が受けたショックの大きさには同情を禁じえません。
 日本政府が豊かな暮らしを当時実現できていたなら、意に沿わずに慰安婦とならざるをえなかった女性たちはずっと少なかったでしょう。それは当時の貧困を解決できなかった日本政府の責任でもあります。また、当時の日本軍があれほど大きな戦争を戦わなければ、意に反して慰安婦とならざるをえなかった女性はずっと少なかったでしょう。預金封鎖によってせっかく稼いだお金の大半を失うことになった慰安婦の方々の悲痛な思いも、日本政府は出来る限り受け止めたいとの思いを持ち、これまでも誠実にこの問題の解決に当たってきたと考えております。
 しかしながら、こうした点の事実認識においては、韓国側とは大きな隔たりがあります。この隔たりを取り除くことが現実には不可能だと考えられるため、この隔たりの存在を認めたうえで、日韓両政府は双方を非難しあうようなことを今後一切行わないようにしようというのが今回の合意の真意です。韓国の国民の側からすると、今回の合意でも日本政府は確かに表面的には謝罪はしているけれども、軍による強制連行の法的な責任を認めていないので、この合意には賛成できないということになるのも理解できるかと思います。
 この文書が慰安婦問題の理解に資することを期待しています。


 上記のような文章であれば、韓国側の見解が間違っていると非難しているわけではないですから、日韓合意には違反しないはずです。こうした文書を発信することを、安倍総理に求めます。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 ドイツ第4の主要都市のケルン市で、昨年(2015年)の大晦日に、ニューイヤーのカウントダウンに多くの市民がケルンの駅前広場に繰り出す中で、難民と思われる若い男性1000人以上が暴徒化し、大勢で若い女性を囲んで強姦を含む性的嫌がらせを行い、貴重品やスマホの強奪も相次ぐという事件がありました。暴行の被害を受けた女性は100人以上おり、強奪を含む被害届は1月11日現在で553件に達しています。婦人警官までこうした被害にあっており、数の多さに治安当局が対応しきれなかったことが伺えます。パニックに陥った市民が線路に逃れ、列車の運行も一時ストップしたほどでした。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ケルン大晦日集団性暴行事件

 ところが、この衝撃的な大事件がドイツ国内で報道されるようになったのは、事件から4日後の1月4日になってのことでした。なぜこれほど大きな事件が起こりながら報道が長時間にわたって手控えられたのでしょうか。

 これは難民を問題視すると「非人道的な差別主義者」とか「極右」であるとのレッテルを貼られる社会風潮があるためだと思われます。難民は弱者であり、弱者を助けることは絶対善であり、これに異議を唱えることは絶対悪であるとの前提が社会的に形成されてしまっているとすれば、それに抵抗した報道を行うのは難しいところでしょう。事件発生があった夜について、警察さえ「広範囲にわたって平安」だったと発表していたことが明らかになり、ケルン警察の長官が更迭されるに至りましたが、これも難民問題のタブーに触れるわけにはいかないという社会的風潮に警察までもが飲み込まれていたことを示しているといえるでしょう。しかも、こうしたきれいごとを積極的に広める役割を果たしてきたのがマスコミ自身だとすれば、手のひら返しのようなことはなかなかできなかったというのが真相だろうと思われます。

 さて、この事件に関連して、ケルン市では1月9日におよそ1700人の人たちが「難民は歓迎しない」というプラカードを掲げたデモ行進を行いました。このデモ行進については日本のマスコミも確かに報道はしていますが、関連性の極めて高い大晦日の事件のことには一切触れなかったうえ、デモ行進を行った人たちに対して「極右系」というレッテルを張り、事情を語らずに一部が暴徒化したと報じています。大晦日に難民たちが計画的に集まって集団で暴徒化し大事件を起こしたこととの関連性を報じなければ、極端な危険思想の持ち主たちが多数集まって難民排斥の運動を行い、一部は暴徒化することでその危険性を露呈させたとしか普通は思わないでしょう。

 この種の事件はこれまでもドイツ国内だけでも多数発生してきました。しかしながら、今回の事件と同様に報道が控えられてきました。「非人道的な差別主義を助長する」から報じなかったと彼らは自己弁護するでしょうが、ここに公正性や中立性の観点で極めて大きな疑義が存在するわけです。そしてマスコミのそのような姿勢のために、ここまで大きなテロを発生させるに至ったともいえるわけです。

 日本のマスコミがこういう点ではドイツのマスコミ以上に大きな問題を抱えているのは言うまでもありません。最近マスコミにもてはやされているシールズは、「アベは死ね!」「安倍の頭に釘を打ちつける」とのヘイトスピーチを公然と行い、安保法制に賛成する与党議員の顔写真を踏みつけにする暴挙も行いましたが、マスコミがこうしたヘイト行動を咎めた形跡はありません。
国会議員の顔踏み付け写真
(シールズによって踏みつけにされた国会議員の顔写真)

 在特会のヘイトは大問題だと報道しながら、シールズのヘイトはスルーするどころか、シールズを持ち上げて平然としているのが日本のマスコミです。そのような歪んだ立場から日々の報道がなされていることが日本の平和を切り崩しているということについて、私たちはケルン市の事件から学んでおくべきではないでしょうか。


人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 慰安婦に関する日韓の政府合意が成立しました。今更私が書くまでもない、最低、最悪の結果です。慰安婦問題について歴代の日本政府は事実認識をきちんと明らかにすることを避け続けてきたわけですが、その成れの果てがこの結果であることを、私たちは見過ごすべきではありません。

 当時、貧しさのために娘の身売りをせざるをえない家庭があり、身売りの事実を正直に娘に語らずに騙した親と悪徳業者がいました。そのような貧しさを解消できなかったのは当時の政府の責任であるとはいえるでしょうし、その点を明確にして日本政府の責任だと言うならば、それは一つの見識でしょう。また、戦後の新円切替の処置によって、稼いだ多額のお金が消えてしまったのも彼女たちの責任ではなかったでしょうし、このことをまた日本政府の責任として認めるというのも一つの見識かもしれません。しかし、親と悪徳業者に騙されていたことが発覚した際に娘を戻すことまで行っていた日本政府が、お詫びと反省を表明して慰安婦問題の責任を認めるというのでは、話は全く違ったものになります。

 上記の事実認識自体が間違っている思っている方も今なおいるでしょうが、日本軍による韓国女性の強制連行、性奴隷化などなかったことは、当時日本とは戦争状態にあったアメリカが「ナチス戦争犯罪と日本帝国政府の記録の各省庁作業班米国議会あて最終報告」(2007年)において事実上認めています。850万ページにも及ぶ当時の戦争犯罪に関するありとあらゆる資料を精査した結果として、アメリカ政府はただの1件もそのような事実を発見することができませんでした。

 当時の日本政府、日本軍の関与というのは、慰安婦となった彼女たちを守るための介入でした。悪徳業者が無制限に儲けて慰安婦が奴隷のようにされるのを防ぐために、様々な処置が講じられました。営業時間を決めて業者が無制限に働かせるのを禁止しました。無制限の搾取をやめさせ、十分な手取額を彼女たちが受け取れるようにしました。アメリカの戦争情報局の報告書”Report No. 49: Japanese Prisoners of War Interrogation on Prostitution”の記載に基づくと、彼女たちの年間手取額は現在の貨幣価値に換算して1億5000万円相当になります。(但し、当時の二等兵の月給6円が今日の日本円の10万円に相当するとしての計算です。)借金の返済が終わったら帰国できるようにし、軍医が週1回慰安婦の健康チェックを行い、彼女たちが性病にかからないようにし、体調不良の場合や性病にかかった場合には治療に専念させるようにまでしていました。彼女たちは客を拒絶できる権利まで認められていました。彼女たちは贅沢な暮らしを行うことを認められ、当時はお金持ちしか買えなかった蓄音機まで持っていたわけです。政府や軍が関与をすれば、このような関与であっても関与があったということで、当時の記憶がなくなってきた段階でおわびと反省を強いられるというのが適切なことでしょうか。

 安倍総理が不憫な人生を歩んだ彼女たちに憐憫の手紙を書くというのならばわかりますが、『心からお詫びと反省』の手紙を書くというのでは筋違いでしょう。安倍総理の手紙の内容にまで韓国に干渉される事態は異常です。韓国側が管理する新たな基金に日本政府の予算を拠出する点にも問題は大ありです。日本政府は賠償ではないとしていますが、日本政府の予算を使うというのは日本政府が強制連行を認めた証拠として受け取られるのは確実でしょう。韓国側に求められる大使館前の慰安婦像の撤去にしても、努力目標でしかありません。国連などの国際社会で慰安婦問題を巡って双方が非難し合うのを控えるというのは、日本政府側の口も閉ざすということであり、今後の日本政府の反論の機会も奪ったともいえるでしょう。 

 安倍政権が総合的な見地でどのように考えて今回の決定に至ったのかはわかりませんが、中共が歓迎を表明している点を忘れてはいけません。中共は日本が性奴隷化を認めたとプロパガンダし、ますます攻勢を強めるでしょう。慰安婦問題は対韓国以上に、対中共の問題である点を見落としてはいけないと考えます。

 今回の合意の蔭にいるのはアメリカであるのは間違いないでしょう。日本の代わってアメリカが日本の無罪を証明してくれる確約はあるのでしょうか。そうとでも考えないと、とても安倍内閣が行ったこととは思えないレベルの屈服ですが、しかし我々はアメリカがそのような確約をしたのかどうかは窺い知れる立場にはありません。

 日本政府は、今回の合意に関わらず、関連する膨大な資料の英訳を次々と押し進め、情報公開を進めるべきです。こうした情報公開が整った段階で、「民間」が慰安婦問題の真相がどこにあるかの学術懸賞論文を募集し、優秀論文提出者50人程度に最低金額で1000万円程度を支払う形で、世界的に研究者を募集すべきです。慰安婦、南京事件、杉原千畝のビザ発給など、いろいろと誤解されている事件を20ほど取り上げて、毎年別々のテーマで論文を募集していくことを提案します。つまり、当時の日本研究のスペシャリストになれば、20年間は研究費用に困らない体制を確立して、当時の日本の研究者を大量に養成すべきです。学術界を味方につけ、その成果を広報することで、現在の通説を切り崩す戦略を、今こそ日本は取るべきではないかと考えます。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 今月の15日にアメリカのケリー国務長官とロシアのプーチン大統領が3時間半にわたる長時間の会談を行いました。

 大変驚いたことに、ケリー国務長官はthe United States is not seeking regime change in Syria and that the U.S. and Russia see the conflict "fundamentally very similarly.”(アメリカはシリアでのレジームチェンジを求めておらず、アメリカとロシアはシリアの内戦を基本的には極めて似たように見ている)と発言しました。

 さらにケリーは”the talks didn’t focus on “what can or can’t be done immediately about Assad” but rather on establishing a political process where Syrians will be able to choose their own leader”(今回の会談はアサドに関して直ちに何ができ、何ができないかには焦点は置かれなかった。むしろシリア人が自分たちのリーダーを選んでいける政治的プロセスをどう確立するかが論じられた)と述べています。

 従来路線の大転換を図り、ロシア側に歩調を合わせてきたことがわかります。ケリー自身も”we have shown that Russia and the United States are moving in the same direction”(ロシアとアメリカは同じ方向を向いて動いていることを我々ははっきりさせた)とも述べています。

 この他にも、トルコ駐留の米軍のF15戦闘機の撤収、トルコ軍のイラクからの撤退、イスラム国への資金の流れを断つ国連決議のロシアとの共同提出への合意など、完全にアメリカがロシアに対して白旗を上げたような状況で、事態のあまりの進展ぶりには驚きを禁じえないところです。

 この背景には何があったのでしょうか。ロシア大統領府が用意し、クレムリン内部で回覧されたレポートを紹介した記事というものがアップされているのを見つけました。
http://www.whatdoesitmean.com/index1963.htm

 こういうレポート自体が機密事項でしょうから本当の話かどうかはわかりませんが、この記事によると、プーチンの側はヒラリー・クリントン前国務長官やアッシュ・カーター現国防長官のメールをFSBが入手していて、これをアメリカ側に突きつけた結果であると報じています。また、未遂に終わったけれども、ISが世界の13のルートネームサーバをダウンさせようとした資料を突きつけ、これが成功していたら核戦争どころではない大混乱に陥っていたことも伝えたということです。これを受けてオバマ政権はロシアに白旗を上げたとのことです。

 この記事の真偽がいずれであれ、アメリカが今回ロシアに完全に屈服したのは確かであり、トルコがアメリカに見限られるのは時間の問題になったように思います。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 産経新聞の加藤前ソウル支局長の朴槿恵大統領に対する名誉毀損を巡る裁判は、無罪判決で一応の決着はついた形となりました。妥当な判決だとして評価する声が強く、確かに「無罪」という判決結果だけを見ればその通りですが、その論理構成は完全にデタラメなもので、この判決の論理構成を認めること自体に問題が大きいのではないかと、私は懸念します。

 裁判では①記事で取り上げた噂は事実ではなく、大統領の名誉を著しく傷つけたことは確かだとし、②噂が嘘だと知った上で記事にしたことも認定した上で、③日韓関係のために大局的に善処して欲しいとする韓国外務省の意向をにおわせた中で、④加藤氏に大統領を誹謗する目的があったとは認定できないとしました。

 そもそも加藤氏が書いたコラム記事は噂を事実であるとして報道したものではありません。加藤氏のコラムの冒頭は以下の通りです。

 調査機関「韓国ギャラップ」によると、7月最終週の朴槿恵大統領の支持率は前週に続いての40%となった。わずか3カ月半前には6割前後で推移していただけに、大統領の権威はいまや見る影もないことを物語る結果となった。こうなると吹き出してくるのが大統領など権力中枢に対する真偽不明のウワサだ。こうした中、旅客船沈没事故発生当日の4月16日、朴大統領が日中、7時間にわたって所在不明となっていたとする「ファクト」が飛び出し、政権の混迷ぶりが際立つ事態となっている。

 「大統領の支持率が急落して大統領の権威が失墜する中で、セウォル号事件発生の当日の朴大統領の動静が7時間にわたって不明のままとなっており、真偽不明のウワサまで飛び出している始末だ」というのが、記事の要旨であることがわかるでしょう。この後コラムは、国会運営委員会での質疑を通して、事件後3ヶ月ほど経った時点でも大統領の秘書室長が当日の大統領の動静を把握できていない事実を書き、朝鮮日報の記者の記事に掲載されたウワサを紹介する展開となっています。そして最後は朝鮮日報の記事を引用して次のように締めています。

 「国政運営で高い支持を維持しているのであれば、ウワサが立つこともないだろう。大統領個人への信頼が崩れ、あらゆるウワサが出てきているのである」
朴政権のレームダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ。


 以上を確認した上で、裁判の事実認定について振り返ってみましょう。

 記事では真偽不明のウワサが飛び交っているという韓国社会の事実を記事にしたもので、ウワサを真実であると報道したものではありません。したがって、「記事で取り上げた噂は事実ではなく、大統領の名誉を著しく傷つけたことは確か」という事実認定は当たりません。むしろ朴槿恵大統領側は当日の動静の真実を積極的に開示すべき立場にありながら、それを行ってこなかったことが混乱の原因となったわけで、大統領側の責任放棄こそが問題として問われるべきものだったでしょう。また、噂の真実性は確認できていないことを明言して記事にしたことを、「噂が嘘だと知った上で記事にした」と読み替えるのは論理のすり替えと言わざるをえないでしょう。加藤氏は当日の大統領の動静を知りえない立場にいるわけですから、噂について真実とも虚偽とも認定できる立場にはないわけです。そしてその立場から言えることしか記事にしていません。

 前提とされる事実認定が間違っている以上、日韓関係のために大局的に善処して欲しいとする韓国外務省の意向を踏まえた上で、加藤氏に大統領を誹謗する目的があったとは認定できないとするような、あたかも恩赦的な判断を下すような事例とは到底いえないのが実際なのです。

 裁判所は「言論の自由が無制限でないことを認識するように願う」と強調した上で、「検事が公訴した犯罪の構成要件に該当しないということであって、その行為が普遍妥当というわけではない」と指摘しているのが実際です。判決文を読み上げられる3時間もの間ずっと加藤氏に着席することを許さず、加藤氏を犯罪者のように終始扱うことまで平然と行いました。

 このようなメチャクチャな事実認定に基づき、あくまでも恩赦的な建前から無罪判決を下した韓国司法の論理について、日本のマスコミからほとんど批判的な声が上がらないのは不思議としか言いようがありません。ここでこの判決論旨の不当性について声を挙げないのは、今後の韓国政界に関する報道において自殺行為ともいえるでしょう。マスコミは「反権力」のような顔をしながら本当はチキンなのであって、実際に権力を振りかざして嫌がらせをしてくる韓国や中国の不当な行為には及び腰にしかならないことを、改めて確認できた事件でした。どんなに事実と違うことを報道しても権力を振りかざしてこないことが確実な日本政府に対してだけ強い顔をする日本のマスコミの歪んだ姿が、今回も浮き彫りになったと感じます。

 産経新聞に対しては、産経の名誉のためにも、この加藤氏のコラムをぜひ韓国語に翻訳した上で、韓国国内で号外的に配布して、判決論旨の正当性について韓国社会に問うて頂きたいです。

 また、加藤氏のコラムをまだ読まれていない方には、以上を踏まえた上で、ぜひ実際に読んでみてもらいたいとも思います。
http://ironna.jp/article/429 



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 トルコを巡る状況は、ロシアの孤立のように見えた感じから明らかに変化してきています。

 カーター国防長官の下院軍事委員会での発言に関わる内容として、NHKは「トルコに対しては、国境を接するシリアからISの戦闘員などが流入しているとして、国境管理の徹底を求めるとともに空と地上の両面で軍事作戦を強化するよう呼びかけました」とのみ報じました。この点においては、私が確認したかぎり、他の日本のマスコミも同様ではないかと思います。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151202/k10010327531000.html

 ところが、ロイターやデイリーメールなどを見ますと、カーター長官はさらに重大な発言を行っていたことがわかります。それは、”Most of the air operations are not directed at ISIL. They are directed at the PKK”(トルコの空爆の大半はISには向けられておらず、クルド人を対象にしている)というものです。
http://www.reuters.com/article/mideast-crisis-turkey-usa-idUSL1N13Q20120151201
http://www.dailymail.co.uk/wires/reuters/article-3341623/U-S-urges-Turkey-against-Islamic-State-air-ground.html


 要するに、トルコがISを叩くのに空爆に参加すると口にしながら、実はISではなくクルド人を叩いていたことを明らかにしたわけです。クルド人地域が豊富な石油資源を持つ地域であることもあり、クルド人によるトルコからの分離独立運動は、トルコとしては絶対に認めることができません。そこでクルド人叩きをしてくれるISをトルコは間接的に支援してきました。こうした事実がこれまで西側のマスコミで触れられることはほとんどなかったはずですが、その一端とはいえ、今回カーター国防長官が公言してみせたわけです。

 また、ロシアのラブロフ外務大臣はアメリカのケリー国務長官に対してISのトルコへの石油密輸疑惑について話し、ケリー国務長官から「正しいか確信が持てないので検討する」との返事をもらったことを明らかにしました。
https://www.youtube.com/watch?v=2wVJPlUmiT0

 アメリカがこの密輸の黒幕的立場にあることを当然ラブロフ外相は百も承知でありながら、アメリカがこれについて知らなかったかのような建前を貫いてみせたわけです。そもそもアメリカがISを本気で叩くつもりがあるなら、ロシアが空爆する以前にISのタンクローリーやら石油備蓄基地やらは全て空爆し尽くされていて当然だったはずです。ですがそのようなことをアメリカは行っておらず、逆にロシアがそうしたものを次々と空爆し、どんどんと世界中にその情報を公開して発信する中で、情報戦においてアメリカは追い詰められた形になりました。

 ロシア系の通信社のスプートニクは、自由シリア軍・情報機関少将のホサム・アルアワク氏が、ISとトルコの間で結ばれた石油供給に関する契約書の写真、ISがカタールからトヨタ車を購入したことを証明する写真があり、そうした証拠を秘密裏にしないでこれまでもオープンにしてきたことを述べたことを記事にしています。つまり、この証拠をロシアも掴んでいること、しかもこうした証拠を米露会談でアメリカをゆする材料として使っていることが伺えるわけです。
http://jp.sputniknews.com/middle_east/20151202/1262001.html#ixzz3tOdyFmoz

 このままではISを叩くと言いながらISを支援してきたことがばれることに気付いたアメリカが、トルコに責任転嫁をする方向に舵を切り始めたのではないでしょうか。トルコは口ではISを叩くと言いながら裏でISとつながっていたことがわかった、トルコの裏切りによってIS叩きがうまく機能していなかったことがわかったと方針転換するのは時間の問題ではないかと思います。しかもエルドアン大統領の息子の会社がISの石油を購入しているとされることから、エルドアン一族が追い詰められることになるのでしょう。

 ちなみに、ロシア空爆によって深刻な打撃を被ったISはリビアに脱出準備をしているとの分析も出てきたことを付け加えておきます。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5697?page=1

 イギリスがISへの空爆に参加を決めたのは、ロシアだけの成果だと誤解されないためのアリバイ作りではないでしょうか。それがわかっていながら「歓迎』を表明してみせたところに、ロシアの確かな戦略眼を感じることができるように思います。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 ASEANの首脳会議の議長声明で、南シナ海における中国の人工島建設問題は確かに声明に盛り込まれました。しかしながら、前回の首脳会議の時に使われた「深刻な懸念」は単なる「懸念」に変わり、中国への名指しは避けられました。また、南シナ海の領有権をめぐってフィリピンが提訴した国際的な仲裁裁判所の審理が始まることについても、草案では「歓迎する」という内容が含まれていたものの、最終的には削除されました。

 どこの国も領土を主張できないはずの岩礁を埋め立てて領土だと主張するような無茶は、断じて許されるはずはないはずです。さらに、ASEAN諸国にはこの問題の当事者となっている国が圧倒的に多いはずです。それなのに、なぜにここまでASEANが中国に配慮するようになっているのか、私たちは冷静に見ておかなくてはなりません。

 政治の上層部が中国によって買収されているというところもあるでしょう。マスメディアに直接的にも間接的にも中国資本がどんどん入り込むようになり、その影響力によって親中的な報道が増えているせいもあるでしょう。これらも当然軽視できない動きですが、中国との経済的な関係が強まっており、国内経済を考えても中国の機嫌を損ねるようなことができなくなってきているということを、私たちは看過すべきではないと思います。

例えばマレーシアは輸出全体の12%、GDPの10%が中国によって占められています。タイは輸出全体の12%、GDPの7%が中国によって占められています。ここまで経済の中国依存が高くなっていれば、中国と対立することについては、特に国内の経済界からの反発は大きいでしょう。ましてや中国は気に入らなければ露骨な嫌がらせを行う国ゆえに、その機嫌を損ねることにはなおさら恐怖を感じるはずです。経済界からの支持がなければ政権は維持できないことを考えれば、この動きはある意味では当然だと言わざるをえません。

 東南アジア諸国ばかりでなく、欧州にしても、ここまで非道徳な中国のごり押しを止めないどころか、むしろそこにすり寄っていく動きを見せていることに我々は注目すべきです。我が国にしても経済界は対中摩擦を嫌う動きを示しているのは皆さんもよくご存知でしょうし、肝心であるべきアメリカにしても、経済界が中国ビジネスにかすめ取られていて、対応が腰砕けになっています。

 私たちは、戦前の日本は他国を侵略する悪の勢力であったために、国際世論の反発を受け、敗戦に至ったと単純に信じてきました。しかしながら、それが完全なる錯誤であることを、中国はまざまざと示してくれています。ここまで非道徳で侵略的な国に大半の国がすり寄る姿勢を見せているのが現実の世界です。

 私は何も日本は侵略的でいいと言っているわけではありません。しかしながら、未だに日本は敗戦から学ぶべき真の教訓を引き出せていないと考えるわけです。なぜ日本は戦争することになったのか、なぜ日本は敗戦という結果に終わったのか、イデオロギーに曇らされないでリアリティに基づいて考え直す必要があると私は思います。そしてその作業をきちんとやらない限り、世界を平和で豊かにしていくことは極めて困難で、実におぞましいことですが、我が国まで中共の強い影響下に置かれる可能性すらあると言わざるをえないのです。



人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

 今回は主にロシア系のニュースサイトである「スプートニク日本」の記事に基づいて、シリア・ISに関わる動きを見てみようと思います。

 「トルコ政府はISに武器を供与している」と報じたトルコ紙「クムフリイェット」 の編集長のジャン・ジュンダル氏と特派員のエルデム・ギュル氏がトルコ政府によって逮捕されたことが報じられています。
http://jp.sputniknews.com/europe/20151127/1237923.html

 また、テロリストの石油関連施設が米空軍によって破壊されたと報じた米PBSのニュースで使用された空爆の映像は、ロシア国防省が発表した画像であることを伝えています。そしてその映像を使ったPBSの番組(YouTube)も載せています。
http://jp.sputniknews.com/middle_east/20151123/1207701.html

 このようにロシアはトルコやアメリカの欺瞞について暴露しながらも、もう一方でIS攻撃のために、フランス、アメリカ、トルコを含む統一参謀本部を創設することを提案し、トルコの参加についても「相手がそれを望むのであれば、我々はそれを喜んで受け入れる」と答えています。
http://jp.sputniknews.com/russia/20151125/1221291.html

 実際この流れに沿って、日本でも普通に報道されている通り、フランスのオランド大統領とロシアのプーチン大統領との会談で、シリア空爆の効果を高めるためにISやその他の反体制派勢力に関する情報、空爆対象に関する情報を交換するということで合意しました。

 青山繁晴氏は、今回のトルコによるロシア軍機の撃墜は、偶発的な事件であれば、撃墜映像など撮影できているわけがないという傍証にも触れながら、アメリカ、NATO、トルコで綿密に事前に計画を練った上での攻撃であり、偶発的な事件ではないとの見方を示しました。(リンク先の動画の5:07あたりから)
https://www.youtube.com/watch?v=CBXBt8Xu2IM

 青山氏はインテリジェンスにも長けているので、恐らくはその通りなのでしょう。青山氏はロシアのシリア空爆にはIS攻撃は1割もなく、大半がISとは関係ない反アサド派に対する空爆だとのアメリカからの情報も提供していますが、私はこの点については疑いの目で見た方が全体の整合性がとれると思っています。この点については今回は深入りを避けます。

 私が注目したいのは、ロシア軍機撃墜がアメリカ、NATO、トルコが計画的に起こした事件であることをロシア政府は十分認識しながら、統一参謀本部を創設の提案を行い、創設できる前段階でも空爆対象を含む情報の事前交換に積極的に取り組む動きを見せていることです。ロシアはIS潰しに関して合理的な選択を行っている自信があり、この点からの揺さぶりによってNATOやアメリカをトルコから切り離すことができるとどうやら考えているようです。

 「スプートニク日本」の別の記事には「ロシアとの武力紛争など必要としていない米国や、トルコも加盟国であるNATOが帝国復活へのエルドガン氏の熱を冷ますだろう」との一節がありました。最終的には欧米のメンツを立てながらエルドアン大統領のみを悪者にする方向に持ち込みたいロシアの思惑が見えているように、私には感じられました。
http://jp.sputniknews.com/opinion/20151127/1237382.html


人気ブログランキングへ

人気ブログランキングへ

トルコ軍によるロシア爆撃機の撃墜について、輪郭がおおよそ掴めてきました。

 トルコ領には天狗の鼻のような形でシリア領の中に突き出ている箇所があります。今回ロシア機が領空侵犯を行ったのはこの天狗の鼻を横切ったタイミングで、秒数にしてわずか17秒だったようです。英国紙のテレグラフがわかりやすい画像を公開してくれていましたので、それを転載しておきます。



 わずか17秒とはいえロシア軍機がトルコの領空を侵犯したのは事実のようですが、トルコ領内を脅かそうとする飛行ではなく、むしろ最短距離でトルコ領内から外に出ようとする飛行経路であったと言えるので、トルコによる撃墜は明らかに過剰反応といえるでしょう。

ではなぜ、トルコは過剰反応とも思える反応を見せたのでしょうか。シリア領内にいるトルクメン人は名前からわかるようにトルコ人とも近い関係にある民族ですが、シリアにあっては反体制派、つまり反アサド派です。そしてアルカイダ系のヌスラ戦線とは反アサド派ということで協力関係にあります。ロシアはトルクメン人の武装組織とヌスラ戦線の支配地域に対する空爆を行っており、この事態をトルコとしては黙認できなかったと思われます。ただ、これらの組織は確かにISではないものの、反アサド派という点では共通の敵を有しており、反目し合うところもありながら融和的に動いているところもあるわけです。IS以外も攻撃対象にするのはけしからんとアメリカやトルコはロシアを非難しますが、ロシアからすればISを助ける役割をする組織はIS同様に叩き潰す必要があるということになります。

 別の観点からも見てみましょう。2015年5月22日付けのISの活動領域を示す図をご覧下さい。以下の図の濃い赤の部分がISの支配領域で、薄いピンクのところが影響力を保持している地域です。



 ISは支配地域で算出する石油を輸出することで戦闘資金を稼いでいると見られていますが、この輸出はどこの国を通じて行うことができるのでしょうか。ISはシリア政府ともヨルダン政府ともイラク政府ともイラン政府ともクルド人勢力とも対立関係にあることを考えると、購入先はトルコ以外には考えられないのです。ロシアがトルコを「テロリストの共犯者」と強く批判するのは、この意味では過剰反応ともいえないわけです。

 ロシアが一気にISの資金源潰しを行っているため、ISは急速に勢力を弱めていると思われます。トルコ・シリア国境がシリア政府軍によって完全制圧されると、石油の販売が不可能になる上にトルコ側から反アサド派への武器供与も不可能になるので、ISの壊滅も視野の中に入ってきます。

 しかしこの事態は、トルコのエルドアン大統領一家にとっては大きな打撃になります。というのは、エルドアン大統領の息子のビラル・エルドアンがISから密輸した石油の販売の利権を保持しているからです。さらにエルドアンの一族はシリア政府の支配が及ばなくなったシリア領内の工場の機械を取り外してはトルコに持ち出して売りさばくといったビジネスにも手を染めているようです。こうした経済的利益をできるかぎり失いたくないという思惑も、ロシア爆撃機撃墜の背景にはあったのではないかと推測できます。

 これに対してロシアのプーチン大統領はいかなる手で反撃に出てくるでしょうか。トルコがISの石油の購入を行ってISを支えてきた事実を暴露するなどして、NATOの中でトルコを孤立化させる作戦に向かうのではないかと思います。トルコがISの石油を購入することでISを助け、それによって強大化したISがフランスでテロを引き起こしたという図式が見えたとき、トルコはNATO内で生きていけないことになると思われます。そしてその方向性が見えてくると、アメリカがロシアに同調してくる可能性も高いのではないかと思います。アメリカがまじめにIS潰しをやってこなかったことを覆い隠してすべてをトルコのせいに責任転嫁できるからです。ロシアはアメリカに恩を売るためにアメリカの過去の行状を隠蔽し、全てをトルコのせいにするアメリカの戦略に乗ることで、トルコを四面楚歌の状態に追い込もうと考えるのではないでしょうか。


人気ブログランキングへ