とても、平和でした。
これは、当日shibuya eggmanでお友達の みちゃさんが主催するアイドルイベントがあったので、勝手に作ったコラボステッカーです。eggmanとなげき生誕を回す方にだけお渡ししました。
以前書いたブログがあまりにネガティブな内容だったため削除し、
代わりになにか書こうと思いながらも何も思いつかないので、10年前にmixiでリクエストを受けて書いた小説でも載せてみよう。
当時僕は、mixi日記のコメントで小説のタイトルを募集し、それに即した内容の短編小説を書くという試みを定期的にやっていたのだ。今読むと荒くて青いけど、どこかかわいげがある。
以下本文↓
『サラダボウル』
……いま、僕の身に起きている状況を「幸」というべきか「不幸」というべきか。
乗っていた豪華客船が沈没したことは間違いなく不幸だが、大半の乗客が冷たい夜の海に投げ出され、おそらくはそのまま凶暴なサメの餌食になってしまったであろう中、こうしてケガひとつ負うこともなく近隣の島に流れ着いたことは幸い以外の何ものでもない。だが、いま、この状況…
「きゃ、きゃん・ゆー・すぴーく、じゃぱにーず?」
僕の問いかけに、目の前にいる2人は返事もしない。
ひとりは派手なシャツをまとった白人の男。線は細いが、よく見れば筋肉質な体つきをしているのがわかる。まぶしいほどの金髪も今は砂まみれで、船の沈没以来の彼の憔悴を物語っているようだ。
「○×△○×△……」
白人はうつろな目でもごもごと口を動かしているようだが、何を言っているかはまったくわからない。
もうひとりは、白人よりもさらに大きな体躯の黒人。こんな例えはおかしいが、その迫力ある図体は相撲取りのようだ。アフロの相撲取りだ。戦ってもまず勝ち目はないだろう。おそらくは船の従業員か何かであったのだろうか。白い、ぶかぶかの制服に身を包んでいる。コック服のようなものか?
「…………」
黒人は、やけに寡黙だ。私が知っている限り、一言も言葉を発してはいないのではないか? それに熱帯植物が生い茂るこの島において、あまり汗をかいているそぶりもない。
僕はなんだかどっと疲れてしまい、身にまとったタキシードが汚れることもいとわず砂浜に座り込んだ。どちらにせよ海水に洗われて使い物になどなりゃしない。
「なんで、こんな目に…」
言葉の通じない外国人2人と一緒に、人の住んでる気配も感じられない絶海の孤島で漂流か。楽しすぎるな。
(ぐうっ)
情けない。腹が鳴った。おまけに暑い。シヌ。
「○△×○△×!?」
白人がなんだか詰問するような調子で話しかけてくる。なんだ、何か僕が悪いことでもしたというのか? 僕は、困った表情のままお腹に手をあてて空腹をアピールし、この日差しのしんどさをアピールするため空を指差した。
「おう、○△×!」
白人は小さく叫んで真面目な顔をすると、僕に背を向けて森の中に走っていってしまった。なんだろうか。食べ物でも取ってきてくれるのか?
しかし妙な胸騒ぎもする。僕は彼の後についていくことにした。
すると例の相撲取り体型の黒人も、黙って僕の後ろをついてくる。なんだか不気味だ。僕は、「えへ、えへへ…」とごまかし笑いをして、小走りで白人の後を追った。
そして僕はあっという間にこの森で道に迷った。白人も黒人も見当たらない。なんということだ。こわい。ひとりぼっち。いやだ。
「おーい! おーい!」
言葉が通じる通じないなど関係あるか。僕は死ぬ気で叫んだ。
「おーい! 誰か!」
まったく返事がない。聞こえるのは、木の上で僕をあざわらう得体の知れない生き物たちの声だけだ。
「ぐるるるる……」
「ん?」
茂みの向こうから、なんだか獰猛な感じのうなり声が聞こえてくる。
も、猛獣……のたぐい?
ま、まずい。ど、どうしよう。武器になるようなものは何もないぞ。そ、そうだ。追い払おう。ええと、なにかないか。追い払えるようなもの。なにか。
僕は、足元に落ちていた太い木の枝を拾い上げ、声のした茂みに向かって思い切り投げた。
「くそぉぉぉぉ! どっかいけええ!」
投げた、後に気づいた。
……こんなことして、猛獣が余計怒ったりしたらどうする?
「しまった! 逃げよう!」
元いた方向に向かって、とにかく無我夢中、全力でダッシュ。なんだか、けっこうな長い時間森の中をぐるぐる走り回っていた木がする。僕はいつしか、広々とした小高い丘にやってきていた。
「あれ……、ここ、どこだ?」
「…………」
「うわっ! こ、黒人!」
巨体の黒人がそこにいた。木の枝を集めて焚き火をし、そのそばにこしかけて何かを食べている。
「ど、どこ行ってたんだよ…? って、それ、何食べてんの?」
覗きこむと、木の皮で作ったサラダボウルに色々の野菜(というか、草)を盛り合わせた、即席のサラダといった体裁のものだった。
「うえー、それ、食べれるの? マズそうだけど…」
僕の言葉を理解したのか否か、黒人は「食べてみろ」とでも言わんばかりにそれを差し出してきた。
「うえー……でも、この島に来てから何も食べてないのも事実だしな。あんたも食ってて大丈夫みたいだし、じゃあ一口…」
手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
僕は後ろからタックルされ、強い力でいきなり羽交い絞めにされる。
「○△×! ○△×!」
見ると、例の白人だった。何か凄い形相で僕に何か言っている。『俺の食い物だ、よこせ!』とでも言っているかのように。
冗談じゃない。僕だってどうしようもなく腹が減っているのだ。そうやすやすと渡すわけにはいかない。僕はあらん限りの力を振り絞って、白人を引き離そうとする。
「○△×!」
「うるさいな! 何言ってるかわかんないってば!」
白人は元ラグビー部か何かか? もの凄い力だ。僕は振りほどこうと必死にもがいた。黒人はあっけに取られたような目でこちらを見ている。なんだよ。加勢しろよ。くそっ。
「離せって!」
「○△×!」
「あっ」
一瞬の、ほんのちょっとの油断だった。
足元に、地面が、ない。
丘だと思っていた場所の裏は、切り立った崖になっていた。僕と白人は、もみ合った姿勢のまま無残に落下していった。
この高さだ。
助かることもあるまい。
僕の人生は、こんなにも呆気なく終わってしまうのだ。得体の知れない島で、得体の知れない外国人とともに、得体の知れない理由で、死ぬ。
……まったく、くそったれな人生だ。
「……まったく、くそったれな人生だ」
俺はシャツの首元を緩めて、パタパタと風を入れた。髪に手をやると、砂まみれのジャリジャリとした感触が気色悪い。今だったら、便所の水でも喜んで頭からひっかぶれる自信がある。
俺は周囲に目を向けた。
いま、この砂浜で俺の前にいるのは、場違いなタキシードに身を包んだジャッキー・チェンまがいの東洋人と、その人生で摂った食事の98%がハンバーガーだったとでも言わんばかりのデブ黒人だ。まったく、色気もなにもあったもんじゃない。この中にせめて若い女の一人もいればな。『LOST』にだって必ず女は出てくるだろ?
「ナンデ、コンナメニ…」
東洋人が何か言っている。が、当然俺には意味はわからない。中国語か?
(ぐぅーっ)
なんだ。
奇妙なうなり声のような音が聞こえたぞ?
俺は辺りを見渡す。ケモノか。ケモノの類いか? まずい。こんな、文明のかけらも見当たらない絶海の孤島だ。どんなに獰猛で危険なケモノが潜んでいるかわかったものじゃないぞ。
鋭敏な感覚を持った俺にひきかえ、目の前のチャーハン野郎とラッパーもどきは微動だにしやしない。俺は東洋人の肩をつかみ、言った。
「なあ、今の声、聞いただろ。猛獣だよ。猛獣が俺たちを狙ってるぞ。聞こえただろ?」
だが東洋人は力なく首を振ると、自らの腹をおさえながら喘ぐように天を指差した。
「『もうだめだ。俺たちは食われる。奴らは空から狙っているんだ』……そういうことか!?」
なんてことだ。盲点だった。敵は空からもやってくるのだ。獰猛な鳥だ。きっと、コンドルかワシかドードー鳥かコンコルドか、そのあたりのどれかだ。そうなると、この、見晴らしのいい砂浜にいるのはあまりにも、まずい。
俺は駆け出した。森の中に潜めば、まず上空からは狙いにくくなるだろう。あばよ。おろかな東洋人と鈍い黒人め。俺は、ひとりでも生き残ってやるんだ。
そして俺は、あっという間に道に迷った。怪鳥の奇声や気持ち悪い虫どもの声に耳をやられそうになる。シャツが汗でじとじとだ。脱ぎ捨ててやりたい。が、こんな安物のシャツでも、俺がとってはまだしがみついていたい「文明」のひとつなのだ。
「くそっ…、参った……。これじゃあ、あの砂浜に戻ることもできやしないぞ…」
「ぐるるるる……」
「ん!?」
俺ははっきりと見た。トラだ。間違いない。獰猛なまなざし。鋭い牙。気づけば俺のほんの数メートル先にいた。こんな顔のどこが珍しいのか、じっと一心に俺の方を見ている。
「あ、あわわ…」
よくホラー映画でゾンビやモンスターに追われている奴らの動きがあまりにノロくてイライラさせられることがあったが、今なら俺はジョージ・A・ロメロの靴を舐めることだってできる。間違っていたのは、俺の方だ。
『人間は、圧倒的な恐怖の前には、ただ立ちすくむことしかできないのだ』
その時だった。
「ドッカイケエ!」
離れた場所から、一本の太い木の枝が飛んできた。そしてそれは熱心にこちらを見ていたトラの眉間に直撃し、瞬く間に昏倒させてしまったのだ。
「な、なんだなんだ?」
俺は、枝の飛んできた方向に目をやる。
すると、例の東洋人がこちらに背を向けて一心不乱に走り去る姿が見えた。
「ジャッキー……あいつ、助けてくれたのか……」
人を助けておいて、自分は何も言わずにその場を去る。これこそ『禅』の心に違いない。俺は自分が恥ずかしくなった。今度アイツに会ったら、一人だけ助かろうとしたことを素直に謝ろう。そう思った。
しばらく歩いていると、あっさりと森の出口にさしかかった。見ると、広々とした丘の中腹で、先ほどの巨大な黒人が焚き火の傍らに座っている。
「なにやってんだぁ…?」
黒人はこちらに背を向けていて俺の存在には気づいていないようだが、なにやらモゴモゴとつぶやきながら、木の皮で作った皿に怪しげな草を盛り合わせている。
鋭敏な感覚を持った俺は、すぐにピンときた。
「ブードゥー呪術だ……あいつ、何かとんでもないものを作ってやがる…」
そう考えれば、あの巨大な体もアフロも納得がいくというものだ。俺は、とんでもないヤツと一緒にいたんだ。危ないところだった。
「……じゃ、ジャッキー!?」
例の東洋人が、あの恐ろしいアフロの呪術師にウカウカと近づいてゆく。ば、ばかやろう! あのデブは、とんでもない悪党なんだぞ!
黒人は東洋人の存在に気づくと、皿に盛った毒草を彼の眼前に突きつけている。東洋人は一瞬怪訝な表情を見せつつも、おずおずと手を伸ばそうとしている。
「あぶない!」
俺は飛び出していた。あの東洋人は危険もかえりみず、俺をトラから救ってくれた。今度は俺が、彼を助ける番だ。
俺は東洋人の背後から思い切りタックルをかますと、その手から毒草を奪い去ろうとした。
「やめろ! 食べたら死ぬぞ!」
東洋人はすでに呪術にはめられているのか、俺の言葉が届かないようでじたばたと暴れている。
「落ち着け! 俺はお前の味方だ!」
だが、東洋人の力はなかなか強い。こいつ、元カンフー部か何かか? 上へ、下へ、右へ、左へ。転げまわって、激しいつかみ合いになる。
「ハナセッテ!」
「ジャッキー! 目を覚ま…」
あっ。
と思った瞬間だった。
俺は、東洋人と組み合ったまま、崖から落下していった。
なんて、こった。アイツを助けようと思って飛び出した俺が、結果的にアイツの命を奪うことになってしまった。なんて皮肉だ。ジャッキー、すまなかった。くそおおお、なんて運命だ。あああああ!!
「あー、あああ。よかった。やっと声が出るようになった」
薬草を煎じて飲んだ効果が早くも出たのだろう。風邪でやられていたわたしの喉はすっかりよくなった。春風に乗せてフルートでも吹きたい気分だ。
わたしは、慎重に崖の横の道を降りながら、落ちていった2人の元に近づいていった。あちこちをすりむいて、骨の一本や二本も折れているかもしれないが、命に別状はないようだ。わたしは2人をひょい、ひょい、と両肩に背負う。なかなか重い。
わたしはその体勢のまま、わたしの住む村に向けて歩き出した。
しかしこの2人は、どこからやってきたのだろう? わたしは今朝、いつもの通りに浜辺を散歩していて、砂浜に倒れている彼らを発見した。顔に水をかけてやったら目をさまし、何やらわけのわからないことをブツブツしゃべりはじめた。わたしの着ている洋服がよほど珍しかったのか、黄色い肌をした男の方はやけにじっと私のことを見ていた。何故だったのだろう? もともと気が小さいわたしは、それを問い詰めることもできなかったのだが。
まあいい。
もうしばらくでわたしの村に着く。そうしたら、わたしの手作りサラダでも2人に食べさせてやろう。このサラダはわたしの両親にも評判がよくて、母にもよく言われたものだ。
「マリアンヌ、あなたはきっといいお嫁さんになるわよ」
と。
<終>
次回
ヲ:「ヲサム」