遅ればせながら、「なげき生誕2015~なげきボーイ・なげきガール~」にお越しいただいた皆さま、まことにありがとうございました。

「自分で自分の生誕祭を開く」というコンセプト(?)で2013年から始まった「なげき生誕」ですが、3年目の今年は様々なニーズにお応えするべく10/6、10/7(誕生日当日)、10/12をそれぞれ「天・地・人」と題して3日間開催しました。

これがほんとに思いのほか大変でヒィヒィ言いながら準備したりしてたのですがそれに関しては今更言っても仕方ないので、各日の模様をお写真まじえて振り返ってみましょう。

【なげき生誕2015~天~】
10/6(火) AJITO新宿住友ビル店にて

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「天」のサブタイトルにからめて、地上200m、ビルの50Fに位置するお店で25名の方にお集まりいただき、振り返ってみればこの日が最も平和な飲みになりました。

まさかのお店宛にお祝いの電報をいただいたりプレゼントをいただいたり、嬉しい驚きがたくさんありました。

終盤にはなげきからの「動員が昨年に比べて激減したのでなげき生誕は今年で最後にしようと思う」という挨拶に、来場した方々から「やめないでー!」の声とともに横断幕を掲げて青色のサイリウムを一斉点灯する(恒例の茶番)サプライズもあり、感動的でした。(サイリウムと横断幕は私が用意しました)

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夜景をバックに記念写真。

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最後は都庁をバックに胴上げ。

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とても、平和でした。


【なげき生誕~地~】
10/7(水)  代々木公園にて

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「お金がないから生誕に行けない」というピンチケな方からのご意見が過去あったので、公園でピクニック感覚で飲食物持ち寄りで行う場を用意してみました。

が、誰かが書いていた「“地”は地獄の“地”」の言葉通り、10月の夜の公園の寒さは思ったよりも険しく、座ってじっとしていられないのでみんな立って身体を震わせながらもそもそ飲むという感じでした。

当日、(仕込みでない)サプライズで大きなケーキを差し入れていただいたのですが、変な芸人気質が働いて顔面を突っ込んでしまったのは大いに反省しております。(ケーキはそのあと美味しくいただきました)

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この写真で僕に顔面ケーキしてる女性はミスiD2016セミファイナリストの門米ゆうかさん( @nemurin_girl_  )。

彼女の立場の人がいちオタクの誕生パーティーに来るというのはリスキーな気もしましたが、本人は「これが自分のスタンスなので」と隠そうともせず、僕にケーキをぶつけた際にご本人もかなりケーキまみれになったのに「この服500円なんで! ぜんぜん大丈夫!」とケラケラ笑って帰って行かれたのがとても最高でした。
皆さん、応援しましょう。

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当日は夕方に原宿で行われたちゃんもも◎さんのラジオ生放送でも僕の誕生日についてふれてくださり、感謝の念でいっぱいでした。(画像拝借)

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これは、当日shibuya eggmanでお友達の みちゃさんが主催するアイドルイベントがあったので、勝手に作ったコラボステッカーです。eggmanとなげき生誕を回す方にだけお渡ししました。
デザインは、毎年なげき生誕のグッズを作ってくれている はやと君( @8484ha_ato )の手によるもの。いつもありがとう。

なにかと過酷なことも多かった「地」でしたが、お仕事終わりや現場ついでにフラッと顔を出したりしてくださる方もいて最終的には30名以上の方にお越しいただけて、人のあたたかさに救われる思いでした。
プレゼントもたくさん。ありがとうございました。

(後編に続く)





各位

お疲れ様です。お久しぶりです。初めまして。

誰も待ってないかもしれませんが、

なげき生誕2015のお知らせです。


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きたる10月7日に34歳になってしまうなげきさんをお祝いするという名目で、楽しく飲んだりおしゃべりしたり大量に持っているアイドルCDを配りあったりしようじゃないかという集いを、またやります。

今年は、さまざまなニーズにお答えするため「3DAYS」! 3日間開催してしまいます。
もう、いっぱいいっぱいです。

ご都合にあわせてどれかひとつに足を運んでもらえるだけで幸甚の至りですが、何を血迷ったか全通を狙ってみるのもよいかもしれません。

詳細は下記の通りです。
ふるってご参加ください。




【なげき生誕2015“天”】

地上200メートルに位置する天空の居酒屋で東京の夜景を一望しながら、優雅なひとときを。

日時:
2015年10月6日(火) 20:00~

場所:
AJITO 新宿西口住友ビル店
(東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル50階)
http://www.hotpepper.jp/strJ000797103/
※大江戸線「都庁前」駅直通

定員:
50名

参加費:
3,500円
※2時間飲み放題(8品)
※なげきとの2ショット券・プレゼントつき
※コース予約制となりますので、遅れていらした際も同額の参加費をいただきます。





【なげき生誕2015“地”】

ピンチケ歓迎! 参加費無料!
(飲食物は各自持ち寄り)
なげき誕生日当日は、うすら寒い秋の公園でピクニック感覚でたのしもう!

【追記事項(9/7)】
10/7(水)同日に渋谷eggmanで行なわれるイベント「COSMIC BOX」の半券をなげき生誕“地”の巻の会場でなげきに提示すると、特製のなにかを差し上げます!(品切れの際はご容赦ください)

日時:
2015年10月7日(水) 18:00~

場所:
代々木公園
(東京都渋谷区代々木神園町2-1)
https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index039.html
※JR「原宿」駅徒歩3分

定員:
100名(?)

参加費:
無料(ただし、飲食物は各自持ち寄りのこと)
※なげきとの2ショット券つき

※公共の場となりますので、節度を守り、紳士的な振る舞いをお願いします。火気厳禁です。
※ゴミをその場に残したり、公共物を傷つける行為は絶対禁止です。
※雨天の場合は屋内の安めの居酒屋に振り替えになると思います。
※詳しくは当日なげきのTwitter(@nagekinoumi)でご確認ください。





【なげき生誕2015“人”】

(9/11追記)
※10/12(月・祝)のなげき生誕“人”の巻は満員となりました。キャンセルなど発生し追加募集する際は改めてお知らせします。

なげき生誕初の祝日開催! これで社畜のあなたも安心だ!
でも、会場は僕の家なので、人数はあまり入れません!

日時:
2015年10月12日(月・祝) 13:00~
※よく考えたら11時スタートって早すぎじゃね?ということで、遅くしました。

場所:
ナゲキハウス
(神奈川県川崎市某所)
※詳しい場所は参加者にのみお知らせします。

定員:
15名

参加費:
実費
※飲食代は頭割りとなります。もちろん交通費も各自負担です。
※なげきとの2ショット券つき

※途中参加・途中離脱OK
※場所が場所なので、参加いただけるのはなげきと相互フォローで面識のある方を優先させていただきます。「面識ないし片思いフォローだけどどうしても行きたい!」という奇特な方は、10月までに仲良くなりましょう!
※家となりますので、節度を守り、紳士的な振る舞いをお願いします。
※その他詳しいお約束ごとは、参加者の方にのみお知らせ致します。





【全通特典あり!】
なげき生誕2015の3DAYSすべてに参加された方には、なんと、素敵なアレをプレゼント!
(あまり期待しないでください)


【遠征特典あり!】
関東地方以外からなげき生誕(のいずれか)にお越しの方には、ちょっとした何かをプレゼント!
(なにかしら現住所の証明になるものをご提示ください)


【その他諸注意】
・泥酔して周りに迷惑をかける行為はすべからく禁止です。楽しく笑顔で。ほどよく。
・未成年の方はお酒・タバコはダメです。勧めるのもダメです。
・女ヲタヲタ行為も、基本的に禁止です。恋なら、しかたないけど。
・プレゼントの類は、謹んで辞退申し上げます。来てくださることが、最高のプレゼントです。でも、お手紙とかもらったら泣くかもしれません。




以上、なにか質問などありましたらなげき( @nagekinoumi )までリプライやDMでお問い合わせください。

よろしくお願い致します。




2015年9月7日

増田なげき



小学校5年生の頃だったか。

体育館で体育の授業が行われていて、
ウォーミングアップがてらのお遊びで、体育教師が隅にマットを積み重ねてその上に生徒たちが中2階から次々飛び降りる、という遊びをみんなでやることになった。

ほんの数メートルだし下にはマットがたくさん敷いてあるのでケガのしようもなく、僕のまわりの同級生たちは次々に「イエーイ!」などと歓声をあげながら飛び降りてゲラゲラ笑っていた。

男子だけではなくて女子も列をなして飛んでいて、僕の初恋の女の子であるところのヤマナさんもニコニコしながらマットの上にぽーん、と飛び降りていた。(彼女は運動神経がよかった)

「マスヤマも飛べよー!」

先に飛んだ同級生の男子たちがあおる。
僕はひとまず2階までは上がったものの、やはりいざ飛び降りる段になると足が震えてしまって、一歩を踏み出すことがかなわなかった。

「はやくー!」

教師ですら、ニヤニヤしながらこっちを見ている。
ヤマナさんも、心配げな表情を僕に向けていた。雨の路上で、捨てられた子犬を見る目だ。

「む、ムリです」

僕は結局飛ぶことができず、そのまま階段を使って1階に下りた。
その場にいた人間でマットの上に飛び降りることができなかったのは、僕ひとりだけだった。


あれから20年以上経って。

経ってしまって。

僕はいまだに、マットの上に飛ぶことができていない。


キョウコさんや、ヒロミさんや、今まで僕みたいなもんに思いを向けてくれた女性にちゃんと向き合おうとしなかったことや、
転々としてきた仕事のことや、
舞台活動でも、バンド活動でも、オタク活動でも、思いきってその中に飛び込めなかったことや、
さんざんかわいがってくれたばあちゃんの最期に、ありがとうと言いにいけなかったことや。

人とぶつかって、多少傷ついてでもわかりあおうとすることを避けていた。
ただただ、自分が傷つくことだけを恐れていた。
臆病だった。

でも、そんな毎日でもごくたまに光が差す瞬間があって。

僕の尊敬する中島らもさんも車寅次郎さんも
「生きていれば必ず『生きていてよかったなぁ』と思えることがある。 そのために人間は生きているのじゃないか」
ということを言っていた。

たくさんの人との別れがあって、心が磨り減って、体は肥え太って、特に命に関わる問題があるわけではないけれど、なんだか、生きていくことって子どもの頃に期待していたほどじゃないな、ということに薄々感づき始めても、それでも『生きていてよかった』と思える夜は、たしかにある。

友達とお酒を飲んで楽しく騒いでいるとき。
好きな女の子が微笑んでくれたとき。
すばらしい映画や本や音楽に出会って涙するとき。
月が、とても綺麗なとき。

体育館の2階で足をすくませて身動き取れない僕の背中をポンと押してくれる人も今なら、いるのかもしれない。

「マスヤマも飛べよー!」

「んっ…!」

不意に背中を押されて無様に尻もちをついても、そこにはマットがある。

ケガをすることもまずないだろう。

僕を見てみんなが笑ってくれるなら、それもいいかもしれない。

それでいいや。



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生きていてよかった。




















【おわり】







Pixies-Debaser を聴きながら。



その人物と初めて会ったのはもはやいつのことか思い出せないが、でんぱ組.incのイベントにいるといつも周りのオタクから「ヲサムさん! ヲサムさん!」と呼ばれて慕われているダンディな未鈴ちゃん推しの男性の方がいるなぁ、という印象はかなり昔からあったように思う。

現場でご挨拶させていただいてからはやけに行動をともにする機会が増えて、それこそ未鈴ちゃんがディアステに入る前から彼女を推している古参中の古参であらせられるにも関わらず、僕のようなぽっと出のオタクとも仲良くしてくださった。

でんぱ現場で知り合った我々だけれども、2013年くらいから僕が突然アフィリア・サーガのアリアさん推しになってからというもの、元からアフィリア現場に通っていたヲサムさんと2人でご飯を食べたりライブを見たりすることになり、たくさんの思い出ができた。

アリアさんのグループ卒業後は 僕はめっきりアフィリア現場に行くことはなくなってしまったのだが、ヲサムさんとは、以前僕のブログに登場したロリコンパティシエのあっしーやロリコンおじさんのとしまる氏やロリコンTOのこくりゅう氏らとともにお台場の大江戸温泉物語に定期的に行くようになった。

日頃の仕事やヲタ活の疲れを癒しつつ、アイドル界、オタク界の様々な闇について語るこの大江戸温泉会は2014年はほぼ月イチペースで行われ、毎回ゲスト(のオタク)を交えながら楽しい時間を過ごした。

大江戸温泉に行った後に帰るのが面倒になってそのままヲサムさん宅に転がりこんで、みんなで部屋で雑魚寝する時の修学旅行のようなおバカな会話とか、自分が30歳過ぎてもこういうことができるのは、本当にありがたいことだなぁ、と。

ヲサムさんにしてもとしまるさんにしても、一回りも年下の僕らと対等にいち友人として接してくれて一緒にバカやってくれるのが本当に嬉しくて、オタクをやっていてよかった、と思わせてくれる。

長年のオタク歴を誇るヲサムさんの名言に「ガチ恋はやめとけ」というのがある。

それまでの人生で女性に対する免疫がきちんとできていなかったがゆえに、わずか4年ほどのオタク歴で幾度となくアイドルへのガチ恋地獄に陥ってきた僕みたいな人間には、とても突き刺さる言葉であった。

最近、人生について思い悩むことが多くてアイドル現場からほんの少しずつ足が遠のいてきている僕だけれど、ヲサムさんのヲタ活におけるたたずまいとか、若いオタクたちにいじられても笑って許してくれる寛容さとか(たまに許してくれなそうな時もあるけど)心から尊敬しているし、「あんな大人になりてぇ」と常々思っているのだ。
 
ヲサムさん、お互い、幸せになりましょうね。



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次回(最終回)
ん:「んっ」

以前書いたブログがあまりにネガティブな内容だったため削除し、

代わりになにか書こうと思いながらも何も思いつかないので、10年前にmixiでリクエストを受けて書いた小説でも載せてみよう。


当時僕は、mixi日記のコメントで小説のタイトルを募集し、それに即した内容の短編小説を書くという試みを定期的にやっていたのだ。今読むと荒くて青いけど、どこかかわいげがある。


以下本文↓



『サラダボウル』


 ……いま、僕の身に起きている状況を「幸」というべきか「不幸」というべきか。

 乗っていた豪華客船が沈没したことは間違いなく不幸だが、大半の乗客が冷たい夜の海に投げ出され、おそらくはそのまま凶暴なサメの餌食になってしまったであろう中、こうしてケガひとつ負うこともなく近隣の島に流れ着いたことは幸い以外の何ものでもない。だが、いま、この状況…


「きゃ、きゃん・ゆー・すぴーく、じゃぱにーず?」

 僕の問いかけに、目の前にいる2人は返事もしない。
 ひとりは派手なシャツをまとった白人の男。線は細いが、よく見れば筋肉質な体つきをしているのがわかる。まぶしいほどの金髪も今は砂まみれで、船の沈没以来の彼の憔悴を物語っているようだ。

「○×△○×△……」

 白人はうつろな目でもごもごと口を動かしているようだが、何を言っているかはまったくわからない。

 もうひとりは、白人よりもさらに大きな体躯の黒人。こんな例えはおかしいが、その迫力ある図体は相撲取りのようだ。アフロの相撲取りだ。戦ってもまず勝ち目はないだろう。おそらくは船の従業員か何かであったのだろうか。白い、ぶかぶかの制服に身を包んでいる。コック服のようなものか?

「…………」

 黒人は、やけに寡黙だ。私が知っている限り、一言も言葉を発してはいないのではないか? それに熱帯植物が生い茂るこの島において、あまり汗をかいているそぶりもない。

 僕はなんだかどっと疲れてしまい、身にまとったタキシードが汚れることもいとわず砂浜に座り込んだ。どちらにせよ海水に洗われて使い物になどなりゃしない。

「なんで、こんな目に…」

 言葉の通じない外国人2人と一緒に、人の住んでる気配も感じられない絶海の孤島で漂流か。楽しすぎるな。

(ぐうっ)

 情けない。腹が鳴った。おまけに暑い。シヌ。

「○△×○△×!?」

 白人がなんだか詰問するような調子で話しかけてくる。なんだ、何か僕が悪いことでもしたというのか? 僕は、困った表情のままお腹に手をあてて空腹をアピールし、この日差しのしんどさをアピールするため空を指差した。

「おう、○△×!」

 白人は小さく叫んで真面目な顔をすると、僕に背を向けて森の中に走っていってしまった。なんだろうか。食べ物でも取ってきてくれるのか?
 しかし妙な胸騒ぎもする。僕は彼の後についていくことにした。
 すると例の相撲取り体型の黒人も、黙って僕の後ろをついてくる。なんだか不気味だ。僕は、「えへ、えへへ…」とごまかし笑いをして、小走りで白人の後を追った。
 そして僕はあっという間にこの森で道に迷った。白人も黒人も見当たらない。なんということだ。こわい。ひとりぼっち。いやだ。

「おーい! おーい!」

 言葉が通じる通じないなど関係あるか。僕は死ぬ気で叫んだ。

「おーい! 誰か!」

 まったく返事がない。聞こえるのは、木の上で僕をあざわらう得体の知れない生き物たちの声だけだ。

「ぐるるるる……」
「ん?」

 茂みの向こうから、なんだか獰猛な感じのうなり声が聞こえてくる。
 も、猛獣……のたぐい?
 ま、まずい。ど、どうしよう。武器になるようなものは何もないぞ。そ、そうだ。追い払おう。ええと、なにかないか。追い払えるようなもの。なにか。
 僕は、足元に落ちていた太い木の枝を拾い上げ、声のした茂みに向かって思い切り投げた。

「くそぉぉぉぉ! どっかいけええ!」

 投げた、後に気づいた。
 ……こんなことして、猛獣が余計怒ったりしたらどうする?

「しまった! 逃げよう!」

 元いた方向に向かって、とにかく無我夢中、全力でダッシュ。なんだか、けっこうな長い時間森の中をぐるぐる走り回っていた木がする。僕はいつしか、広々とした小高い丘にやってきていた。

「あれ……、ここ、どこだ?」
「…………」
「うわっ! こ、黒人!」

 巨体の黒人がそこにいた。木の枝を集めて焚き火をし、そのそばにこしかけて何かを食べている。

「ど、どこ行ってたんだよ…? って、それ、何食べてんの?」

 覗きこむと、木の皮で作ったサラダボウルに色々の野菜(というか、草)を盛り合わせた、即席のサラダといった体裁のものだった。

「うえー、それ、食べれるの? マズそうだけど…」

 僕の言葉を理解したのか否か、黒人は「食べてみろ」とでも言わんばかりにそれを差し出してきた。

「うえー……でも、この島に来てから何も食べてないのも事実だしな。あんたも食ってて大丈夫みたいだし、じゃあ一口…」

 手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
 僕は後ろからタックルされ、強い力でいきなり羽交い絞めにされる。

「○△×! ○△×!」

 見ると、例の白人だった。何か凄い形相で僕に何か言っている。『俺の食い物だ、よこせ!』とでも言っているかのように。

 冗談じゃない。僕だってどうしようもなく腹が減っているのだ。そうやすやすと渡すわけにはいかない。僕はあらん限りの力を振り絞って、白人を引き離そうとする。

「○△×!」
「うるさいな! 何言ってるかわかんないってば!」

 白人は元ラグビー部か何かか? もの凄い力だ。僕は振りほどこうと必死にもがいた。黒人はあっけに取られたような目でこちらを見ている。なんだよ。加勢しろよ。くそっ。

「離せって!」
「○△×!」
「あっ」

 一瞬の、ほんのちょっとの油断だった。
 足元に、地面が、ない。
 丘だと思っていた場所の裏は、切り立った崖になっていた。僕と白人は、もみ合った姿勢のまま無残に落下していった。
 この高さだ。
 助かることもあるまい。
 僕の人生は、こんなにも呆気なく終わってしまうのだ。得体の知れない島で、得体の知れない外国人とともに、得体の知れない理由で、死ぬ。
 ……まったく、くそったれな人生だ。



「……まったく、くそったれな人生だ」

 俺はシャツの首元を緩めて、パタパタと風を入れた。髪に手をやると、砂まみれのジャリジャリとした感触が気色悪い。今だったら、便所の水でも喜んで頭からひっかぶれる自信がある。

 俺は周囲に目を向けた。
 いま、この砂浜で俺の前にいるのは、場違いなタキシードに身を包んだジャッキー・チェンまがいの東洋人と、その人生で摂った食事の98%がハンバーガーだったとでも言わんばかりのデブ黒人だ。まったく、色気もなにもあったもんじゃない。この中にせめて若い女の一人もいればな。『LOST』にだって必ず女は出てくるだろ?

「ナンデ、コンナメニ…」

 東洋人が何か言っている。が、当然俺には意味はわからない。中国語か?
(ぐぅーっ)
 なんだ。
 奇妙なうなり声のような音が聞こえたぞ?

 俺は辺りを見渡す。ケモノか。ケモノの類いか? まずい。こんな、文明のかけらも見当たらない絶海の孤島だ。どんなに獰猛で危険なケモノが潜んでいるかわかったものじゃないぞ。
 鋭敏な感覚を持った俺にひきかえ、目の前のチャーハン野郎とラッパーもどきは微動だにしやしない。俺は東洋人の肩をつかみ、言った。

「なあ、今の声、聞いただろ。猛獣だよ。猛獣が俺たちを狙ってるぞ。聞こえただろ?」

 だが東洋人は力なく首を振ると、自らの腹をおさえながら喘ぐように天を指差した。

「『もうだめだ。俺たちは食われる。奴らは空から狙っているんだ』……そういうことか!?」

 なんてことだ。盲点だった。敵は空からもやってくるのだ。獰猛な鳥だ。きっと、コンドルかワシかドードー鳥かコンコルドか、そのあたりのどれかだ。そうなると、この、見晴らしのいい砂浜にいるのはあまりにも、まずい。
 俺は駆け出した。森の中に潜めば、まず上空からは狙いにくくなるだろう。あばよ。おろかな東洋人と鈍い黒人め。俺は、ひとりでも生き残ってやるんだ。
 そして俺は、あっという間に道に迷った。怪鳥の奇声や気持ち悪い虫どもの声に耳をやられそうになる。シャツが汗でじとじとだ。脱ぎ捨ててやりたい。が、こんな安物のシャツでも、俺がとってはまだしがみついていたい「文明」のひとつなのだ。

「くそっ…、参った……。これじゃあ、あの砂浜に戻ることもできやしないぞ…」
「ぐるるるる……」
「ん!?」

 俺ははっきりと見た。トラだ。間違いない。獰猛なまなざし。鋭い牙。気づけば俺のほんの数メートル先にいた。こんな顔のどこが珍しいのか、じっと一心に俺の方を見ている。

「あ、あわわ…」

 よくホラー映画でゾンビやモンスターに追われている奴らの動きがあまりにノロくてイライラさせられることがあったが、今なら俺はジョージ・A・ロメロの靴を舐めることだってできる。間違っていたのは、俺の方だ。

『人間は、圧倒的な恐怖の前には、ただ立ちすくむことしかできないのだ』

 その時だった。

「ドッカイケエ!」

 離れた場所から、一本の太い木の枝が飛んできた。そしてそれは熱心にこちらを見ていたトラの眉間に直撃し、瞬く間に昏倒させてしまったのだ。

「な、なんだなんだ?」

 俺は、枝の飛んできた方向に目をやる。
 すると、例の東洋人がこちらに背を向けて一心不乱に走り去る姿が見えた。

「ジャッキー……あいつ、助けてくれたのか……」

 人を助けておいて、自分は何も言わずにその場を去る。これこそ『禅』の心に違いない。俺は自分が恥ずかしくなった。今度アイツに会ったら、一人だけ助かろうとしたことを素直に謝ろう。そう思った。

 しばらく歩いていると、あっさりと森の出口にさしかかった。見ると、広々とした丘の中腹で、先ほどの巨大な黒人が焚き火の傍らに座っている。

「なにやってんだぁ…?」

 黒人はこちらに背を向けていて俺の存在には気づいていないようだが、なにやらモゴモゴとつぶやきながら、木の皮で作った皿に怪しげな草を盛り合わせている。

 鋭敏な感覚を持った俺は、すぐにピンときた。

「ブードゥー呪術だ……あいつ、何かとんでもないものを作ってやがる…」

 そう考えれば、あの巨大な体もアフロも納得がいくというものだ。俺は、とんでもないヤツと一緒にいたんだ。危ないところだった。

「……じゃ、ジャッキー!?」

 例の東洋人が、あの恐ろしいアフロの呪術師にウカウカと近づいてゆく。ば、ばかやろう! あのデブは、とんでもない悪党なんだぞ!

 黒人は東洋人の存在に気づくと、皿に盛った毒草を彼の眼前に突きつけている。東洋人は一瞬怪訝な表情を見せつつも、おずおずと手を伸ばそうとしている。

「あぶない!」

 俺は飛び出していた。あの東洋人は危険もかえりみず、俺をトラから救ってくれた。今度は俺が、彼を助ける番だ。
 俺は東洋人の背後から思い切りタックルをかますと、その手から毒草を奪い去ろうとした。

「やめろ! 食べたら死ぬぞ!」

 東洋人はすでに呪術にはめられているのか、俺の言葉が届かないようでじたばたと暴れている。

「落ち着け! 俺はお前の味方だ!」

 だが、東洋人の力はなかなか強い。こいつ、元カンフー部か何かか? 上へ、下へ、右へ、左へ。転げまわって、激しいつかみ合いになる。

「ハナセッテ!」
「ジャッキー! 目を覚ま…」

 あっ。
 と思った瞬間だった。
 俺は、東洋人と組み合ったまま、崖から落下していった。
 なんて、こった。アイツを助けようと思って飛び出した俺が、結果的にアイツの命を奪うことになってしまった。なんて皮肉だ。ジャッキー、すまなかった。くそおおお、なんて運命だ。あああああ!!



「あー、あああ。よかった。やっと声が出るようになった」

 薬草を煎じて飲んだ効果が早くも出たのだろう。風邪でやられていたわたしの喉はすっかりよくなった。春風に乗せてフルートでも吹きたい気分だ。
 わたしは、慎重に崖の横の道を降りながら、落ちていった2人の元に近づいていった。あちこちをすりむいて、骨の一本や二本も折れているかもしれないが、命に別状はないようだ。わたしは2人をひょい、ひょい、と両肩に背負う。なかなか重い。

 わたしはその体勢のまま、わたしの住む村に向けて歩き出した。
 しかしこの2人は、どこからやってきたのだろう? わたしは今朝、いつもの通りに浜辺を散歩していて、砂浜に倒れている彼らを発見した。顔に水をかけてやったら目をさまし、何やらわけのわからないことをブツブツしゃべりはじめた。わたしの着ている洋服がよほど珍しかったのか、黄色い肌をした男の方はやけにじっと私のことを見ていた。何故だったのだろう? もともと気が小さいわたしは、それを問い詰めることもできなかったのだが。

 まあいい。
 もうしばらくでわたしの村に着く。そうしたら、わたしの手作りサラダでも2人に食べさせてやろう。このサラダはわたしの両親にも評判がよくて、母にもよく言われたものだ。

「マリアンヌ、あなたはきっといいお嫁さんになるわよ」

 と。


<終>




次回

ヲ:「ヲサム」