暁のヨナ 第113話 『闘え』 感想
最新話までの内容にふれますので、未読の方はご注意を。

....................................................................
他話の感想も書いてます。


国境近くの灯火町‥

「テトラ殿」

高台から厳しい表情で遠くを見つめるテトラ。声を掛けて来たのはラマル。

「報告します。先日の事故での行方不明者は37人。どれも怪我人を運ぶと言って連れ去る手口だったようです」
「斉は国境近くのこの町に複数の密偵を送り込んでいるようね。引き続き残党を探して」
「はっ」

何かに気付き言葉を切るラマル。テトラもそちらを見て驚く。

立っていたのは水の部族長ジュンギ将軍。

「ジュンギ様‥っ」

跪くテトラ。
なぜ‥?どうして今ここにジュンギ様が‥

「テトラ。私は斉国の調査で灯火町にきたのだが、なぜ君がここにいる?聞けば昨夜ここで事故があったらしいな」

突然現れたジュンギの詰問に顔を上げられないテトラ。

「答えなさい。あの子は‥リリはどこだ?」

リリ様の居場所を言えば、ヨナ様やハク様達の居場所まで知られる。みなさまが作戦行動中のこの時に‥。ありのまま報告して良いものか‥。

「リリ様‥は‥」

逡巡するテトラを見かねてラマルが口を開く。

「申し上げます。リリ様は昨夜、事故に巻き込まれ斉国に誘拐されました!」

驚いてラマルを見るテトラ。ラマルの方は隠しておけることではないだろうと言う表情。リリの身の安全の方が優先なのだ。

「‥それで?」

ジュンギは静かな表情で先を促す。

「‥っ、申し訳ありません!私の不徳の致すところで‥」
「私は謝罪を要求しているのではない」

ジュンギの言葉にハッとするテトラ。

「‥アユラが今、リリ様をお救いする為斉国に潜入を」
「アユラだけでか?」
「‥‥‥はい」
「リリ様がどうされました?」

その時、白い外套のフードを目深に被った男が声を掛けてきた。後ろに控えるのは‥‥。

「斉国に連れて行かれたと‥?」
「いえ‥これはお耳に入れる程の事ではございません」
「水の部族長のご息女が他国に攫われた事がですか?随分おおごとな気がしますが‥」

突然現れた人物に面食らうテトラ。
どなた‥?

「今日は斉国の砦の調査に来たのですが、それと関係しているのでは?話してください」

砦の情報を知っている‥⁉︎

テトラはヨナ達の事を抜きにして事の次第を説明した。

「成程‥。リリ様はその騒ぎの中連れ去られ、斉に奴隷として使われている‥と」
「‥‥」
「軍事目的で造られている砦はいずれ取り除くつもりでいましたが‥。リリ様がナダイを飲まされているかもしれないとなると、一刻を争いますね」

テトラは話を聞いて考え込む男を観察する。
高貴な方のようだけど。何者‥?物腰柔らかで優しい雰囲気。でも私‥どこかでこの方を見たような‥

「うーん。‥仕方ない。
   乗り込みますか。斉国に」
「陛下!」

後ろに控えていた男がたまりかねて口を挟んできた。

「一体何を言い出すんですか⁉︎一国の王が他国に少人数で乗り込むなど!無事で済むと思っているのか⁉︎」
「しかしジュド将軍‥」
「お転婆も大概にしてください!」
「ジュド将軍、面白いなあ」

ふたりのやりとりに自分の記憶と目の前の人物がようやく重なったテトラ‥。

思い出した。この方は数年前、水呼城の祭に招かれていた。ジュンギ様のお客様として‥。あの時はまだ即位されていなかったけど‥。この御方がスウォン陛下

「ここは一旦城に戻り軍備を整えて」
「そんな時間はありません」
「御身に何かあったらどうします?貴方の代わりはいないんですよ⁉︎」

もしかしなくても、この方とヨナ様やハク様を会わせてはならないのでは‥?
でも陛下が手を貸して下さるのならリリ様をお助けするのにんなに心強いことはない‥!

「とにかく今回ばかりは貴方を縛ってでも行かせるわけにはまいりません!」
「‥‥わかりました」

ほっとするジュド。

「ジュンギ将軍すみません」
「とんでもございません。身内の不祥事に陛下のお手を煩わせるなど‥」
「少し時間を下さい」

ジュドとのやりとりでのユルい表情から一転するスウォン‥

「ひとつ提案があります」


☆☆☆

一方、ヨナたちのいる砦では人々がムチを持った兵士に見張られながら、働かされている。

大きな袋を肩に乗せて運んでいるヨナ‥

喉が渇く‥
ここに来てから二日経った‥

冷静に見てみるとここは壁を造っているだけじゃなくて、武器を運んだり造ったりしている

奴隷は斉国からも毎日たくさん連れて来られていて、女・子供関係なく働かされる

むしろ子供の方が覚えも早く抵抗もしないから扱い易いんだ

ナダイを使って飼い慣らしているから痛みも感じず脱走者も出ない

そして恐らく
ナダイを飲み過ぎて壊れてしまった者は

処分される

大きな音と叫び声がした。奴隷が反抗したのか、兵士に踏みつけられている。

リリもまた喉の渇きにふらつきながら荷車を押していたが、後ろから兵士に髪を掴まれた。

「あっ」
「喉が渇いているんだろう?動きが鈍いぞ」

羽交締めにされ苦しむリリ。ヨナもその様子に気付く。

「お前は一滴も酒を飲んでないらしいな」
「‥問題ない‥わ」
「タダでくれてやるってんだ。遠慮せずにたっぷり飲めよ!」

兵士はリリの顔に酒を浴びせ掛けた。

「リリ!」
「そこ!持ち場にもどれ!」

ヨナはリリに駆け寄ろうとしたが、リリは掛けられた酒を吐き出した。

「貴様‥っ」
「‥ありがとう。丁度顔を洗いたいと思っていたところよ。すっきりしたわ、お陰様で」

目の力を失っていない表情にたじろぐ兵士‥。

「リリ」
「平気よ」
「平気‥。ヨナ‥。私‥腹が立って腹が立って仕方がない。こんな人の尊厳を踏みにじるような卑劣極まりない場所。許されないし、許されるなんて思わせたくない」
「でも‥一番腹が立つのは、水が‥欲しくて欲しくて、なんでもいいから、少しくらいならって、あの酒をみっともなく奪って飲んでしまいそうになった私よ‥!」
「たとえ干からびたって屈服しないって思ってたのに。冷たい水の感触に、あっという間に折れそうになるなんて」
「怖い‥」
「リリ‥」
「怖いよ‥」
 「リリはみっともなくなんかない。何も間違ってないよ」

渇く
渇く
こんなに渇いて
渇いて
どうにかなりそうなのに
目の前が真っ赤に燃えるようにあつくて
手が
足が
焼け焦げようとも
絶対にこの腐った場所を壊して
リリを守らなくてはと思った

☆☆☆
夜、リリは小さく咳き込んで目が覚めた。喉の渇きで苦しむリリはヨナの寝床が空なのに気づいた。


その頃ヨナは見張りの目を盗み外に出ていた。

あれだけ兵士がいるんだ
どこかに普通の飲み水があるはず

見張りは少ない
兵舎の近くに何かあるかも


一方ヨナを心配して外に出てきたリリは兵士に見つかってしまう。肩を掴まれた。

「おい、何をしている」

間の悪いことに昼間リリにナダイ入りの酒を浴びせ掛けた兵士だった。

「別に‥。夜風に当たりたかっただけ。もう戻るわ」

リリの肩を掴んで離さない兵士。

「放して。ちゃんと戻るって言ってるでしょう」
「脱走か‥?脱走だな⁉︎」
「‥‥違うわよ」
「脱走者には死だ」
「も‥戻るからっ‥放してっ」
「お前ら生意気なんだよ。ここの奴隷はすぐに誰もが従順になるのによ‥‥」

何だろう
何かを思い出す
ああそうだ
あの時のナダイ中毒者‥

「反抗する奴はここでは処分されるぞ」

似てるけど違う
あの人たちには深い悲しみがあった
これは人を踏みつけていないと己の力で立ち上がる事も出来ない、弱い 弱い生き物だ

「来い!」

腕を掴まれ、連れて行かれそうになったリリは反撃に出た。

進もうとする兵士の足にしがみ付き、よろけて倒れた所へ石を拾って思いっきり投げつけた。

「てめえぇ‥」

私も弱い
喉のが渇いて
足が震えて
この場にへたり込んで泣いてしまいたい

兵士は抜刀し、リリの喉元に剣先を突き付けたが、リリは怯まず兵士を睨み付ける。

こんな時
私の大切な
あの子だってきっと


その時

兵士の背後に人影が現れた。

木材を振り上げるヨナだった。

驚くリリ。

殺気を漲らせたヨナの目。

木材が振り下ろされ、顔面を地面に打ち付けられる兵士だったが、やはりヨナの力ではあまりダメージを受けている様子もなく、すぐに体勢を立て直してきた。

「‥‥っ!殺してやる!」

兵士の振り下ろした剣がヨナの構えた木材を真っ二つにした。

丸腰になったヨナ。残るは鋭い眼力のみ‥。

再び剣を振り上げる兵士。

思わず口元を覆うリリ。
何かないかと辺りを見回し、割れた陶器かガラスの様な物に目をとめた‥

「死ねぇっ」

ヨナに切りつける兵士。

リリは欠片を掴み、鋭利な部分を兵士の首の後ろに叩き込むように突き刺した。

ドシャ

倒れる兵士‥。

「リリっ」

リリに掛けよるヨナ。

「リリ、大丈夫⁉︎」
「ヨナ‥わた‥私‥っ」

リリは自分のした行動にショックを受け、へたり込んでしまった。

倒れて起き上がりそうにない兵士と、人影のない辺りの様子を見回すヨナ。

「リリ、行こう」
「えっ‥‥」
「脱出するの。今なら見張りも少ない」
「え‥‥」
「このままでは私達、殺されてしまう」


☆☆☆感想☆☆☆

灯火町から始まった今回。
ジュンギへの報告はどうするのかと思っていましたが、とりあえず内緒にしていたのですね。黙っておける問題ではないと思いますが‥

案の定あっと言う間にばれた模様‥。
しかもなんとスウォンが‥スウォンが来ました!
思わずスウォンキターーーッと小さく叫んでしまいました‥。

ですがジュドが余計なことを言ったため、スウォンが斉に乗り込むのはなしになりました。残念です。ハク達と合流するなんて夢展開はなさそう‥。まだ分かんないけど。

スウォンはひとつ提案がありますなんて言ってますが、何をするつもりでしょうか。

さしずめハク達が物理的にヨナ達を助けたり、斉の悪いやつを懲らしめたりする、スウォンが大外から固めて、斉に何も言わせないようにさせる、といった決着になるのでしょうか。

スウォンが何をするのか考察したいところですが、凡人の頭にはたいしたことは浮かびません‥。

ただ、「提案」と言ってますから、自分の名前で何かをするというよりはジュンギさんに水の部族長として動いてもらうようなニュアンスを感じました。友好的に斉国を訪れ、大きな釘を刺してビビらせてくる‥みたいなこと?やっぱりたいしたことは思い付きません‥。

あのケイシュクとかいう空気読めない参謀とは名ばかりの人なんて必要ないほど優秀な軍師スウォンなので、きっと目から鱗の妙案があるのでしょう。

後でスウォンの動きを知ったハクがどんな表情をするか‥。思い浮かべると切ないですね。ここはヨナ抜きにして、ハクのスウォンに対する思いって切ないです‥。

一方ヨナ達ですが、思った以上に厳しい状況でショックです‥。女性も子供も重労働を課せられているのですね‥。二日も水分を取らずにいるヨナとリリの健康状態が心配です。

今回のラスト、このまま脱走する判断を下すヨナですが、成功したのでしょうか。

見張りがひとりしかいなかったのは、奴隷のほとんどがナダイの力で言いなりになっているからなのかな。

何にせよこの機に逃げ切って欲しい。重複しますが、ヨナリリの脱水状態は深刻だと思いますから!

ところで今回出番のなかった追跡チーム。二日も経っているならそろそろどちらかが追い付いても良さそうですが‥。特にジェハチームはジェハがいるんですからね。

最後にちょっと気になったんだけど、ラマルっていつからいたんでしょう。たしか前回はいなかったと思うけど‥。

リリ達のことが心配で後からやって来たんですかね~。