今年・・というより、私にとって『女神さまが見ている』及び『Story of My Life』以来の心ときめく作品がどうやらやって来てしまったようです、乙女の皆様。
その作品の名前は、『私とナターシャと白いロバ』。
先日、韓国ミュージカル界における貴族代表ピルソク様(高慢と偏見をミュージカルにするなら、生ける貴族=ピルソク様=ダーシーがいる今ですよ、制作者の皆さん!)を紹介する際に、この冬の新作としてちらっと紹介しましたが、その後、この作品を見て、
すいません、
完全に打ちのめされました・・・。
位の感動をもらい、終了後席から立ち上がれず、文字通り劇場を一番最後に出る人になってしまったほど。
必ず行こうと思ってた作品でしたので、ここはやっぱりピルソク様でいつ行こうと思ってた矢先、仕事のため見てきた旦那さんが帰宅するや否や放った言葉が、
ペクソク:イ・サンイ &
運命の恋人ジャヤ:チョン・インジ カップルがすごいから
「絶対見なさいっっ」
と、普段は家では絶対作品を褒めない旦那さんなのに、ややおすぎ風にまで興奮していたものなので、いてもたってもいられなくなったのでした。
・・・そして、観劇後、この言葉を皆さんにお伝えしたいです。
サンイ・ペクソク、
泣き笑い演技最強伝説。
はい、この写真でもうお分かりの通り、1991年とまだすごい若いサンイさん、歌手のRainさんとも似ておりまして、名作ドラマ『サンドゥ、学校へ行こう!』を一度でも見たことがある方ならば、今回の『僕とナターシャと~』は、空前絶後の名作になること間違いなしです。
そして、そしてね、そして奥さん、声ですよ。もう声が素晴らしすぎて何も言えないんっすよ。(ビバ高デイビッド坊や風)。
【証拠資料及び副題:その声に、マジで恋する5秒前~】
再生するやいなや、~貧しい僕が、美しいナターシャを愛して~の一声でもう恋に落ちてしまう方も多いと思いますが、そうなのです。このミュージカル『僕とナターシャと白いロバ』は、リーディング公演後にものすごい好評のため、本公演までたどり着いたのですが、まず最初のリーディング公演で主役を務めたのがサンイ・ペクソク&ジャヤ:チョン・インジさん。
つまり、伝説のリーディング公演を観たこちらのミュージカルファンの乙女たちは、こぞってこのカップルの回を見ており、良席はほとんど残っていないほど。
このミュージカル、簡単に説明すると、『僕とナターシャと白いロバ』という実在の詩とそれを書いた詩人・白石(ペクソク:写真左)と、その運命の恋人の妓生ジャヤ(写真右)の恋物語をモチーフにしておりまして、物語を彩るナンバーの至る所にペクソクが遺した美しい詩の数々が散りばめられています。
二人はたった三年間だけ共に暮らすのですが、ペクソクの両親の反対や社会の目もあり、満州への駆け落ちを考えるものの、彼の将来を考えたジャヤが身を引き、その後戦争での38度線のため、北朝鮮へ行ったペクソクと、そんな彼を死ぬまで思い続けていたジャヤは二度と会うことなくその生涯を終えた・・・というのが現実のお話。
・・・と、ここまででも胸が張り裂けそうな切ない話なのですが、この恋物語にはその後が。ペクソクを永遠に想っていたジャヤは彼のいない場所で懸命に働き、ソウルにある広大な料亭を経営するにまで至るのですが、晩年、その全てをある僧に寄付し、その広大な土地の価値は今のお金で1000億ウォン(100億円)と言われたほど。
当時、その膨大な寄付により話題となったため、ある記者から‘惜しくはなかったですか?’と聞かれ、彼女が答えたのは、
~100億なんて、あの方の詩の一行にも及ばない~
と、静かに話したそうです。
ジャヤが寄付し、今はお寺として残っているのが、ソウルにあるキルサンサ(吉祥寺)という場所。何回か出かけたことがありますが、それはそれは美しい場所です。
そんなジャヤにペクソクが残していたのが、彼女の全てを称える詩の数々。その一番に代表されるのが、『僕とナターシャと白いロバ』なのです。
『僕とナターシャと白いロバ』
가난한 내가
貧しい僕が
아름다운 나타샤를 사랑해서
美しいナターシャを愛し
오늘 밤은 푹푹 눈이 나린다
今夜はたくさんの雪が降る
나타샤를 사랑은 하고
ナターシャを愛し
눈은 푹푹 날리고
たくさんの雪が降り
나는 혼자 쓸쓸히 앉어 소주를 마신다
僕は一人寂しく座って焼酎を飲む
소주를 마시며 생각한다
焼酎を飲みながら思う
나타샤와 나는
ナターシャと僕は
눈이 푹푹 쌓이는 밤 흰 당나귀 타고
雪積もる夜 白いロバに乗って
산골로 가자
田舎へと行こう
출출이 우는 깊은 산골로 가 마가리에 살자
鳥泣く山里深い田舎のあばら家に住もう
눈은 푹푹 나리고
たくさんの雪が降り
나는 나타샤를 생각하고
僕はナターシャを想う
나타샤가 아니 올 리 없다
ナターシャが来ないはずはない
언제 벌써 내 속에 고조곤히 와 이야기한다
もうすでにこの心の中にやって来て 話をしているのだから
산골로 가는 것은 세상한테 지는 것이 아니다
田舎へ行くのは 世の中に負けたのではない
세상 같은 건 더러워 버리는 것이다
世の中というものは汚いから 捨てただけなのだ
눈은 푹푹 나리고
雪はひどく降り続け
아름다운 나타샤는 나를 사랑하고
美しいナターシャは僕を愛し
어데서 흰 당나귀도 오늘 밤이 좋아서 응앙응앙 울을 것이다
どこかで白いロバも今宵を好み 鳴くだろう
晩年のペクソクの写真(右)。外国の書物を何冊か翻訳したとあるものの、北朝鮮での彼の生活は執筆とは程遠いものだった可能性も。詩人たちが恋する詩人とまで言われた彼が北朝鮮で過ごしてきた労働の日々の過酷さが出ているようで、この現実を知っているだけに、劇中チョン・インジさん演じるジャヤがクライマックスにつぶやいた、
「私が一生懸命働いて、お金をためたから
帰ってくるあの方は、好きなだけ詩を書いてほしい。」
の叶わない、胸が張り裂ける切なさといったらないのです。
作品タイトルがペクソクの詩なので、ペクソクが主人公と思いきや、この劇の主人公はジャヤその女性(ひと)です。
それをとても美しく象徴しているのが、ティーザー映像で流れた映像の数々。
舞を踊れば美しく、
愛する人のために何十億を稼ぎ、
永遠に想い続ける女性と、
チャーミングで
才能あふれ、ありのままを愛してくれ、
誰よりも愛する女性を詩に刻み、それを永遠に残るようにした男性の、それはそれは素敵なラブストーリー。
2016年の一番になりました。