新稀少堂日記 -5ページ目

第9376回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その10~12、デイヴィドソンの不思議な目 ネタバレ」

 第9376回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その10、デイヴィドソンの不思議な目 その11、故エルヴシャム氏の物語 その12、森の中の宝 ストーリー、ネタバレ」です。


「その10、デイヴィドソンの不思議な目」(異次元テーマ)

 10数ページの短編です。主人公シドニー・デヴィドソンの同僚であるベロウズの一人称"私"によって、シドニーの身に降りかかった変異が語られます。


 シドニーが発作を起こしたのは、ハーロウ技術学校の実験室のことでした。器具の壊れる音とシドニーの叫び声に驚き、駆け付けたベロウズは、シドニーの目が見えないことに気づきします。しかし、目は見えないものの、音声などはきちんと聞こえていたのです。


 ですが、シドニーは別の物を見ていました、地球の反対側の海底の世界でした。そこには沈没船があり、自分に向って深海魚が襲ってくると喚きます。ただ、ベロウズの語りかける声は聴こえていますので、不思議なやり取りが進みます・・・・。


 ですが、シドニーの異変は長くは続きませんでした。視野の中にこちらの世界が見え始めたのです。そして、時間を追うに従って元に戻ります。あの症状はなんだったのか、いまだに解明はされていません。


 ただ、後日、ファルマー号なる沈没船の写真を見たシドニーは、自分が見たのはまさしくこの船だったと証言しています。シドニーの体験を、犬を使って再現しようとしましたが、いずれも失敗しました・・・・。


「その11、故エルヴシャム氏の物語」(ホラー)

 以下2編の短編は、創元版で既に取り上げていますので、既に書いているブログから再掲することにします。


 『 医師を目指す貧しい青年が主人公です。青年は、偶然エルヴシャムという老人に出会います。老人は、気に入ったのか、青年を自宅に招き、酒をふるまいます。老人は余命いくばくもないので、青年に全財産を遺贈すると伝えます。青年は半信半疑です。


 酒を飲みすぎたのでしょうか。通常では考えられないような酩酊ぶりです。幻覚まで見ます。あたかも、ドラッグ体験のようです。このあたりの描写が、実に活き活きしているのです。しかも、読者を誘導しているのです。やっとベッドに倒れ臥します・・・・・。ふらつく足で自宅に帰ったように思えたのですが、どうも老人の家に戻って寝ていたようです。


 体の随所に違和感を感じます。目で見える範囲の皮膚は、・・・・・。青年の心は、老人の体に入っていたのです。では、老人の心は、青年の体に入ったということでしょうか。老人の体をした青年は、今にしてやっと理解します。老人はやがて死ぬ、そして、青年が遺産を相続する、若い体の中で・・・・。老人の体をした青年は、経緯を書いたメモを残し、自殺します。


 ただ、老人の心を持った青年は、馬車にはねられ事故死しています。この部分のエピソードは不要だったのではないでしょうか。老人の心を持った青年が、遺贈された財産で裕福な人生を送る・・・・、といった展開の方が面白かったと思います。しかし、ヴィクリア朝の道徳観が、そんなストーリーを許さなかったということも事実です。ブラック・ユーモアあふれた怪奇小説です。 』


「その12、森の中の宝」(宝探しテーマ)

 『 ある中国人が、無人島に金塊を隠します。中国人は、白人2人を誘い、お宝を回収に向かいます。中国人は豪語します。「誰も、オレの金塊を奪えない」 中国人は、白人2人を出し抜き、隠し場所に向かいます。しかし、白人の一人が追いついた時、既に亡くなっています。掘った痕があり、金塊が見えます。


 しかし、白人は手に違和感を感じます。なぜか、ぴりぴりします。もう一人の白人が着いた時には、立つことができなくなっています。やがて死んでいきます・・・・。もう一人の男も・・・・。猛毒性の棘を持つ植物の存在を暗示して、物語は終わります。猛毒の存在を知ったからこそ、中国人は隠し場所にしたはずです。どじな中国人です。 』


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。

第9375回「世界一優美なワイン選び その16、リベラ・デル・ドゥエロ その17、ポルト」

 第9375回は、「世界一優美なワイン選び その16、リベラ・デル・ドゥエロ その17、ポルト」です。ワインをめぐる旅も今回で終りです。最終回には、リオハに続いてスペイン・ワインとポルトガル・ワインの生産地が紹介されています。


「その16、リベラ・デル・ドゥエロ(スペイン)」

 リベラ・デル・ドゥエロは、シンデレラのように突如ワイン業界に現れた新星です。決して安いワインではありません・・・・(私は飲んだことがありません)。サブタイトルは、「世界の愛好家が熱狂するスペインの新星」と付けられています。


 アシャーは、先ず乳離れ前の子牛料理「コルデロ・レチャル・アル・ホヘロ」を肴に、リベラ・デル・ドゥエロを味わうところから語り始めます(ラストもこのエピソードで締めくくっています)。そして、この地域はカリフォルニアのナパに匹敵する大きさだと紹介します。


 そして、リベラ・デル・トゥエロ銘柄のワインの中でも突出しているのが、ベガ・シシリアだと強調します。100年以上続いているワイナリーですが、生産量は雀の涙程度、たまたま手に入ったとしても目が飛び出るほどの値段・・・・。至高のワインのようです。


 著者のアシャーは、この地域は古くて新しいと言います。ローマ帝国時代からの生産地であり、11世紀にはシトー派修道院によってワインが作られましたが、スペイン版のドミナシオン(産地認定)に登録されたのは近年(1982年)だったからです。


 アシャーは奇跡の生産地の立役者のひとりとして、アレハンドロ・フェルナンデスの名前を挙げます。さらに、アメリカで手に入るリベラ・デル・ドゥエロの生産者名を列挙し、最後に冒頭の子牛料理で締めくくりす。


 ところで、成獣のイルカを水族館向けに捕獲することと、乳離れ以前の子牛を屠畜し食することと、いずれが残虐なのでしょうか。欧米人との価値観との差は埋めがたいと言うのが実感です。最後にホームページ『WINES from SPAIN』から引用させていただきます。


 『 1982年に原産地呼称に認定されたリベラ・デル・ドゥエロはソリア、ブルゴス、セゴビア、バリャドリッドの各県にまたがリ、ドゥエロ河に沿った東西約120キロのあいだに広がる産地です。リベラ・デル・ドゥエロのワイン産地は、アランダ・デル・ドゥエロの町からとくに西の地域に広がり、地形は河の両側に高い丘が平行して連なる渓谷で、ぶどう畑は河に近い平地から丘陵の斜面に位置しています。


 大陸性の気候の影響を強く受け、夏は暑く乾燥しますが、夜には気温が下がり、冬には凍てつくような厳しい寒さが訪れます。・・・・ 以前からスペイン最高のワイン、ベガ・シシリアの産地として知られていたリベラ・デル・ドゥエロですが、1980年代前半のペスケーラの国際的な大成功によって、この産地名が内外で知られるようになりました。


 1980年代後半以降、この地域への関心がさらに高まり、外部から実業家や異業種の企業がリベラ・デル・ドゥエロに進出し始めました。現在もその動きはとどまることを知らず、品質を重視したぶどう畑の開墾や拡大、近代機器を導入した醸造所が次々に建てられています。


 この結果、リベラ・デル・ドゥエロは産地全体の品質の高さを認知され、欧米諸国への輸出も盛んになり、その名声は世界中へと広がり、今やリオハと並びスペインの高品質ワイン産地のリーダーとなっています。 』




「その17、ポルト(ポルトガル)」

 ポルトガルから紹介されているのは、ポルト(ポート)・ワインです。日本人にとっては、もっともなじみの深いワインかもしれません(写真はウィキペディアから引用)。


 『 ポートワインまたはヴィーニョ・ド・ポルトはポルトガル北部ポルト港から出荷される特産の酒精強化ワイン。日本の酒税法上では甘味果実酒に分類される。ポルト・ワインともいう。ポートワインは、まだ糖分が残っている発酵途中にアルコール度数77度のブランデーを加えて酵母の働きを止めるのが特徴である。


 この製法によって独特の甘みとコクが生まれる。また、アルコール度数は20度前後と通常のワインの10~15度に対し5~10度程も高く、保存性が非常に優れている。このためポートワインは一度封を切っても通常のワインのように急激な風味の劣化、変化が起こることはなく、またタンニンの多少によらず長期保存が可能である。


 ベースとなるワインはあちらこちらで作られているが、最終的に熟成する地域が指定されていて、そこで最低3年間、樽の中で熟成されたものだけが、ポートもしくはポルトと呼ぶことができる。 』(ウィキペディア)


 著者のアシャーが紙数を費やしているのが、ポルト特有のヴィンテージ・ポート制度です。シッパー(ワイン商)がロッジ(倉庫)に蓄えたポート(ポートワイン、港の意も)に対して、この10年のうちのワインはすごいぞ、と宣言する制度のようです(複数年の指定も可ですが、与える印象が薄くなります)。


 当然、ポルト・ワインのワイナリーとしても、この制度からの独立を目指す生産農家兼輸出業者(キンタ)が出てきます。ボルドーのように何年物のボルドーで十分ではないかとの主張です。そして、著者は、樽熟(たるじゅく)と瓶熟(びんじゅく)に敷衍します。


 そして、全17章を次の言葉で締めます。『 そういえば、「シンポジウム」の語義は「共に飲む」ことでしたっけ。 』(塚本氏訳)


(追記) 「世界一優美なワイン選び」について、過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"アシャー"と御入力ください。

第9374回「トリック 山田奈緒子関連本 その6、黒門島の伝説 ストーリー、ネタバレ」





 第9374回は、「トリック 山田奈緒子関連本 その6、黒門島の伝説 ストーリー、ネタバレ」です。今回で第1シーズンは終わりです。山田奈緒子の関連本「超天才マジシャン山田奈緒子の全部まるっとお見通しだ!」では、「第二章 華麗なる闘い①」に対応します。


 この第1シーズン最終話「黒門島」には、放送当時から正直不満を感じていました。


「黒門島(の真実)」(既に書いているブログから全文再掲)

 『 ドラマの冒頭、沖縄のシャーマン・ユタが紹介されます。ウィキペディアから、一部引用します(写真は、祈祷するユタです)。


 「 ユタはいわゆる霊能力者であるが、迷信と考える者も多い。だが、一般にユタの力は古くから広く信じられており、凶事に当たった場合や原因不明の病気、運勢を占いたいとき、冠婚葬祭の相談など、人が人知を超えると考える問題を解決したいときに利用される。・・・・ 」


 仲間由紀恵さんも、山田奈緒子も沖縄出身です。沖縄には、霊能力者、ユタが存在する、それが第1シーズン最終話の背景となっています。山田奈緒子も、超能力者でしょうか。


 山田奈緒子(仲間由紀恵さん)の父親・剛三は、15年ほど前、マジックの練習中に亡くなっています。水中から脱出しようとして失敗したのです。その父が、現われたのです。しかし、死んだ人が蘇るわけがありません。奈緒子が幼少期を過ごした"黒門島"の住人、黒津次男、黒津三男の策略でした。


 次男と三男は、いま島は死にかけていると言います。奈緒子の母・里見(野際陽子さん)がシャーマンとして島を守ってきたのですが、彼女が島を出た後、死滅しつつあると・・・・。そのために、奈緒子に島に戻ってくれと言うのです。しかも、島で一番でかい男・黒津元男と結婚してもらいたいと・・・・・。


 動揺した奈緒子は、長野の実家に戻ります。そこで、父親の手紙を見つけたのです。「私は最愛の者の手にかかって、殺されるだろう。やつらは、娘になにかをしたようだ」 何を意味しているのでしょうか。脱出用の鍵も入っていました。奈緒子は、島に行くことを決意します。そして、上田に別れを告げます(素直ではありませんが)。


 島に渡った奈緒子に結婚式が待ち受けています。このあたりは、多少下品です。いつまで待っても、"ネタバレ"表示ができません。最終話は、ミステリーではなかったのです。一方、上田の研究室を、奈緒子の母親が訪れています。


 島には、上田も、里見も、矢部警部補も来ています。奈緒子は、式の途中、上田に連れ出され、洞窟に隠されます。花婿に発見されますが、結婚を望んでいなかったのです。しかし、花婿は次男と三男に殺されます。彼らの狙いは、島に隠された財宝だったと言う展開です。


 次男と三男は、矢部に逮捕されます。そして、上田と奈緒子は、120年に一度現われるという財宝を探し当てます。その島は、120年に一度だけ、姿を現わす島だったのです。石碑があります。「後世のもの、よく聞け。なまじっかの財宝など身を滅ぼすだけだ」(私の記憶) 宝とは、教訓だったのです・・・・。島は沈みつつあります、船は出ています・・・・。


 消化不良な、どうしようもないエンディンクです。折角の第1話から第4話までが、台無しです。 』(以上再掲)



「山田奈緒子の視点」

 『 ちょっとばかり人より美人で、超売れっ子のマジシャンとはいえ、ごく普通の女の子だと思っていた私ですが、その人生はソーキ(数奇?)な運命に彩られていたことがわかりました。

 

 どんな不思議にもタネがあると主張してきた私ですが、この世には、手品のトリックでも科学でも解明できない、不可思議な出来事が存在しているのです。これから話すことは、うそくせーっと思われるかもしれませんが、すべて真実です。 』


 "私"は、黒津次郎、三郎の出現によって翻弄されます。敬愛する父親の死、そして、母親が黒門島でカミヌーリを勤めていたが、出奔したため、島が危機に瀕していることを、黒継兄弟は姑息なやり方で暴露しました。仕方なく、"私"は上田先生、ハゲの矢部と共に黒門島に行く破目になりました。


 島で聞かされたのが、嫁になれと言うことでした。超売れっ子マジシャンのこの"私"に・・・・。ですが、黒津兄弟の目的は、財宝の在り処にありました。本家筋に当る黒津太郎も殺しました。そんな中、父親を殺したのは、実は幼かりし日の"私"であったと聞かされたのです・・・・。


 今まで、"私"の父親は、水中での脱出イリュージョン中に、不慮の事故で亡くなったと聞かされていました。ところで、カミヌーリと言うのは、母親の里見、そして、"私"など、巫女的な霊能力者のことです(沖縄ではユタと呼ばれています)。


 もちろん、上田先生は黒津兄弟の謬説など一蹴しますが、"私"の心は晴れません。すったもんだの末に、黒津兄弟の陰謀は暴かれ、お裁きに掛けられることになりました。エヘヘヘッ。そして、120年に一度だけ潮が引き姿を現すという伝説の島「東の聖なる陸地」に行きました。


 あったのは、男性器を象(かたど)った石版でした。「後世の者たちへ  宝は争いの元になるのですべて処分せしものなり。貧しくとも清く生きろ。この言葉こそ、真の宝なり」(原文)、まったくの徒労に終わりました。


 結局、"私"にカミヌーリの力があったわけでもなく、宝もありませんでした。ですが、インチキは許せない、という想いはあらためて強く感じております(第2シーズに続く)。


(追記) 「トリック 山田奈緒子関連本」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"奈緒子関連本"と御入力ください。

第9373回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その7、マハラジャの財宝、その8&9、他2作、ネタバレ」

 第9373回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その7、マハラジャの財宝、その8、塀についたドア その9、ダイヤモンド製造家、ストーリー、ネタバレ」です。


「その7、マハラジャの財宝」(奇妙な味、ブラック・ユーモア)

 一読すると、その馬鹿馬鹿しさゆえに、一生忘れることのない短編です・・・・。便宜上、サブタイトルをつけさせていただきます。


『マハラジャが設置させた巨大金庫』

 ヒマラヤに近接するミンダボアを統治していたのが、マハラジャのラジャでした。この地域は、多宗教国家であったインドでもムスリムが支配的なエリアでしたし、ラジャ自身、敬虔なムスリムでした。そんなラジャが最近とみに蓄財に勤め始めたのです。兵士への給料の不払いに始まり、塩税、通行税などを次々と上げていきます。その富は想像を絶すると言われていました。


 そして、イギリス人商人に命じて作らせたのが、金庫室とも言うべき難攻不落の巨大金庫でした。謁見室の背後に作られた金庫から出て来た時には、財宝の輝きに圧倒されたのでしょうか、ラジャの顔が赤らんでいたと言われています。一日に一度は必ず金庫の中に入っていたようです。「マハラジャは毎日、財宝を数えに行かれるのだ」、もちろん、その噂は全インドに流布されました。


 ですが、金庫を開ける番号を知っているのはラジャだけでしたし、鍵を持つ者もラジャしかいません。ところで、次なるマハラジャの世襲者が従兄弟のアジム・カーン、ラジャを補佐する大臣がゴーラム・シャーでしたが、ラジャのやり方には反発を抱いていました。


 ただ、アジム・カーンとしては今ことさらに動く必要はありません。待っていれば、いずれラジャの死と共に、マハラジャのの地位は転げ込んでくるのですから・・・・。積極的に動いていたのが、ゴーラム・シャーでした。優柔不断なアジム・カーンの背中を押し、ついにクーデターに打って出ます。


『破れぬ金庫』

 追いつめられたラジャに止(とどめ)めをさしたのは、従兄弟のアジム・カーンでした。アジム・カーンは早速兵士たちに命じて、金庫を開かせようとしました。しかし、番号を知るのは死せるラジャのみ、鍵も見つかりません。工具で壊そうとしましたが、金庫はびくともしません。


 そして、爆薬を用意し、金庫の扉ごと吹き飛ばそうとしたのですがが・・・・。一方、一地方の反乱とは言え、大英帝国としても無視することはできません。送り込まれてきたのが副総督でした。まさしく爆破が行われようとしていた時に現地に到着したのです。


 副総督は迅速に対応します。アジム・カーンも血祭りにあげていたゴーラム・シヤーを逮捕させたのです。そして、問題は金庫です。開かない以上、最も手っ取り早い方法は、金庫を作った商人を呼びつけることでした。そして、金庫はついに開きます・・・・。


 あとわずかですが、以下、結末まで書きますので、ネタバレになります。


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 金庫室にあったのは、積まれたバーボン・ウィスキーの空き瓶の山でした。ムスリムの戒律は、厳しく飲酒を禁じています。そこで金庫室の中で飲み、空き瓶は金庫室の中に隠していたのです・・・・。


(蛇足) 巨万の富がウィスキーだけで消えたとは思えないのですが・・・・。いずこかに、未発見の財宝は隠されているのでしょうか。副総督の野望も、もちろん消えています。



「その8、塀についたドア」(異次元テーマ、ファンタジー)

 以下の2編は、既に書いているブログから再掲することにします。

 『 ある政治家に、人生の岐路ごとに現われるドアの物語です。最初に現われたのは、就学以前の子どもの頃です。彼は、緑色のドアの向こうに広がる秘密の庭園で不思議な体験をします。そして、(日本での)小学校、高校生の頃、二度現われるのですが、結局ドアを潜ることをしませんでした。


 彼は、常にそのドアのことが気になるのですが、現われるのは稀です。その後、主人公は政治家となります。この一年、3度ドアを見かけたのですが、結局中に入ることはありませんでした。彼は悔いています。ここまでが、彼が友人に話した話です。しかし、その後行方不明になり、そのドアを潜ったことを暗示して物語は終わります。余韻をひくストーリーです。 』


「その9、ダイヤモンド製造家」(リドル・ストーリー)

 『 人工ダイヤモンドが発明される以前の話です。ダイヤモンドを製造を可能にしたと自称するみすぼらしい男が、主人公のもとを訪れます。主人公は半信半疑です。2度ほど金を無心しますが、そのまま、その男は連絡が途絶えます。


 はたして、そのみすぼらしい男は、本当のことを語っていたのかという物語です。真実であれば、主人公は、大変なチャンスを逃したことになります。果たして・・・・。ダイヤモンドが黄金であれば、現代でも通用する話なのですが。 』


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。

第9372回「世界一優美なワイン選び その14、ソアーヴェ その15、リオハ」





 第9372回は、「世界一優美なワイン選び その14、ソアーヴェ(イタリア、ヴェネト) その15、リオハ(スペイン)」です。「世界一優美なワイン選び」、ワインの世界的生産地を巡る旅もあとわずかです。


「その14、ソアーヴェ(イタリア、ヴェネト)」

 「非個性からの変身、輝ける未来の幕開け」とサブタイトルされています。「ソアーヴェが店の片隅でたなざらしにされていたのは、そう遠い昔のことではない」、この章の冒頭で、著者のジェラルド・アシャーはそう語ります。良くも悪くも原産地呼称制度(DOC)は、イタリア・ワインに大きく影響を与えてきました。


 『 ソアーヴェ (Soave) は、イタリア・ヴェネト州のソアーヴェ村とその周辺などで生産される白ワインである。イタリア原産地呼称制度(DOC)下に指定されている41銘柄のひとつ。産地名である「ソアーヴェ」には、イタリア語で「気持ちいい」という意味もある。


 この地域固有のぶどう品種であるガルガーネガ種単独か、それにトレッビアーノ・ディ・ソアーヴェ種をブレンドして作られており、軽い辛口のさっぱりした味わいを特徴とする白ワインである。大量に生産されているテーブルワインであり、現地でのボトル価格は日本円で100円程度からと安価なものが大半である。


 1998年にDOCGワインに指定されたレチョート・ディ・ソアーヴェ (Reccioto di Soave) は、収穫したぶどうをいったん陰干ししてから醸造するもので、貴腐ワインによく似た独特の香りと、強い甘みを持ったデザートワインである。


 2001年にDOCGに昇格したソアーヴェ・スペリオーレ (Soave superiore) は、ソアーヴェの高級品で、辛口ではあるが深いこくがある。 』(写真と共にウィキペディアから引用)


 長々とウィキペディアから引用しましたが、アシャーもほぼこのとおりの展開で論を進めています。一時は労働者のワインであったと・・・・。そして、ソアーヴェの名門生産者として、アンセルミとピエロバンを紹介しています。


「リオハ(スペイン)」

 スペインからはリオハとレベラ・デル・ドゥエロが紹介されています。リオハに冠されたサブタイトルは、「樽(オーク)をくぐつて、グッド・バイブレーション」となっています。これまでの章とは大きく異なり、リオハ・ワインそのものにはさほど紙数を費やさず、樽のワインに及ぼす影響を大きく取り上げています。


 オークとはナラとかカシのことですが、ワイン用の樽に多用されています。その樽の香りがワインに独特な風味を与えます・・・・。そのことを著者は錬金術と呼びます。


 『 19世紀半ばにリスカル侯爵がフランスのボルドーから導入したオークの小樽による熟成方法がリオハの伝統として、今日までに根付いてきました。一般的はアメリカ産オークが使われ、伝統的に長い期間の樽熟成が行われてきました。


 1980年代末に始まったリオハの革新では、フレンチオークの小樽と樽熟成期間の短縮によってぶどう本来の果実味と骨組みを生かしたまま、瓶の中で品質をより洗練させようという生産者が増えてきています。


 それまではリオハの各地のぶどうをブレンドして生産することが一般的でしたが、最近は畑の地区、または畑そのものを限定する生産者もますます増えています。白ワインもフレッシュでフルーティなスタイルが増えてきました。


 しかし、一方では昔ながらの製法にこだわってワイン生産を続ける生産者もいて、リオハでは伝統と革新、どちらのスタイルのワインも共存しています。 』(ホームページ『WINES from SPAIN』から引用)


 「事実、上手な造りで長く寝かせ、樽熟をへたリオハに必ずや備わる魅力は、オークとワインの結びつきに懐疑的な人の眼を見開かせてくれるに違いない。こういうリオハには決まって馴染みやすさがあるが、赤ワインの常として、デカンタに移しておいたほうが、早く個性があらわれる」(塚本氏訳)、著者はそう締めくくりす。


(追記) 「世界一優美なワイン選び」もあと一回になりました。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"アシャー"と御入力ください。

第9371回「朝松健編 神秘界 その8、蛇蜜 松殿理央著 ストーリー、ネタバレ」





 第9371回は、「朝松健編 神秘界 その8、蛇蜜 松殿理央著 ストーリー、ネタバレ」です。中国の創世神話「女媧・伏義伝説」、古代中南米で広く信仰されていたケツァルコアトル、そして、クトゥルフ神話が織り込まれた80ページほどの伝奇小説です。


 『 女媧(じょか)とは、古代中国神話に登場する土と縄で人類を創造したとされる女神。笙簧の発明者。伝説の縄の発明者葛天氏と同じく伏羲の号に属するとされる説と、三皇の一人に挙げる説がある。姿は蛇身人首と描写される。姓は鳳姓、伏羲とは兄妹または夫婦とされている。 』(ウィキペディア)


 『 ケツァルコアトルの名は古代ナワトル語で「羽毛ある蛇」(ケツァルが鳥の名前、コアトルが蛇の意)を意味し、宗教画などでもしばしばその様な姿で描かれる。また、白い顔の男性とも考えられている。 』(ウィキペディア)


 そして、ここで語られるインディアンが信仰する「イグの子」、超能力を秘めた半人半蛇の存在・・・・。なお、A.メリットの「黄金の蛇母神」のカバー写真はイメージとして使っています。また、本文では章代わりにサブタイトルが表示されていますが、それとは別途にサブタイトルを使っています。80ページほどの伝奇短編小説です。


「その8、蛇蜜」松殿理央著

『プロローグ ある予言』

 「ジェイムズ・ジョンソン。おまえは1932年11月9日に死ぬ。そして息子はその1年後、上海で記録を受け取るだろう。そして偉大なる成就の日を迎えることになる。これは最後の予言だ。さあ、わが使徒よ。しかるべき日のために支度を整えるがいい」


 ある啓示を受けたジェイムズは、自らの死の1年後に、真実を記した日記を息子アルバートに託すことにしました。そして、最後に「蛇神イグ」を讃えます。ジェイムズは予言どおりに亡くなりました。


『死体を抱かせる妓楼、屍愛の館』

 ジェイムズの共同経営者であった李翻威(リ・ファンウェイ)は、ジェイムズの息子であるアルバートを上海の魔窟に誘い出します。屍体を抱かせる妓楼があると・・・・。アルバートはこれまで数知れぬほどの快楽を追及してきました。性愛だけでなく動物殺などは、父親の許可の元に幼少期から繰り返しています。


 そんなアルバートでしたが、母親の記憶は全くありません。アルバートが生れた直後に亡くなっていたからです。アルバートは幼少期から残虐な子どもでした。アルバートにはふたつの欠陥がありました。10月から12月にかけて、狂おしいほどに血を求めたのです。父親は人殺し以外なら何でも許可しています。


 そして、いまひとつの欠陥は短期記憶が消滅している時期がこれまでに何度もあったことです。父親とか、秘書から指摘されるまで、そのことには気づいていませんし、その記憶がよみがえることもありませんでした。自動車の中で、これまでの27年にわたる半生が脳裏が去来する中、ついにフランス租界の中にある妓楼に到着します。


 部屋に入る前に、李は告げます。「抱かせる死体は、私の娘・春華のものだ。ジェイムズとの約束に従い、あなたと春華は許婚の関係にあった」、そんな話は父親からも聞かされていなかっただけに、アルバートに疑念が生じます。ですが、李は信頼に足る人物であることに間違いはありません・・・・。


『幕間:父親ジェイムズの成功』

 ここで、ジェイムズと李の成功が語られます。ジェイムズは旧家の息子として生まれましたが、家は没落の一途をたどっていました。学生時代、ネクロノミコンなど魔道書などに凝り、論文「アメリカ大陸と東洋における蛇神崇拝について」を執筆しましたが、熱意のわりには、実に中途半端な内容に周しています。


 放浪の末に、突如故郷に戻ってきたジェイムズは大変な資産家に変貌していました。油田の開発に成功し、今やレトルト食品を扱う一大食品業界の雄に上り詰めていたのです。そして、彼の傍らには、常に李の存在がありました。


 時はまさしく大恐慌の時代です。ですが、何の実害もなく乗り切っています。そんなジェイムズでしたが、予言どおりに亡くなりました・・・・。


『蛇神イグの子』(ジェイムズの日記)

 死せる春華はまるで生きているようでした、実は仮死状態だったのです。そして、李はジェイムズの日記と手紙をアルバートに手渡します・・・・。そこに書かれていた事実はアルバートを叩きのめします。手紙には、物語冒頭に記された予言が書かれていました。


 そして、ジェイムズに振りかかった運命の出会いが、日記に綿々と認(したた)められていました。

1904年 6月 5日・・・・ かねて熱望していた平原インディアンとの接触を果たす。

       7月10日・・・・ この地は「イグの聖地」だが、族長からは詳細は語られず。

      10月 3日・・・・ イグの祭、開催される。

      10月10日・・・・ 負傷せし族長の娘を、"私"が縫合し、李の漢方薬によって手当てする。

      10月14日・・・・ 族長からイグの核心部分を聞かされる。「未成熟なイグ」は、成長するとひとまず人間の姿になるが、やがて半人半蛇となる。また、何らかの欠陥が存在する。その未成熟なイグが族長の娘であり、完治した娘はジェイムズと李が自分の夫と選ばれたと告げる。そして、やがて2個の卵を産むであろうと・・・・。


1906年 2月 8日・・・・ ジェイムズと李は、岩屋にて交互に娘と愛する。

       3月 8日・・・・ 約束どおり1ヶ月後に岩屋へ行くと、娘は2個の卵を産んでいた。族長は、"私"と李を秘密の地に連れて行き、好きなだけ黄金を持って行けと言う。そして、1個ずつ卵を持っていったんこの地を離れろと・・・・。卵が成長した暁には、ふたたびこの地に戻すことを、族長は約束させる。


 手帳に書かれた日記はここまででした。ですが、続きがあったのです。それでも、アルバートにはかなりのことが分かりました。自分が如何なる存在であるか・・・・。恐怖と好奇心が相半ばする中、続きを読み進めます。


1906年 5月15年・・・・ 2個の卵は孵化した。"私"の卵は雄、李の卵は雌だった。それぞれ、アルバート、春華と名付けられた。"私"の見ている前で蛇の姿から一気に人間の赤ん坊に変身したが、言葉もしゃべれた。


 そして、かの高貴なる赤ちゃん(春華)の口から予言として、黄金によって得た金でオクラホマのタルサ・ウィチタで石油を掘削しろとの指示があった。 一発で石油を掘り当て、さらに農園の買収も命じた・・・・。


 この後の日記では、李は春華を連れていったん中国に連れ帰ったことが書かれていました。そして、アルバートの成長ぶりも書かれていました。アルバートは、欠陥と思えた記憶が飛んでいる時期に、蛇神イグの予言を語っていたのです。そして、10月から12月にかけて血がたぎるのも「イグの子」ゆえだったのです。


 アルバートと仮死から覚めた春華は、半神半蛇に変貌を遂げます。やがて、イグの聖地に戻る時のために・・・・。


(お詫び) 書きかけの状態でアップしましたが、その際、ジェイムズとアルバートを混同して書いた部分が多数ありました。申し訳ありません。


(追記) 「神秘界」について書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"神秘界"と御入力ください。

第9370回「世界一優美なワイン選び その12、バルバレスコ その13、トスカーナ」

 第9370回は、「世界一優美なワイン選び その12、バルバレスコ(ピエモンテ) その13、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ(トスカーナ)」です。今回からイタリア編(全3章)に入ります。


「その12、バルバレスコ(ピエモンテ)」

 サブタイトルは「ワインの向うにパラダイスが見える」です。初読時、私にとって意外だったのが、イタリア・ワインのブランドとしての歴史が浅いと言うことでした・・・・。バルバレスコにしろ、バローロにしろ、今日のようなワインは19世紀前半以前には存在しなかった、とアシャーは語ります。


 話を戻し、著者は先ず、流行の料理には興味がないと切り出します。例として、ヌーベル・キュイジーヌとかケイジャン料理、タイ料理などを挙げています。そして、イタリア料理のストラコット(イタリア風ビーフシチュー)にぴったりのワインがバルバレスコだと断じます。


 『 バルバレスコ・ワインは、バローロと並んで、イタリアの最高級赤ワインの一つと言われる。 ワインの名称は生産地の一つバルバレスコから。

色 :   オレンジ色の反射のあるガーネット色

芳香   独特の芳香、エーテル臭、緑胡椒風、苦いアーモンドの種の香り

味わい  繊細で上品、こくがあり、スパイス風味  』(ウィキペディア)


 そして、イタリア・ワインの現代史を語るうえで欠かせない人物が、アンジェロ・ガイアとブルーノ・ジャコーザだと力説します。ガイアはバルバレスコを世界的なワインにまで押し上げ、ジャコーザのワインはベートーベンの交響曲に通じる世界観を持っていると激賞します。


 さらに、バルバレスコ生産者組合に属する多数の生産者の名前を挙げ、ワインの特徴を指摘していきます。仕事とは言え、飲んでる量がハンパじゃないと言うのが実感です。




「その13、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ(トスカーナ)」

 サブタイトルは「名にしおう優雅さを讃えて」となっていますが、実に長く凄いブランド名です。そのあたりの揶揄もあることは事実のようです。英語に訳せば「 noble wine of Montepulciano 」(モンテプルチアーノ村の高貴なるワイン)となります。自画自賛に過ぎれば当然バッシングされます・・・・。


 アシャーは、生産者パオラ・デ・フェッラーリ夫人から語り始めます。夫人は新参者としてモンテプルチアーノにやってきました。絶賛されるにつれ、現地のワイン業者からは快く思われませんでした。夫人は周辺に対しては低姿勢を取り、販路をトスカーナに求めず、海外への輸出と北イタリアの諸都市に求めました。


 ところで、アメリカ独立戦争の勝利に貢献したトーマス・ジェファーソンは、当時からモンテプルチアーノを高く評価していたようです。当時のアメリカは、幕末の日本が遣欧使節団をヨーロッパに派遣したように、ヨーロッパ各国から文化的長所を積極的に受け入れようとしていました。その際のエピソードのようです。


 フランスに比し、後発のイタリアが活路を求めたのが、DOCCなどの認定制度です。アシャーは、生産者の特性に紙数を費やしています。


(補足) モンテプルチアーノが属するトスカーナ州は、フィレンツェを州都とし、ピサとかシエーナも包含します。なお、州章はウィキペディアから引用しました。


(追記) 「世界一優美なワイン選び」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"アシャー"と御入力ください。

第9369回「トリック 山田奈緒子関連本 その5、ビックリ人間の正体 ストーリー、ネタバレ」





 第9369回は、「トリック 山田奈緒子関連本 その5、千里眼の男 ビックリ人間の正体 ストーリー、ネタバレ」です。


「千里眼の男(ビックリ人間の正体)」(既に書いているブログから全文再掲)

 『 今回の"枕"には、御船千鶴子をもってきています(写真はウィキペディアから引用)。帝大を巻き込んだ超能力事件に発展しました。マスコミのバッシングを受け、失意の内に、服毒自殺します・・・・・。


 「リング」貞子のモデルではないかと言われたこともありますが、プロットから考えましても、鈴木光司氏が主張していますように、直接の関係はないと思います。なお、仲間由紀恵さんも、映画化シリーズに出演していました。


 山田奈緒子(仲間さん)と言えば、"びんぼう"がすっかり定着しました。家賃の滞納は常習化しています。大家さんが持ってきたのは、一枚のチラシです。健康ランドで、びっくり人間大会が開催されると言うのです。その優勝者には、"伊香保温泉一泊旅行"が賞品となります。もちろん優勝すれば、大家の山田ハナとジャーミーが行くつもりです。


 会場は、浴衣姿のオヤジだらけです。特別審査員として上田次郎(阿部寛さん)も加わっています。「仕事を選べよ」、私も奈緒子の意見に同感です。奈緒子は、ボールの空中浮遊を演じますが、途中で糸が切れます・・・・・・。優勝したのは、"千里眼の男"桂木でした。


 桂木は、右眼に眼帯をしており、千里眼を発揮させる時、眼帯を上げます・・・・。客が書いた数字を、次々と当てていきます。上田が書いた四つの数字も当てました。さらに、奈緒子の部屋の間取りまでも当てたのです。桂木は、霊感商法まがいのビジネスを展開しています・・・・。


 極めて単純なトリックです。司会者がグルとなって、言葉を数値化していたのです。奈緒子の部屋の間取りが透視されたのは、宅配便の配達員が、奈緒子の部屋に入ったときに、観察した結果です。


 桂木のインチキを告発する老人の希望を受け入れ、上田と奈緒子は、桂木と対決します。奈緒子が絵を描き、間仕切り越しに桂木が、透視した内容を書くというものです。次々に当てていきます。そして、最後の絵を描きます・・・・・。


 今までと異なり、奈緒子の絵は、一旦伏せられます。桂木の絵は、"箸(はし)"です。おもむろに、奈緒子が絵を再度見せます(視聴者は、はじめて見ることになります)。


 "橋(はし)"でした。桂木のアシスタントを務めていた女性は、関西人です。桂木の装着したイヤーフォンに、絵の内容を伝えていたのです。イントネーションの違いが、桂木に箸の絵を描かせたのです。


 敏腕刑事・矢部警部補が、駆けつけます。車椅子の少年が、桂木に聞きます。「ぼく、なおらないの。死んじゃうの」、「おじさんはインチキだから、治らないさ」(記憶) このラストに、後味の悪さを感じた視聴者は多いようです。


 このエピソードは、1回完結となっています。しかし、印象に残るエピソードです。フッディーニは、かつてこう話しています、「トリックがあまりにも単純すぎたために、あなた方は見破れなかったのです」(私の記憶です) 』(以上、再掲)



「山田奈緒子の視点」

 ソーキ(数奇)な運命に翻弄される天才マジシャンの"私"は、大家のハナさんに唆(そそのか)され、健康ランドの「ラドン ビックリ人間コンテスト」に参加する破目になりました。進行役は大木凡人さんでした。ところが、あの上田次郎先生が審査員として加わっていたのです。


 「驚きは脳細胞に活力を与えます。ラッドーン!上田です」、仕事選べよ、上田! 出場者は実にくだらない人ばかりでした。伊香保温泉一泊旅行はもらった、と思った瞬間、"私"は空中を浮遊させていたボールを落としてしまいました。おまけに、眼帯に目を書いた男から、吊っていた糸を指摘されてしまったのです・・・・。


 この男こそ、"千里眼の男"桂木でした。優勝をかっさらいます。桂木の手口は、ホット・リーディングとコールド・リーディングを巧みに組み合わせたものでした。実に巧みに本人しか知りえない事実を、目の前の当人にぶつけています。


(蛇足) ここで、山田奈緒子はリーディング・テクニックについて詳述しています。「シーズン2 100%当たる占い師」で書いたブログから、そのテクニック部分を再掲することにします。

 『 詐欺師にしろ、いんちき霊能者にしろ、多用されるテクニックとして"コールド・リーディング"と呼ばれる手法があります。


 「お父さんは、亡くなっていませんね」と聞かれたとき、どう答えるでしょうか。私の場合は、「はい、40年ほど前、学生の頃、父を亡くしております」と答えるかと思います。では、健在だった場合はどうでしょうか。「はい、病気がちですが、長寿を謳歌しています」ぐらいの答え方をすると思います。


 「亡くなって、いない(存在しない)」と「亡くなって(は)、いない(否定)」の間には、わずかなイントネーションの差しかないのです。コールド・リーディングは、会話を通じて、相手を知るひとつのテクニックです。日本語表現に限らず、言語の持つ限界性を、最大限利用しています。


 ホット・リーディングは、もっと直接的です。事前に相手の情報を知る方法です。紹介者からの情報とか、時には探偵、待合室での会話など、多種多様です。当然、リーディングを行なうものには、思惑があるはずです・・・・。 』


 "私"は桂木のトリックが分かっているだけに悔しくってたまりません。しかも、桂木は千里眼占いを通じて霊感商法をやっていたのです。金の分銅なるものの売値は、安くても50万円、高いものになれば1000万円はくだりません。


 そんな桂木一味の事務所の前で、「こんなもん、買っちゃいかん」と怒鳴っていた鈴木老人の依頼で桂木のインチキを暴くことになりました。"私"はわざと「ハシ」のイントネーションの違いを利用して桂木のトリツクを暴いてやりました。


 ですが、矢部が桂木を逮捕した際、「ぼく、なおらないの?死んじゃうの?」と桂木に訊いていた車いすの少年の命は救えません。"私"は余りのやるせなさに足が止まります・・・・。


(追記) 「トリック 山田奈緒子関連本」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"奈緒子関連本"と御入力ください。

第9368回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その5、ブラウンローの新聞、その6、ほか1作、ネタバレ」

 第9368回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その5、ブラウンローの新聞、その6、イーピョルニスの島(エピオルニス島)、ストーリー、ネタバレ」です。


「その5、ブラウンローの新聞」(近未来、文明論的SF)

 ウェルズの一人称"私"で物語は語られます。便宜上、サブタイトルをつけさせていただきます。


『ブラウンロー氏に降りかかった椿事』

 「以下の話は説明のつけようのない奇妙な物語である」、ブラウンロー氏に何が起こったのか・・・・。ある日郵便ポストに配達された封筒に入れた新聞は、40年後の「1971年11月10日付」のものでした。あて先は、エヴァン・オハラあてになっていました。


 彼は一心に読みふけります。ですが、翌朝、その大切な新聞を家政婦が棄ててしまったのです。ブラウンロー氏の相談に預かったウェルズは、ごく一部残った新聞と氏の記憶に基づき、40年後の世界を再現しようと努めます。


『本編 来たるべき40年後の世界』

ウェルズがヒアリングからまとめた40年後の世界は次のとおりです。


1. ニュース・ネタとしての政治関連記事は掲載されていなかった。未来では政治に興味を失っている模様。また、ソ連とか、独仏関係、インドに関する記述もなかった。

2. 株式市況欄なども見かけなかった。経済にも興味を失っているようだ。

3. ブラウンロー氏が違和感を持ちながら読んだのが、「連邦議会」なる制度。

4. 内燃エンジンの時代は終わり、石炭掘削技術としてのボーリングにページを割いていた。

5. ファッション関係については、ブラウンロー氏自身の興味が希薄なため、記憶はあいまい。

6. 森林資源など、環境問題については関心が高く、地球温暖化への危惧なども掲載されていた。

7. 出生率の極端な低下、千人あたり7人(1931年当時は40人。日本の統計と単純比較はできませんが、日本の昨年の合計特殊出生率は1.43ですので、ほぼ同水準です)


 以上のことを聞き取りましたが、肝心の新聞がありませんので、ウェルズとしてもさらなる推論は不可能です。ところで、わずかに残った新聞紙から分析する限り、紙のベースにはアルミが使われていました。時間経過とともに劣化し粉末状になりました・・・・。


『エピローグ ウェルズの推論』

 ウェルズは、この騒動をこう推論します。時空を超えて、40年後のエヴァン・オハラに届けられる新聞がブラウンローに届けられ、ブラウンロー氏に届けられるはずの新聞が、今から40年後に間違いなくエヴァン・オハラに届けられるばずだと・・・・。これは、ウェルズの推理であり、予言です。





「その6、イーピョルニスの島(エピオルニス島)」(生物テーマ)

 創元版で既にブログに取り上げていますので、全文再掲することにします。


 『 ドードー鳥という、かつてモーリシャス島に存在した巨大な鳥がいました(絶滅種です。白人が羽を取るためだけに絶滅させたのです)。この物語では、著者はシンドバッドに登場すめロック鳥をイメージしています。孤島に取り残された船乗りが、3個の巨大鳥の卵を手に入れた話です。


 漂流中に、2個の卵は食べてしまうのですが、1個は孵化します。「ロビンソン・クルーソー」にちなみ、その鳥をフライデーと呼び、仲良く暮らすのですが、2年経った時、フライデーが急に凶暴化します。そのため、彼はフライデーを殺してしまいます・・・・。写真は、ウィキペディアから引用しています。 』


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。

第9367回「中咽頭癌、入院39~41日目、鼻づまりと副作用で、これほどまでの苦痛とは」

 第9367回は、「中咽頭癌、入院39~41日目、鼻づまりと副作用で、これほどまでの苦痛とは」です。ステロイド効果で、呼吸が格段に楽になった一方、月曜(22日)頃から顕著になった副作用に苦しめられている、と言うのが前回までの経緯でした。ところが、その夜、・・・・。38日目を再掲し、その後の経緯を書き加えることにします。


38日目、6月24日(水)・・・・ 『 副作用につきましては、午前中は現れず、ひとまず安心していたのですが・・・・。午後になって突如、牙を向いてきました。不愉快な眠気とかなりの吐き気、頭の中はぽわーとしてほとんど判断停止状態です。


 夕食も、おかゆは完食したものの、おかずはほとんど手を付けていません。転倒事故を起こしかねませんので、食後の散歩も入院後はじめて取りやめました。本日は早目に最後の喫煙(屋外)を済ませ、ベッドに入ろうと思っています。病人としては当たり前のことなのですが・・・・。 』(以上、再掲)


 水曜日はまだ終わっていませんでした。日付が変わる直前に突如目覚め、その後は眠れぬ一夜となりました。鼻づまりが原因で、まったく眠れなくなったのです。比較的楽な姿勢は、椅子に座ることでした。仕方なく、「新家の巨人」第1巻から読み直します。


 その間も、鼻づまりのため、口からのわずかな吸気でしのぎます・・・・。結局、目が覚めるまでの3時間の睡眠で、夜が明けるという結果になりました。


39日目、6月25日(㈭)・・・・ 夜勤担当の看護師にその旨を報告し、夜勤明けの引継ぎ後(10時ごろ)、主治医と相談し、朝晩2回、鼻づまりの薬を飲むことにしました(タリオン10)。


 『 この医薬品(タリオン10)はアレルギーの原因となるヒスタミンの受容体をブロックし、アレルギーの諸症状を緩和させる効果があります。花粉症の症状が発現する前から服用する事によって症状の発現を予防する効果をもつ医薬品になります。また花粉症だけではなく、じんましんや皮膚の痒みなどにも使用される薬となっています。 』(花粉症.com)


 最悪の状態で、早朝の散歩に出かけた時の出来事です。おまけに、昨夜から雨が振り続けています。最初に訪れたKの木神社でも、雨が非情にも境内に打ちつけていました。その縁側で雨宿りを兼ねて寝ていたのが、茶トラのノラネコでした。近づきますと逃げていきます。雨の中を屋根を伝いながら・・・・。

 

 ネコの寿命は15年、さらに、ノラネコの場合は2年にまで縮まるそうです。余命いくばくもない老人が罪なことをしてしまいました。はるか遠くから、二拝二拍一拝することも可能だったはずのですが・・・・。


 また、午前・午後を通じてMSコンチンの副作用に苦しみます。入院後、最高に苦しい一日になりました。副作用としては、船酔いをイメージすると分かりやすいと思います。頭が重く平衡感覚が失われ、歩いているとふらつきます。それに加え吐き気と不愉快な眠気です。そのため、食欲は限りなくゼロになっています。


 ところで、月曜日と木曜日はボランティアの日です。本日は、ホットプレートでたこ焼きを作って患者たちに振舞おうという「たこ焼きパーティ」を企画されていました。ひたすら感謝、という想いでいっぱいです。去る五月下旬には、ナースとの共同企画でR公園で花(菖蒲)を見に行こうという企画も実施しています・・・・。


 できるだけ起きていようと思っていましたが、MSコンチンとタリオンとの相乗効果で、結局8時過ぎには眠ってしまいました。深夜何度か目が覚めましたが、幸いそのまま眠りについていますので、最小限の苦痛で夜を過ごすことができました。


 なお、日中の散歩につきましては、歩くことよりも児童公園でのんびりする方向で臨みました。また、回数も減らしています。万一、入院中の患者が救急搬送されるような事態になりましたら、病院とか主治医だけでなく、担当ナースの責任にも発展しかねないからです・・・・。


40日目、6月26日(金)・・・・ 目が覚めたのは、4時半です。すっかり病院時間に繰り込まれてしまいました。二度寝はあきらめ、パジャマから普段着に着替え、日中モードに頭を切り替えます。その後、午前中、若干MSコンチンの副作用がありましたが、次第に順応していくのを感じます。もう出てほしくないものです。


 モルヒネ療法で誤解があるかもしれません。服用する患者本人にとって、ハイになるとか、幻覚を見るとか、トリップ感などは一切ありません。間違いなくあるのは頑固な便秘と眠気ぐらいです。直腸付近の感覚がなくなっているのがはっきりと感じられます。そのため、動ける間は、腸の蠕動運動を促すためにも、散歩を欠かさないように心がけています。ところが、今年の瀬戸内地方は、珍しく梅雨空の日が多くなっています。


 一方、鼻の苦しさは全治とはいきませんが、かなり緩和されています。週明け、あらためて主治医と相談したいと思っています。総じて、一昨日の夜からの苦しさからは解放されたと言うのが実感です。なお、気がかりなのが、連日の食欲減退のため、45キロを保っていた体重が、一挙に43.8キロまで下がったことです。文字どおり、デッドラインは40.0と考えているだけに不気味な落ち方です。


 今夜は頑張って10時まで起きていようと頑張ったのですが、やはり眠気には勝てませんでした。9時過ぎには寝てしまいました。


41日目、6月27日(土)・・・・ 平和な小康状態の一日でした。ですが、今週のささいな異変、鼻づまりと副作用がこんなにしんどい事態に発展するとは予想外な一週間になりました。仮に肺炎などになりましたら、一挙に・・・・、という事態になると思います。それも良し、と思える一週間でもありました。


 今晩も、極力10時まで起きていようと思います。


(追記) 決して愉快な内容ではありませんが、ブログテーマ「ガン日記」に興味がありましたらアクセスしてください。

http://ameblo.jp/s-kishodo/theme-10081936925.html